第VI章 文(S)の転換


LESSON 26  S−AD転換子(S-AD CVT): because など

 26-1 [S−AD転換子(S-AD CVT):because] 
 基本文(K-S)の前に、例えば、because をつけ、because + K-S の形
にすると、一種の副詞(AD)として機能するようになります。

   (1)a.  I overslept.
      (私は寝坊をした)
     b.  Because I overslept, I missed the train.
      (私は寝坊をしたので、電車に乗り遅れた)
     c.  Unfortunately I missed the train.
      (残念ながら、電車に乗り遅れた)

 (1b) の下線部は、(1c) の下線部と入れ替え可能で、基本文(K-S)の
(1a)が転換子(CVT)の because によって一種の副詞(AD)に転換さ
れた例といえます。つまり、

   (2)  because  +  K-S   AD

このような転換子を、この本では、「S−AD転換子」(S-AD CVT)の
because のように呼びます。(1b)下線部の樹形図は、

   (3)  (because I overslept)
           AD
           /  \
        CVT[S-AD]   K-S
        (because)  (I overslept)

 ここで、上の because によって基本文(K-S)から作られた副詞(AD)
には次のような特徴がありますので、

    (i)  名詞(N)+動詞(V)の構造がある。
      (したがって、PRS/PST が存在する)
    (ii)  文(S)の一部を構成している。
   (iii)  一種の副詞(AD)として働いている。

 このような形をこの本では「副詞(AD)節」(adverbial clause)と
呼びます。

 26-2 [その他のS−AD転換子(S-AD CVT):after, when など] 
 上の because 以外にも、次のようなS−AD転換子(S-AD CVT)が存
在します。これらは、時、場所、原因・理由、目的、結果・程度、条件、
譲歩、様態、制限・範囲、付帯状況などを表します。

   (i) <after>
   (4)  I received a letter three months after she left.
     (彼女が去って3ケ月後、手紙が来た)

   (ii)<as>
   (5)  Light is refracted as it passes through a lens.
     (光はレンズを通る時屈折する)
   (6)  As it grew darker, it became colder.
     (暗くなるにつれ、寒くなった)
   (7)  Everything is going as I expected.
     (万事、期待した通りに行っている)
   (8)  As Dex is honest, everybody likes him.
     (デックスは正直者なので、誰からも愛されている)
   (9)  Poor as we are, we are not unhappy.
     (我々は貧乏だが、不幸せではない)

  (iii) <before>
   (10)  I had counted 22,576 sheep before I fell asleep.
     (私は眠りに落ちる前に22,576頭まで羊を数えた)

   (iv) <if>
   (11)  If you have any questions, please don't hesitate to ask.
     (もし何かご質問がおありでしたら、どうぞご遠慮なく)
   (12)  We'll finish it, if it takes us all day.
     (丸い一日かかっても、我々はそれを片付けます)

   (v) <since>
   (13)  Since I was a child, I've enjoyed taking things apart
      and putting them back together again.
     (子供の頃から、私はなんでもバラバラにして、また元にも
      どすのが好きでした)
   (14)  Since you're no longer a child, you should know better.
     (もう子供じゃないんだから、もう少ししっかりしてくれな
      きゃ)

   (vi) <though/although>
   (15)  Though/Although I live near the sea, I can't swim.
     (海のそばに住んでますが、泳げません)

  (vii) <when>
   (16)  When I was watching television, the telephone rang.
     (テレビを見ていると、電話が鳴った)
   (17)  How can you pass the exam when you don't study?
     (勉強しないでおいてどうして試験に受かるって言うの)

  (viii) <while>
   (18)  A Mr.Goodrich called you while you were out.
     (お留守中にグッドリッチさんという方がお見えでした)
   (19)  We throw away tons of leftovers every day in Japan, while
      in other countries many are dying of hunger.
     (日本じゃ毎日何トンもの食べ残しが捨てられているのに、他
      の国じゃ多くの人が飢えで死んでいる)

   (ix) <その他>
   (20)  Until/Till the steamboat came, the Mississippi was a 
      one-way river -- downstream.
     (蒸気船が来るまではミシシッピー河は一方通行だった、つま
      り、上流から下流への)
   (21)  I'm lucky that my wife is such a good cook.
     (かみさんが料理上手で私は幸せ者です)
   (22)  Now you're here, you'd better stay.
     (折角来たんだから、もう少しいたら)
   (23)  Once he makes a promise, he never breaks it.
     (一度約束したら、彼は決して破りません)
   (24)  Whenever she goes out, she changes her clothes.
     (彼女は出かけるたびに服を替える)

 26-3 [S−AD転換子(S-AD CVT)とN−AD転換子(N-AD CVT)] 
 S−AD転換子(S-AD CVT)の中には、N−AD転換子(N-AD CVT)と
形を同じくするものもありますが、

   (25)a.  That actress has not appeared on TV since she retired.
      (その女優は引退して以来、テレビに出ていない)
     b.  That actress has not appeared on TV since her 
       retirement.
      (その女優は引退以来、テレビに出ていない)
   (26)a.  We'll wait until he arrives.
      (我々は彼が到着するまで待ちます)
     b.  We'll wait until his arrival.
      (我々は彼の到着まで待ちます)

 一方、この2つで形の異なるものもあります。

   (27)a.  He failed in the exam because he was lazy.
     b. *He failed in the exam because of he was lazy.
      (彼はなまけ者だったので試験に失敗した)
   (28)a.  He failed in the exam because of his laziness.
     b. *He failed in the exam because his laziness.
      (彼は怠けぐせのおかげで試験に失敗した)

 26-4 [S−AD転換子(S-AD CVT)のif と S−N転換子(S-N CVT)
    のif]
   副詞(AD)節をつくる if と名詞(N)節をつくる if とは、形が同 じですが意味と機能はおおいに異なります。次の2文を比べてみましょう。    (29) If he comes back, I'll tell you. (S-AD CVT)      (もし彼が戻ったら、そう言いますよ)    (30) I wonder if he will come back. (S-N CVT)      (彼は戻るつもりかしら)  樹形図はそれぞれ、    (31) (if he comes back)          AD          / \       CVT[S-AD] K-S        (if) (he comes back)    (32) (if he will come back)           N          / \        CVT[S-N] K-S         (if) (he will come back)  if が「未来の名詞(N)節」を表す時には willが使われ、「条件の副 詞(AD)節」の時には will は使われず現在形が使われることに注意し ましょう。  26-5 [かたまり転換子と飛び石転換子]   S−AD転換子(S-AD CVT)の中には、1語ではなく2語以上からなる 句レベルのものもあります。これらはひとかたまりになっている、いわば、 「かたまり転換子」(chunk convertor) とバラバラに離れている「飛び石 転換子」(stepping-stone convertor) に分けられます。    (i) <かたまり転換子> (chunk convertor)    (33) The moment she touched him, he turned into stone.      (彼女が彼に触れたとたん、彼は石になった)    (34) She talked as if she knew him.      (彼女はあたかも彼のことを知っているかのように話した)    (35) Many countries participate in the Olympic Games       every time they are held.      (多くの国々はオリンピックが開かれる度に参加している)    (36) As far as mathematics is concerned, no one in the class       can match him.      (数学に関する限り、彼にかなう者はいない)    (37) His mother loved him the more because he was stupid.      (彼の母は彼が賢くないのでなおさら彼を可愛がった)    (ii) <飛び石転換子> (stepping-stone convertor)    (38) The pizza was so hot that nobody could eat it.      (そのピザはあまり熱くて誰も食べられなかった)    (39) I practiced very hard so that I might win the race.      (競争に勝てるようにと一生懸命練習した)    (40) As lungs are to animals, so are leaves to plants.      (肺と動物との関係は植物の葉とその植物との関係に同じ)    (41) The higher up in the air we go, the colder it becomes.      (空中高く昇れば昇る程空気は冷たくなる)    (42) This job isn't as easy as you think.      (この仕事は君が思う程易しくはないよ)  26-6 [S拡充子{非現実}(Subjunctive) :SUBJ]   次の2つの文を比べてみましょう。下線部はともに基本文(K-S) がS− AD転換子(S-AD CVT)の if により副詞(AD)節に変えられた例です が、この2つの if 節には微妙な意味と用法上の違いがあります。    (43) If it rains tomorrow, I will stay home.      (もし明日雨なら、家にいます)    (44) If I were you, I wouldn't do that.      (もし私があなたなら、そんなことはしないでしょうに)  上の2つを注意深く比べてみると、次のようなことがわかります。    (i) 形の違い     1) (43)は現在形(rains)     2) (44)は過去形の一種(were)    (ii) 意味の違い     1) (43)の「もし」(if)は可能性50%。      (ふつう「条件のif」(conditional if)と呼ばれます)     2) (44)の「もし」(if)は可能性0%。      (ふつう「非現実のif」(subjunctive if)と呼ばれます)  この時、(44)の下線部には{実はそうではないが}という非現実を表す 意味が加えられており、しかもそれを表す形として動詞(V)が「過去形 に似た形」をとっていることに注目しましょう。  ここで、この{非現実}という意味を文(S)に加える拡充子を「S拡 充子{非現実}」(S EPD {Subjunctive} )あるいは SUBJ と呼ぶことに しますと、この S拡充子 SUBJ の操作は具体的には、     <S拡充子 SUBJ の操作>     Step 1. 動詞(V)の時制をひとつ(+1)「過去」にずらす となります。また、 (44) の下線部の樹形図は次のようになります。    (45)  (if I were you)         AD         / \      CVT[S-AD] S       (if) (I were you)            / \         EPD[SUBJ] K-S              (I am you)  26-7 [過去の{非現実}]   過去のある時点における{非現実}は、次のような形で表されます。    (46)       easily.       (もし我々に良い地図があったら、簡単に近道を見付けられた       のに) 動詞(V)句の左端部分が、    と2段階に変化していることに注目しましょう。2つの意味、{非現実} と{過去}を加えるため、動詞(V)句の左端部分(have と can find) それぞれに2つの操作 (+2) が加えられたと考えられます。  類例としては、    (47) If the parents had been more careful, the tragedy would      have been prevented.      (親がもう少し慎重だったら、そんな悲劇は避けられたのに)    (48) If it had not been for your advice, I might have failed.      (もしあなたのアドバイスがなかったら、私はしくじっていた       でしょうに)  このほか、次のような変わった例もあります。    (49)       land.      (あの時あの土地を買っていたら、今ごろは億万長者なのに) (49)では、would be が{非現実}のみを、had bought は{過去}と{非 現実}を表しています。したがってこの文は、「過去のある時、買ってい たなら(買わなかったのだが)、今ごろは〜となっているのに」という意 味になります。  26-8 [名詞(N)節、形容詞(A)節の中の SUBJ]   {非現実}を表す SUBJ は、if に導かれた副詞(AD)節だけでなく、 名詞(N)節や形容詞(A)節の中にも生じることがあります。    (50) I wish I were a bird.      (私が鳥ならなあ)    (51) She looked as if she had seen a ghost or something.      (彼女はあたかもおばけか何かを見たかのようであった)  上記2つの下線部の樹形図は、それぞれ、    (52) ( I were a bird)          N         / \      CVT[OM-NI] S       ( ) (I were a bird)            / \          EPD[SUBJ] K-S               (I am a bird)    (53) (as if she had seen a ghost or something)          A         / \       CVT[S-A] S       (as if) (She had seen a ghost or something)            / \          EPD[SUBJ] K-S               (She has seen a ghost or something)  26-9 [語や句を作用域とする SUBJ]   {非現実}の拡充子 SUBJ は、文(S)に加えられるだけでなく、語や 句に加えられることもあります。 SUBJ は、本来S拡充子で、文(S)全 体を作用域とすることが多いのですが、NEG や Q など他のS拡充子の場 合同様、語や句など狭い作用域を持つ場合もあるのです。ただし、SUBJ が 語や句に加えられる時は、形の上での変化はもたらしません。語や句には 動詞(V)部分が存在しないからです。  したがって、語や句の場合にはそれ自体では単なる{条件}を表すのか、 {非現実}を表すのか、あるいは、{過去}を表すのか{現在}を表すの か区別ができません。したがって、次のような場合には、同じ句が3つの 読みを持つこととなります。(「過去の条件」は使われません)    (54)a. Without your help, I can not do it. (現在の条件)       (今あなたの手助けが得られなければ私はそれができません)      b. Without your help, I could not do it.       (今のあなたの手助けがもしなければ私はそれができないで        しょうに) (現在の非現実)      c. Without your help, I could not have done it.       (あの時のあなたの手助けがなかったなら、私はそれができ        なかったでしょうに) (過去の非現実)  26-10 [倒置による if の省略]   {非現実}を表すifが、「倒置」によって表わされることがあります。    (55)a. If it were not for the sun, nothing could live.      b. = Were it not for the sun, nothing could live.        (もし太陽というものがなかったなら、何も生きられない)    (56)a. If he had been born twenty years earlier, he would        have been successful.      b. = Had he been born twenty years earlier, he would have        been successful.        (もう20年早く生まれていたら、彼は大成功をおさめてい         たでしょうに)

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