第VI章 文(S)の転換


LESSON 25  S−N転換子(S-N CVT): that/if など

 25-1 [S−N転換子(S-N CVT): that] 
 基本文(K-S)の前に that をつけ、that + K-S の形にすると、一種の
名詞(N)として機能するようになります。

   (1)a.  Bill told a lie.
      (ビルはウソをついた)
     b.  I know that Bill told a lie.
      (私はビルがウソをついたのを知っている)
     c. I know the news.
      (私はそのニュースを知っている)

 (1b)の下線部は、(1c)の下線部 the news と入れ換え可能であり、名詞
(N)であるといえます。ところで、上の(1b)の下線部は that がついて
いること以外は全く(1a)と同じですから、「(1a)という文(S)に that 
がついて、(1b)の下線部のような名詞(N)になった」と考えられます。
つまり、

   (2)  that + K-S   N

 このとき、that は、基本文(K-S)を名詞(N)に変える働きを持った
転換子であるといえます。そして、このような that を、この本では、
「S−N転換子」(S-N CVT) の that と呼ぶことにします。(1b)下線部
の樹形図は、

   (3)   (that Bill told a lie)
          N
         /  \
      CVT[S-N]   K-S
       (that)   (Bill told a lie)

 また、(1b) 全体をひとつの基本文(K-S)ととらえると、次のような新
しい文(S)を生み出すことも可能です。

   (4)  You know that I know that Bill told a lie.
     (あなたは、私がビルがウソをついたのを知っているというこ
      とを知っている)

 この時、(4)の下線部の樹形図は、

   (5)   (that I know that Bill told a lie)
          N
         /  \
       CVT[S-N]   S
       (that)   (I know that Bill told a lie)
             /   \
            N       V
            (I)  /  \
               VZ       N
              (know)  (that Bill told a lie)
                   /  \
                CVT[S-N]   K-S
                 (that)   (Bill told a lie)

 上の(1b)の下線部や (4)の下線部、つまり、 基本文(K-S)から一種の
名詞(N)に転換されたものを「名詞(N)節」(noun clause) と呼びま
す。

 名詞(N)節は、したがって、次のような特徴を持つことになります。

  (i) 名詞(N)+動詞(V)の構造を持つ。
     (したがって、{呼応}のV拡充子 PRS/PST が存在する)
  (ii) 文の一部を構成する。
     (したがって、今や文(S)でない)
 (iii) 名詞(N)の一種として働く。

 25-2 [that節のNっぽさ] 
 S−N転換子(S-N CVT) の that により生まれた名詞(N)節は、語や
句の名詞(N)が登場する多くの文法的環境で登場することができます。

   (6)a.  The rumor is true.
      (その噂は本当だ)
     b.  That Cindy is pregnant is true.
      (シンディが妊娠しているというのは本当だ)
   (7)a.  George told me a funny story.
      (ジョージは私に面白い話をしてくれた)
     b.  George told me that he had met a funny girl.
      (ジョージは私に面白い女の子に会ったと話した)
   (8)a.  The trouble is Johnny's bad manners.
      (ジョニーのいたずらには困ったものだ)
     b.  The trouble is that Johnny's too much mischievous.
      (困ったことは、ジョニ−がとても腕白だということだ)

 ただし、that により導かれる名詞(N)節は、今や名詞(N)となっ
たのだから名詞(N)の位置ならどこへでも埋め込まれるかというと必ず
しもそうではありません。語や句の名詞(N)と名詞(N)節とで登場す
る環境が異なる場合もあります。

   (9)a.  I'm sure of her easy success.
     b. *I'm sure of that she will succeed easily.
      (私は彼女が容易に成功すると信じている)
   (10)a.  I want to take the 1:30 train.
     b. *I want that I take the 1:30 train.
      (私は1時30分発の電車にのりたい)
   (11)a.  They enjoyed swimming there.
     b. *They enjoyed that they swam there.
      (彼等はそこで水泳を楽しんだ)

 つまり、that+K-S により作られた名詞(N)は、普通の名詞(N)や、
to+V(cf.22-1) や -ing+V(cf.22-8)により作られた名詞(N)とはそ
の「Nっぽさ」(nouniness)の度合いに多少の違いがあると言えます。

 25-3 [thatの省略:構造の再分析]  cf. 15-9
 名詞(N)節をつくる that は、口語体などくだけた雰囲気の中では、
次の (12b)のようにしばしば省略されることがあります。

   (12)a.  I think that John told a lie.
       (私はジョンがウソをついたと思う)
     b.  I think John told a lie.
       (ジョンはウソついたんだよ)

 (12b) の John told a lie. は、一見すると独立した文(S)のように
見えますが、あくまで I think + N というもうひとつの文(S)の中に
埋め込まれた名詞(N)節です。したがって、(12b) では  John told a 
lie.  という文(S)が OM-NI転換子(OM-NI CVT)の  によって名詞
(N)節に変えられていると考えます。樹形図は、

   (13)  (  John told a lie)
          N
        /      \
      CVT[OM-NI]   K-S
       (  )    (John told a lie)

 (12b) よりもさらにくだけた次のような形もあります。

   (14)  John told a lie, I think.
      (ジョンのやつ、ウソついたんだよきっと)

 (14)の I thinkは、(12a)の I think とは異なり、もうすでに一種の副
詞(AD) だと感じる人がいるかもしれません。そのような見方をする人
には、(14)の樹形図は次のようなものとなるでしょう。

   (15)  (John told a lie, I think)
          S
        /      \
       K-S         AD
   (John told a lie) (I think)

 このようにthatの省略が「構造の再分析」(reanalysis)を生み出す例は
ほかにもあります。

 類例:

   (16)a.  I'm afraid that it will rain.
       (残念ながら、雨になると思います)
     b.  I'm afraid it will rain.
       (残念、雨になるね)
     c.  It will rain, I'm afraid.
       (雨になります。残念ながら)
   (17)a.  Don't you think that they should stay home?
       (彼等は家にいるべきだと思いませんか)
     b.  Don't you think they should stay home?
       (彼等は家にいるべき、と思いませんか?)
     c.  They should stay home, don't you think?
       (彼等は家にいるべき、と思いません?)
   (18)a.  The trouble is that our quarterback is ill in bed.
       (困ったことは、今、我がチームのクオータ・バックが寝
        込んでいるということだ)
     b.  The trouble is, our quarterback is ill in bed.
       (困ったことに、今、我がチ−ムのクオ−タ・バックは寝
        込んでいる)                                   

 ただし、これらの that は、全く自由につけたり省略したりできるかと
いうとそうではありません。次のように、文頭の that は省くことはでき
ませんし、

   (19)a.  That John told a lie is obvious.
     b. *John told a lie is obvious.
       (ジョンがウソをついたということは明らかだ)

 また、次のような例では、

   (20)  The book argues that eventually the housing supply will
      increase. (AHBEU, p.40)
      (その本が主張していることは、住宅供給は結局は増えるだろ
       うということだ)

that をとると eventually が argues にかかるのか will increase にか
かるのか不明となるため省略できません。

 25-4 [S−N転換子(S-N CVT):if/whether] 
 that+K-S の場合同様、基本文(K-S)の前に「S−N転換子」(S-N 
CVT)の if をつけ、if+K-S の形にすると、 一種の名詞(N)として機
能するようになることがあります。つまり、名詞(N)節となるのです。

   (21)  John wonders if Mary told a lie.
      (ジョンはメアリーがウソをついたのかなあと思っている)

 上の下線部の樹形図は、

   (22)  (if Mary told a lie)
           N
          /  \
       CVT[S-N]   K-S
        (if)    (Mary told a lie)

 この if は、しばしば whether で代用されます。

   (23)  John wonders if/whether Mary told a lie.
      (ジョンはメアリーがウソをついたのかなあと思っている)
   (24)  I wonder if/whether you've received my e-mail.
      (私のイー・メール受けとっていただけたでしょうか)
   (25)  I asked him if/whether he could speak Japanese.
      (私は彼に日本語は話せるかと尋ねた)

ただし、

   (26)a.  Whether he made a mistake is unknown.
     b. *If he made a mistake is unknown.
       (彼に過失があったかどうかは不明である)

 25-5 [that 節 vs if 節] 
 次の2つを比べて見ましょう。

   (27)a.  John wonders that Mary told a lie.
       (ジョンはメアリーがウソをついたなんて不思議だと思っ
        ている)
     b.  John wonders if Mary told a lie.   (=21)
       (ジョンはメアリーがウソをついたのかなあと思っている)

上で、that節は{〜ということ}、if節は{〜かどうかということ}という
意味を運んでいます。前者は{名詞化(〜ということ)}(nominalization)
という意味だけですが、後者には{名詞化(〜ということ)}という意味の
他に{YES/NO疑問(〜かどうか)}という意味が含まれているのです。

 したがって、2つのS−N転換子(S-N CVT)、that と if、の{意味}
を比較すると、次のように表せます。

    (i) that : {名詞化}
    (ii) if   : {名詞化} + {YES/NO疑問}

類例:
   (28)a.  Do you know that she's coming to the party?
       (あなた、彼女はパーティに来るの知っていますか)
     b.  Do you know if she's coming to the party?
       (あなた、彼女がパーティにくるかどうか知っていますか)
   (29)a.  I don't mind that young people marry young.
       (若い人達が早婚なのは別に気にならない)
     b. I don't mind if young people marry young.
       (若い人達が早婚かどうかは別に気にならない)

 25-6 [S−N転換子(S-N CVT):where など] 
 次の(30)の下線部も、また、名詞(N)節といえます。

   (30)  I don't know where John lives.
      (私はジョンがどこに住んでいるのか知らない)

 次の3つの特徴を持つからです。

    (i) 名詞(N)+動詞(V)の構造があり、
    (ii) 文(S)の一部として埋め込まれており、
   (iii) 名詞(N)として働いている、

 ただし、この名詞(N)節には、

    (i)  {名詞化}(〜ということ)
    (ii)  {WH疑問}(どこに〜か)

という2つの意味が含まれています。この本では、基本文(K-S)にこれら2
つの意味を加えるという変化を引き起こすのは「S−N転換子」(S-N CVT)
の WH語であると考えます。

 例えば、上の例文 (30) の下線部は、S−N転換子(S-N CVT)の where
によって次のようにして生まれると考えられます。

   (31)  where  +  [John lives somewhere]
            ↓Step 1: where を対応する somewhere に代入
           [John lives where]
            ↓Step 2: where を文頭に移動(の発生)
           [where John lives ]

 {名詞化}と{WH疑問}の意味を持つS−N転換子(S-N CVT)には、
上の where 以外にもいろいろとあります。WH疑問文(WH-Q-S)を生み出
すS拡充子(EPD[WH-Q])として前述したWH語(cf.21-4)は、基本的にす
べてこのS−N転換子(S-N CVT)として働きます。

   (32)  I wonder who drove the car to the beach and back.
      (誰が海岸までの往復を運転したのだろう)
   (33)  The astronaut talked about what space was like.
      (その宇宙飛行士は宇宙がどんなだったかを話した)
   (34)  Do you have any idea when he will be back?
      (彼が何時戻るかわかりますか)
   (35)  John wonders why Mary never wears a miniskirt.
      (ジョンはメアリーがなぜミニスカートをはかないのかなあ
       と思っている)
   (36)  Can you guess how many pockets this jacket has?
      (このジャケット、いくつポケットがあるかわかります?)
   (37)  Do you know whose car this is?
      (これ誰の車かご存知ですか)

 (36) の場合には、how many とともに pockets が、(37) の場合には、
whose とともに car が文頭移動されています。例えば、(36)の場合、

   (38)  how many +  [this jacket has some pockets]
              ↓Step 1: how manyを対応するsomeに代入
            [this jacket has how many pockets]
              ↓Step 2: how manyをpocketsと共に文頭へ
                   移動(発生)
            [how many pockets this jacket has ]
            (*how many this jacket has  pockets)

 結局、S−N転換子(S-N CVT)の WH語の働きは、

   <S−N転換子(S-N CVT)の WH語の働き>
     Step 1: WH語 を対応する語 some... に代入
     Step 2: WH語 を文頭へ移動(発生)

 また、次の(39)や(40)は、基本文(K-S)に2つのS−N転換子(S-N CVT)
が一度に付加されたやや例外的な例と考えられます。

   (39)  Gee, you're twins? I can't tell which is which.
      (なるほど。君達双子なんだ。どっちがどっちか区別がつか
       ないや)
   (40)  A picnic?  Sounds great!  Let's decide who should 
      bring what.
      (ピクニック?いいねえ。誰が何持って来るか決めようよ)

 ちなみに、S−N転換子(S-N CVT)の WH語とその対応語との関係は、S
拡充子(EPD[WH-Q]など)のWH語(cf.21-4)と同様、次のようなものです。

 [S−N転換子(S-N CVT)のWH語とその対応語]
       WH語       対応語
   (41)a.  what      ──   something など
     b.  who(m)    ──   someone など
     c.  whose     ──   someone's など
     d.  where     ──   somewhere など
     e.  when      ──   sometime など
     f.  why       ──   for some reason など
     g.  how       ──   somehow など
     h.  which     ──   one or the other など
     i.  how often ──   some times など

 25-7 [EPD?  CVT?] 
 次の2つの  where についてその違いを考えてみましょう。

   (42)a.  I don't know where John lives.
       (私はジョンがどこに住んでいるか知らない)
     b.  Where does John live?
       (ジョンはどこに住んでいるの)

 前者は基本文(K-S)から名詞(N)節を生み出すS−N転換子(S-N CVT)
の where, 後者は同じ基本文(K-S)をWH-Q文に変える拡充子(EPD[WH-Q])
の where です。それぞれの樹形図は、

   (43)  (where John lives )
          N
         /  \
       CVT[S-N]   K-S
       (where)   (John lives somewhere)

   (44)  (Where does John live ?)
         WH-Q-S
         /  \
      EPD[WH-Q]   K-S
       (where)   (John lives somewhere)

 次の例では、S−N転換子(S-N CVT)の what とS拡充子(S EPD[WH-Q])
の what が同じアウトプットを生み出しています。 cf.21-7

   (45)a.  He asked me what followed.        (S-N CVT)
       (彼は私にその後どうなったのかと聞いた)
     b.  What followed?                    (S EPD[WH-Q])
       (で、その後どうなったの)

 25-8 [{WH感嘆}のS−N転換子(S-N CVT):how/what] 
 what と how は、しばしば{WH疑問}の意味というよりは{WH感嘆}の
意味を持ち、いわゆる WH感嘆文(cf.21-8)に対応する名詞(N)節を生み
出します。                                                   

   (46)  It is incredible how fast she can run. (Quirk, p.1055)
      (彼女がどんなに足が早いか、信じてもらえないかも)
   (47)  I remember what a good time I had at your party.
      (あなたのパーティでどんな楽しい時間を過ごしたか忘れま
       せん)

 これらの名詞(N)節は、WH感嘆文を作るS拡充子の場合同様、veryを
含む基本文(K-S)から作られます。例えば (46) の樹形図は、

   (48)  (how fast she can run )
         N
        /  \
     CVT[S-N]   K-S
      (how)   (she can run very fast)

 25-9 [ダミーのit...that/whether/WH節] 
 that/whether/WH語に導かれる名詞(N)節が長く、重いと感じられる
ときには it で代用し、本体は文末にまわす次の (49a), (50a), (51a),
(52a), (53a) のような形が好まれます。

  (49)a.  It is a miracle that he is safe.
    b.  That he is safe is a miracle.
      (彼が無事だなんて奇跡だ)
  (50)a.  It is doubtful whether we should sign such a contract.
    b.  Whether we should sign such a contract is doubtful.
      (我々がそのような契約にサインをすべきかどうかは疑わし
       い)
  (51)a.  It has not been decided when the next meeting will be
      held.
    b.  When the next meeting will be held has not been decided.
      (次の会がいつ開かれるかはまだ決まっていない)
  (52)a.  It doesn't matter to me what has become of him.
    b.  What has become of him doesn't matter to me.
      (彼がどうなったか私には関係ない)
  (53)a.  It's still an open question why they built the pyramids.
    b.  Why they built the pyramids is still an open question.
      (彼等がなぜピラミッドを作ったかは未だに謎です)

 この形が義務的に生じる場合もあります。

  (54)a.  It is said that he took dirty money.
    b. *That he took dirty money is said.
      (彼はワイロを受け取ったと言われている)
  (55)a.  Is it my imagination that this baggage is heavier than
      usual?
    b. *Is that this baggage is heavier than usual my 
      imagination?                                    
      (このカバンいつもより重いけど気のせいかな)
  (56)a.  He made it clear that he was against the proposal.
    b. *He made that he was against the proposal clear.
      (彼はその提案に反対であることを明らかにした)

 25-10 [まとめ:S−N転換子(S-N CVT)] 
 結局、基本文(K-S)を名詞(N)に変えるS−N転換子(S-N CVT)には、
次のように3種類のものがあるということになります。

 S−N転換子(S-N CVT): {意味}
   (i) that           :{名詞化} 
   (ii) if/whether     :{名詞化} + {YES/NO疑問}
  (iii) WH語(whatなど) :{名詞化} + {WH疑問}

 例えば、次の例では、3種類のS−N転換子(that, if, why)によって
3種類の名詞(N)節が生み出されています。

   (57)a.  I wonder that the girl loves a frog.
       (その女の子がカエル好きだなんて不思議だ)
     b.  I wonder if the girl loves a frog.
       (その女の子はカエルが好きかなあ)
     c.  I wonder why the girl loves a frog .
       (その女の子は何でカエルが好きなのかなあ)

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