第V章 動詞(V)の転換


LESSON 22  V−N転換子(V-N CVT): to/-ing など

 22-1 [V−N転換子(V-N CVT) : to] 
 動詞(V)の前に to をつけ、to Vの形にすると、一種の名詞(N)
句として機能するようになることがあります。

   (1)a. To watch wild birds is my hobby.
      (野鳥の観察が私の趣味です)
     b. Art is my hobby.
      (芸術が私の趣味です)

 上で、(1a) の下線部は (1b) の Art という名詞(N)と文法的に入れ
換え可能で、一種の名詞(N)と考えられます。ところで、watch wild 
birds  が動詞(V)で、to watch wild birds が名詞(N)ということ
は、いわば、watch wild birds という動詞(V)に転換子(CVT) to が付
加され名詞(N)に変わったと考えられます。つまり、

   (2) to + V  N

 このような to を、この本では、「V−N転換子」(V-N CVT) の to と
呼ぶことにします。ちなみに、(1a)の下線部を樹形図で表すと次のように
なります。

   (3)  (to watch wild birds)
         N
        /  \
     CVT[V-N]  V
      (to)     (watch wild birds)

 このように名詞(N)となった toV は、名詞(N)が生じるほとんど
すべての環境に生じることができます。

   (4)  Dogs like to bury bones.
     (犬は骨を埋めるのが好きだ)
   (5)  The most important thing is not to win, but to take part.
     (最も大切なのは勝つことではなく、参加することだ)
   (6)  Our plan is to get there early and have lunch.
     (我々の計画はそこへ早めについて昼食をとる、というものだ)
   (7)  To know is one thing, to teach another.
     (知っているということと教えるということは別物だ)
   (8)  We had no choice but to give up the plan.
     (我々としてはその計画を断念するしかなかった)

 22-2 [ダミーの it]   cf. 25-9
 名詞(N)として働く to V が長く、重いと感じられる時には、しば
しば、代わりに「ダミ−の it」(dummy it) を置き toV を文末に置く次
の(9b)のような形が好まれます。

   (9)a.  To talk frankly is not always good.
     b.  It is not always good to talk frankly.
      (率直に話すのがいつも良いとは限らない)

類例としては、

   (10)  It's expensive to live in a big city.
      (都会で住むのはお金がかかる)
   (11)  It's our custom to get together once a year.
      (我々は年に一度集まることになっている)
   (12)  It took me a long time to solve this problem.
      (この問題を解くのに長い時間かかった)

また、次のような例では、it を使う形しか認められません。

   (13)a. I thought it better to talk frankly.
     b. *I thought to talk frankly better.
       (率直に話した方がよいと思った)

 22-3 [to+動詞(V)の複合拡充形Nの場合:to have Ven, 
    not to Vなど]
   単純な動詞(V)ではなく、拡充された動詞(V)句が転換子(CVT)の to により名詞(N)句に変わる場合もあります。    (14) The poor hate to be pitied by the rich.       (貧乏人は金持ちから憐れまれることを嫌う)    (15) I want to be sitting in the woods, listening to       a nightingale.       (私は森の中で座って小鳥の声に耳を傾けてみたい)    (16) It's a mistake to have left a little child alone.       (小さい子をひとり置き去りにしちゃったなんてひどい話だ)    (17) He told us not to be late.       (彼はわれわれに遅れないようにと言った) 例えば、(14) の下線部の樹形図は、    (18)  (to be pitied )           N          / \       CVT[V-N] V        (to) / \          EPD[PASS] V          (be-en) (pity the poor)  また、(17) の下線部の樹形図は、    (19)  (not to be late)           N          / \       CVT[V-N] V        (to) / \          EPD[NEG] V          (not) (be late)  ただし、拡充されたすべての動詞(V)句が to によって名詞化するわ けではありません。例えば、この to は、will、may など{法性}を表す 拡充子(MOD)を含む動詞(V)句とは共起しません。    (20)a. *to will go      b. *to may come  22-4 [V−N転換子(V-N CVT): how to, where to など]   ひとつの動詞(V)が、how to など WH語をともなう to によって名詞 (N)に転換される場合もあります。    (21) The problem was how to make a fire.       (問題はどうやって火をおこすかであった)  この本では、(21)の下線部は次のように生み出されると考えます。    (22) how to + [make a fire somehow]             ↓ Step 1: WH語をsomehowへ代入         to + [make a fire how]             ↓ Step 2: WH語を先頭へ移動(空所発生)            [how to make a fire ]  つまり、(21)の下線部は、make a fire somehow という動詞(V)句に how to というV−N転換子(V-N CVT)が付加されて生まれたと考えるの です。樹形図は、    (23)  (how to make a fire )           N          / \       CVT[V-N] V       (how to) (make a fire somehow)  類例としては、    (24) I didn't know what to do next.       (私は次に何をすべきかわからなかった)    (25) I didn't know when to stop it.       (私はいつそれを止めたらいいのかわからなかった)    (26) I didn't know where to go first.       (私は最初にどこへ行ったらいいのかわからなかった)    (27) I didn't know which to take.       (私はどちらをとったらいいのかわからなかった)  22-5 [for+NA]   名詞(N)として働く to Vに「〜が/は」(動作主や主題)の意味を 加えたい時にはfor Nの形を加えます。    (28) It is very hard for a high school dropout to get a job.       (高校を中退した者が職を見付けるのは大変だ)  上で、for a high school dropout は、to get a job という名詞(N) 句を拡充していますので、a high school dropout という名詞(N)から 作られた一種の形容詞(A)と考えられます。したがって、(28) の下線部 の樹形図は、    (29) (for a high school dropout to get a job)              N            / \           A N         / \ / \       CVT[N-A]  N CVT[V-N]  V       (for)(a h.s.d.) (to) (get a job)  類例としては、    (30) For the working class to own a car was something       unbelievable before the war.       (戦前は、労働者階級が車を持つなんて夢物語だった)    (31) What I want is for you to go there yourself.       (私がして欲しいのは、君自身にそこへ行ってもらうことだ)    (32) It is impossible for there to be any animal on the moon.       (月に生物がいるなんてあり得ない) cf.23-9  ただし、この for N という形が義務的に消える場合があります。    (33)a. *I like for me to sing in the bathtub.      b. I like to sing in the bathtub.        (私は風呂の中で歌うのが好きだ)  上の例で言えば、singする名詞(N)と、likeする名詞(N)が同じも のを指す場合です。(33a)では、I と me との間に重複が残っているため 非文となり、(33b)では重複部分の for me が削除され消えているため文 法的とされる、と考えられます。この本では、まず、(i)I と me との重 複によりmeが消え(重複ル−ル#3)、次に、(ii)主形態素の me を失っ た副形態素の for が消える、という順序で (33a) から (33b) が生まれ ると考えます。  類例としては、    (34)a. *I told him for him to come back soon.      b. I told him to come back soon.        (私は彼に(彼が)すぐに戻るようにと言った)    (35)a. *I promised him for me to come back soon.      b. I promised him to come back soon.        (私は彼に(私は)すぐに戻ると言った)  22-6 [VZ++N+toV]   ただ、want, expect などの動詞化子(VZ)の後では、for N to Vの うちN−A転換子(N-A CVT)の for が消えNの部分だけが残ります。    (36) I want you to come back soon.       (私はあなたにすぐに戻ってもらいたい)  N−A転換子(N-A CVT)の for が消えているということは、見方を変 えればOM-NI転換子(OM-NI CVT)のがついているということになります ので、(36)の want 以下の樹形図は次の(37)のようなものになると考えら れます。    (37) (want you to come back soon)            V          / \         VZ     N        (want) / \            A N          / \ / \        CVT[OM-NI] N CVT[V-N] V         () (you) (to) (come back soon)  類例として、    (38) I forced him to go there.       (私は彼に無理やりそこへ行かせた)    (39) I believed him to be innocent.       (私は彼が無実だと信じた)    (40) I don't want you to be laughed at by anyone.       (私はおまえが誰からであれ笑われて欲しくないのだ)    (41) I'd advise you not to invite her.       (私は彼女は招待しないほうが良いと思う)  22-7 [VZ + + N++V]   「使役」を表す make, let などの後や、「知覚・感覚」を表す see, hear, feel などの動詞化子(VZ)の後では、for N to V のうち for だけでなく to までもが省かれます。    (42)a. *I made for him to go.      b. *I made him to go.      c. I made him go.        (私は彼に行かせた)  (42c)の当該部分樹形図は、    (43) (made him go)           V         / \        VZ N       (made) / \           A N         / \ / \       CVT[OM-NI] N CVT[OM-NI] V         ()  (him)  () (go)  類例としては、    (44) Please let me do that.       (どうか私にそれをやらせて下さい)    (45) I saw him walk across the road.       (私は彼がその道を横切るのを見た)    (46) We heard something fall onto the floor with a thud.       (我々は何かが床にドサッと落ちる音を聞いた)    (47) I felt something cold touch me on the shoulder.       (私は何か冷たい物が肩に触れるのを感じた)    (48) We were all listening to the teacher read the textbook.       (我々は先生が教科書を読むのを聞いていた)  22-5 の for N の消滅については、「重複を避ける」という、言語に 一般的な性質から説明できますが、22-6 の for の消滅と、22-7 の for と to の消滅については、長い英語の歴史の中でどのようなモチベーショ ンで起こったのかまだくわしいことはわかっていません。  22-8 [V−N転換子(V-N CVT): -ing]   to 同様、動詞(V)に 転換子(CVT)の -ing をつけても、一種の名 詞(N)として機能するようになることがあります。    (49)a. I like watching wild birds.        (私は野鳥の観察が好きだ)      b. I like wild birds.        (私は野鳥が好きだ) つまり、    (50) V+ -ing  N  このような -ingを、この本では、「V−N転換子」(V-N CVT)の -ing と呼びます。(49a)下線部の樹形図は、    (51) (watching wild birds)            N           / \        CVT[V-N]  V         (-ing) (watch wild birds)  類例としては、    (52) They enjoyed playing tag.       (彼等は鬼ごっこを楽しんだ)    (53) Shaking hands is an old custom.       (握手は古くからの慣習です)    (54) I'm looking forward to seeing you again.       (またお会いできるのを楽しみにしております)    (55) How about taking a coffee break for a while.       (ちょっとコーヒー一杯の休憩をとりませんか)    (56) On leaving school, he went into business.       (学校を出るとすぐ、彼はビジネス界に身を投じた)  22-9 [紛らわしい2つのVing形(i)]   cf. 24-5  次の2つの下線部を比べてみましょう。    (57)a. My hobby is collecting stamps.        (私の趣味は切手を集めることです)      b. My brother is collecting stamps.        (私の兄弟は切手を集めています)  (57a)の下線部は、V−N転換子(V-N CVT)-ing と動詞(V)collect stamps の組み合わせから、また、(57b)の下線部は、V拡充子(V EPD) be-ing と動詞(V)collect stamps の組み合わせから生み出されたもの です。それぞれの樹形図は、    (58) (collecting stamps)           N          / \        CVT[V-N] V         (-ing) (collect stamps)    (59) ((is) collecting stamps)           V          / \        EPD[PROG] V        (be-ing) (collect stamps)  この本では、(57a) の下線部は、動詞(V)からV−N転換子(V-N CVT) -ing により生み出された名詞(N)句、(57b) の下線部は動詞(V)の拡 充形の一部、ということになります。  22-10 [-ing+動詞(V)の複合拡充形Nの場合: being Ven,
     having Ven など]
   単純な動詞(V)ではなく、拡充された動詞(V)句がV−N転換子 (V-N CVT)の -ing により名詞(N)句に変わる場合もあります。    (60) I knew for the first time the happiness of loving and       being loved.       (私は初めて愛し、愛される喜びを知った)    (61) Not dressing warmly in winter can result in catching a       bad cold.       (冬、暖かい格好をしないとひどい風邪を引いてしまうこと        がある)    (62) Jane's ashamed of having broken her promise again.       (ジェ−ンはまた約束を破ってしまったことを恥じている)    (63) I can't stand being laughed at. (デク, p.706)       (私は人に笑われるというのが耐えられない)    (64) He regretted not having been a good son.       (彼はこれまで良い息子でなかったことを後悔した)    (65) He is very proud of having been educated in England.       (彼は英国で教育を受けたことをとても誇りにしている)  この時、例えば (60) の下線部の樹形図は次のようなものとなります。    (66)  (being loved )           N          / \       CVT[V-N] V        (-ing) / \          EPD[PASS] V           (be-en) (love me)  22-11 [N+ -'s A]   Ving に「〜が/は」(動作主や主題)の意味を加えたいときには N's の形を加えます。    (67) I'm proud of my son's attending a good school.       (私は息子がよい学校へ行っているのが自慢だ)  この時、(67) の下線部の樹形図は、    (68)  (my son's attending a good school)             N           / \         A N        / \   / \      CVT[N-A] N CVT[V-N] V      (-'s) (my son) (-ing) (attend a good school)  一方、次のような例では、2つの名詞(N)の間に重複が残っている (69a)は不可となり、重複部分の my が消えた (69b) は可となります。    (69)a. *I'm proud of my attending a good school.      b. I'm proud of attending a good school.        (私は良い学校へ通っているのが誇りです)  この時、(69b)下線部の樹形図は、    (70)  ( attending a good school)             N           / \         A N        / \   / \      CVT[N-A] N CVT[V-N] V      (-'s→) (I→) (-ing) (attend a good school)  ここでは、重複ル−ル #3 の働きで重複名詞(N)の I が消え、主 形態素を失った副形態素の -'s が消える、ということになります。  22-12 [N's Ving vs N Ving]   次の2文を比べてみましょう。    (71)a. I don't mind John's smoking in my room.        (私はジョンが私の部屋でタバコをすうことを気にしない)      b. I don't mind John smoking in my room.        (私はジョンが私の部屋でタバコをすうことを気にしない)        (私は私の部屋でタバコをすうジョンは気にならない)  (71a)の下線部の構造は簡単で、次のようなものと考えられます。    (72)  (John's smoking in my room)             N           / \         A N        / \   / \      CVT[N-A] N CVT[V-N] V       (-'s) (John) (-ing) (smoke in my room) 一方、(71b)の方は複雑で、次のような2つの構造を持ち得ると考えられ ます。    (73)a. (John smoking in my room)             N           / \         A N        / \   / \      CVT[OM-NI] N CVT[V-N] V       () (John) (-ing) (smoke in my room)    (73)b. (John smoking in my room)             N           / \          N A         (John) / \            CVT[V-A] V             (-ing) (smoke in my room) (73a) では、OM-NI転換子(OM-NI CVT)のが、形容詞(A)の John を 生み出しており、(73b) では、名詞(N)の John が V−A転換子(V-A CVT)の -ing (cf.24-4) によって生まれた smoking in my room という 形容詞(A)句を従えています。言い換えれば、(73a) では、 mind する のが smoking in my room という「行為」であり、(73b) では、Johnとい う「人間」となっています。つまり、(71b) の下線部は2つの構造を持ち、 従って意味的にも微妙なニュアンスの違いを持つあいまいな文(S)だと いうことになります。  22-13 [名詞(N)的用法の to V と Ving]   to VとVingは、同じく動詞(V)から生まれた名詞(N)ですが、同 じ名詞(N)としていつでもどこでもまったく同じ様に使われるというわ けではありません。例えば、動詞化子(VZ)の後に来る場合だけに限って も、      (i) toVだけを従える動詞化子(VZ)    (74)a. He tends to boast.      b. *He tends boasting.        (彼はほら吹きだ)    (75)a. She wished to go to college.      b. *She wished going to college.        (彼女は大学へ行きたいと切望した)    (76)a. The president expects to attend the meeting.      b. *The president expects attending the meeting.        (大統領はその会に出席するつもりである)      (ii) Vingだけを従える動詞化子(VZ)    (77)a. I enjoyed skiing.      b. *I enjoyed to sky.        (私はスキ−を楽しんだ)    (78)a. Looks like she avoids seeing me.      b. *Looks like she avoids to see me.        (どうやら彼女は私に会うのを避けているようだ)    (79)a. We all finished reading the book.      b. *We all finished to read the book.        (我々はみなその本を読み終えた)     (iii) toV/Vingどちらも従える動詞化子(VZ)    (80)a. I intend to quit my job.      b. I intend quitting my job. (デク, p.700)        (仕事をやめようとおもっています)    (81)a. Dad likes to sleep late on Sundays.      b. Dad likes sleeping late on Sundays.        (パパは日曜の朝寝が好きだ)    (82)a. I don't bother to do such a thing.      b. I don't bother doing such a thing.  (デク, p.700)        (私はわざわざそこまでする気はありませんよ)  同じ名詞(N)として使われる to V と Ving ですが、両者には微妙 な意味の違いがあると考えざるを得ません。この意味の違いについて、多 くの文法家がいろいろの解説を試みていますが、現時点で最も一般的な説 明は、to V は未来、未遂を表し、Vingは現在・過去、既遂を表す傾向 があるというものです。    (83)a. I forgot to lock at the door.        (ドアのカギを閉めないといけないのを忘れていました)      b. I forgot locking at the door.        (ドアのカギ、一度閉めたのをすっかり忘れていました)    (84)a. He tried to write to her, but he couldn't.        (手紙を書こうとしたができなかった)      b. He tried writing to her, but she did not reply.        (手紙を書いてみたが、返事は来なかった)  ただし、この説明には反例もあり、異議を唱える文法家もいます。

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