第III章 動詞(V)の拡充


LESSON 12  V拡充子{法性}:MOD(can など)

 12-1 [V拡充子{法性}:MOD(can など)] 
 9-4〜9-7で、動詞(V)の意味をふくらませる(拡充する)ものとして
{呼応}のV拡充子(V EPD {Agreement})、PRS とPST 、を紹介しました。
例えば、次の (2) の下線部 wrote a novel は、 (1) の下線部のように 
{呼応(過去)}のV拡充子 PST と動詞(V) write a novel から合成され
ることになります。

   (1) The computer  +  PST  +  write a novel
         ↓      ↓
   (2) The computer   wrote a novel.
     (そのコンピューターは小説を一つ書いた)

樹形図は、

   (3)   (wrote a novel)
           V
         /   \
       EPD[AGR]   V
        (PST)   (write a novel)

 ただし、動詞(V)を意味と形の上でふくらませるV拡充子は、実は、
{ 呼応} のV拡充子(PRS /PST)だけではありません。例えば、次の(4)
では、動詞(V)の前に canが置かれ「〜できる」といった意味が加えら
れています。

   (4) The computer can write a novel.
     (そのコンピューターは小説を書くことができる)

 この時、can write a novel という動詞(V)句には{呼応(現在)}のV
拡充子、PRS、も含まれていますので、上の (4) はおおむね次の(5)のよう
な形から作られると考えられます。

   (5) The computer  +   PRS  +  can  +  write a novel
         ↓       ↓       ↓
   (6) The computer      can    write a novel. (=(4))

 つまり、(4) の can write a novel という形は PRS(現在)+can(〜で
きる)+write a novel(小説を書く)という3つの意味のかたまりから作
られると考えられるのです。

 この本では、この can のように動詞(V)に「可能」などの意味を加
え、ふくらます働きをする語やそれらのグル−プを「V拡充子{法性}」
(V EPD {Modal})あるいは MOD と呼ぶことにします。

 したがって、(4) の動詞(V)部分 can write a novel の樹形図は次
のようになります。

   (7)   (can write a novel)
            V
          /   \
        EPD[AGR]   V
         (PRS)  /  \
            EPD[MOD]  V
             (can)  (write a novel)

 上で、AGR と can はともに動詞(V)を拡充するV拡充子ですが、重
要な違いがひとつあります。それは、N+Vという文(S)の構造にとって
AGR はなくてはならないもの、つまり、「義務的」(obligatory)である
が、can はあることもないこともある、つまり、「任意的」(optional)
である、ということです。


 12-2 [can のいろいろな意味] 
 また、このような{法性}のV拡充子(MOD)は常にひとつの形でひとつ
の意味を表す、というわけではありません。例えば、can には次のように
「能力」以外にも「可能性・推量」や「許可」を表す用法があります。 

  (i) 能力(Ability)
   (8)  Beavers can build dams.
     (ビーバーはダムを作ることができる)
   (9) Superman can fly like a bullet.
     (スーパーマンは弾丸のように飛ぶことができる)

  (ii) 可能性・推量(Possibility/Probability)
   (10) Passive smoking can cause cancer.
     (他人のタバコの煙でもガンになるんだよ)
   (11) Such a swindler can't tell the truth.
     (そんな詐欺師が本当のことを言うわけがない)

 (iii) 許可(Permission)
   (12) You can keep it if you like.
     (もしよろしかったら、それ、差し上げます)
   (13)  No visitor can remain in the hospital after 9 p.m.
     (この病院ではお見舞いの人は9時以降はいられない)

 時には、次の文の can のように、適当なコンテキストがないと意味が
あいまいになってしまう場合もあります。この can は、能力と許可、両
方の解釈ができるからです。

   (14) You can swim across the lake.
     (あなたなら湖を泳いで渡ることができる)  [能力]
     (あなたは湖を泳いで渡っても良い)     [許可]

【教師用ノート】
 12-3 [willのいろいろな意味]   {法性}のV拡充子 will は、次のように「未来」と「意志」の用法が 基本です。   (i)(単純)未来(Simple Future)    (15) It'll clear up soon.       (空はすぐに晴れ上がりますよ)    (16) Your dream will come true some day.       (あなたの夢、いつかはかないますよ)   (ii) 意志(未来)(Volition)    (17) I'll call back as soon as possible.       (この電話、できるだけ早くおかけ直しいたします)    (18) I will not change my mind.       (気が変わるなんてことはありません)    (19) This door won't open. (無生物主語、擬人的)       (このドア−、開こうとしない)  これらはまた、転じて、「可能性・推量」、「指図」、「習慣・習性」 などを表します。  (iii) 可能性・推量(Possibility/Probability)    (20) That will be our new teacher, I guess.       (あれが今度の新しい先生だと思う)    (21) This will do for the time being.       (さしあたりこれで間に合うだろう)   (iv) 指図(Command)    (22) You will do as I tell you.       (申し上げます通りにしていただきます)   (v) 習慣・習性(Habit/Nature)    (23) Babies will cry.       (赤ん坊は泣くものだ)    (24) Oil will float on water.       (油は水に浮く)  12-4 [mayのいろいろな意味]   {法性} のV拡充子 may は、次のように「可能性・推量」、「許可」など を表します。   (i) 可能性・推量(Possibility/Probability)    (25) He may come, or he may not.       (彼は来るかもしれないし、来ないかもしれない)    (26) You may regret it.       (後悔することになるかもしれませんよ)   (ii) 許可(Permission)    (27) You may go now.       (もう行ってもよろしい)    (28) May I ask a question?       (ひとつ質問をしてもよろしいですか)  また、may には「可能性・推量」、「許可」のほかに、次のようなやや古 めかしい「祈願」の用法も残っています。  (iii) 祈願(正式)(Hope/Wish)    (29) May you live long!       (末永くお健やかに!)  12-5 [mustのいろいろな意味]   {法性}のV拡充子 must は、「義務」と「必然性」を表しますが、   (i) 義務(Obligation)    (30) You must go right now.       (あなたは今すぐ行かなければなりません)   (ii) 必然性(Certainty)    (31) Jane looks very pale. She MUST be sick.       (ジェーンの顔色が良くない。きっと病気だ)  文脈によっては、次のように「禁止」や「主張」などを表します。  (iii) 禁止(Prohibition)    (32) You must not speak like that to your mother.       (母親にむかってそんな口のきき方をしては行けません)   (iv) 主張(Claim)    (33) Man must die.       (人は死ぬ)  12-6 [shouldのいろいろな意味]   {法性} のV拡充子 should は、「義務」、「見込み・推量」などを表 します。   (i) 義務(Obligation)    (34) You should keep your promise.       (約束は守べきです)    (35) Young people should read more and watch less.       (若い人達は、テレビを少なくしてもっと本を読むべきだ)   (ii) 見込み・推量(Deduction/Probability)    (36) We should have a call from him soon.       (まもなく彼から電話が入るはずだ)    (37) According to this map, this should be the way.       (この地図によると、たぶんこの道だ)  12-7 [認識的用法(epistemic)と非認識的用法(non-epistemic)]   これまで、{法性}のV拡充子(MOD)が表す意味をいろいろと見てき ました。そこで、これらの意味を別の角度から見直すと{法性}のV拡充 子は次のような2つのグル−プにわかれます。ひとつは「認識的用法」 (epistemic)、もうひとつは「非認識的用法」(non-epistemic)です。 前者は「発話文の内容全体に関する話し手の判断」を表すのに対し、後者 は「発話文の内容、特に動詞(V)自体、への意味の付加」を表します。 次の(38)〜(41)で、 a文は全て認識的用法(epistemic)、 b文は全て非 認識的用法(non-epistemic)です。    (38)a. Susie, so clever, can't say such a thing. 可能性       (スージーは賢いからそんなこと言うはずがない)epistemic      b. Susie, so timid, can't say such a thing. 能力       (スージーは怖くてそんなこと言えない) non-ep.    (39)a. She will arrive there in ten minutes. 未来       (十分もすれば彼女はそこに着くだろう) epistemic      b. She will go there as soon as possible. 意志       (彼女はできるだけ早くそこへ行くつもりだ) non-ep.    (40)a. You may know this terrible news now. 推量       (君はもうこのひどい知らせを知っているかも) epistemic      b. You may tell them this terrbile news now. 許可       (もう彼等にこのひどい知らせを教えてもよい) non-ep.    (41)a. John must be careful. 必然性       (ジョンは慎重な人にちがいない) epistemic      b. John must be careful. 義務       (ジョンは慎重でなければならない) non-ep.
【教師用ノート】
 12-8 [V拡充子{法性}(MOD)の呼応(i):非認識的用法(non-
    epistemic)の現在(PRS)形と過去(PST)形]
   一般に、{法性}のV拡充子(MOD)のうち、非認識的(non-epistemic) 用法には現在(PRS)形と過去(PST)形があります。   <can/could>(non-epistemic)    (i) 能力(Ability)    (42)a. The baby can walk now.       (その赤ん坊は今もう歩けます)      b. The baby could walk a week ago.       (その赤ん坊は1週間前は歩けました)    (ii) 許可(Permission)    (43)a. You can stay up late only this weekend.       (あなたがたは今週末だけは夜更かししてもよい)      b. John could (=was allowed to) stay up late even when he        was a small boy.       (ジョンは子供の時も夜更かしすることができました)   <will/would> (non-epistemic)    (i) 意志(Volition)    (44)a. I will do my best.       (できる限りのことはいたします)      b. I told him it was dangerous to thwart the mayor, but        he WOULD do it. デク、p.503       (私はいま市長に逆らうのは危険だと言ったが、彼は頑とし        て聞き入れなかった)    (ii)習慣・習性(Habit/Nature)    (45)a. Mary WILL sit still and look at the sea for hours.       (メアリーは何時間もじっと座って海を眺めていることがあ        る) Genius, p.2063      b. He would (often) go fishing in the river when he was a        boy.       (彼は少年の頃、よく川へ釣りにでかけた)  非認識的(non-epistemic)用法のV拡充子{法性}(MOD)について、 その{呼応}の形をまとめると、   <V拡充子{法性}(MOD)非認識的用法(non-epistemic)の呼応>    (46)a.  PRS + can + V  can/*cans V      b.  PST + can + V  could V    (47)a.  PRS + will + V  will/*wills V      b.  PST + will + V  would V  樹形図は、    (48)  (can/could V)           V          / \       EPD[AGR]  V       (PRS/PST) / \           EPD[MOD] V           (can)    (49)  (will/would V)           V          / \       EPD[AGR]  V       (PRS/PST) / \           EPD[MOD] V           (will)  12-9 [V拡充子{法性}(MOD)の呼応(ii):認識的用法
    (epistemic)の現在(PRS)形と過去(PST)形]
   {法性}を表すV拡充子のうち認識的(epistemic)用法のものは、原則 的に「発話時における話者の判断」を表すため、現在(PRS)形だけしか 持たないと考えられています。しかし、「過去の事柄に関する現在の判断」 を表す用法はよく使われます。have-en を伴う次のような形(cf. 13-3)で す。これらは厳密には過去(PST)形とは言えませんが、この本では「過去 形」として扱います。    (50)a. You should be more careful starting here and now.        (ここはもう少し丁寧に始めてください)      b. You should have been more careful starting then and        there.        (あのときあそこはもう少し丁寧に始めるべきでした)    (51)a. He must be very rich to buy such a big jet.        (あんな大きなジェット機を買うなんて、彼はとても金持ち         に違いない)      b. He must have been very rich to buy such a big jet.        (あんな大きなジェット機を買うなんて、彼はとても金持ち         だったに違いない)    (52)a. He may leave the key when he goes out.        (彼は出かける時、キーを忘れるかもしれない)      b. He may have left the key when he went out.        (彼は出かける時、キーを忘れたのかもしれない)                            Quirk,p.190    (53)a. That cannot be true.        (そんなこと本当であるはずがない)      b. That cannot have been true.        (そんなことが本当だったなんてあり得ない)  したがって、{法性}のV拡充子(MOD)のうち認識的用法の呼応は次の ようにまとめられます。   <V拡充子{法性}(MOD)認識的用法(epistemic)の呼応>    (54)a.  PRS + should + V  should/*shoulds V      b.  PST + should + V  should have Ven    (55)a.  PRS + must + V  must/*musts V      b.  PST + must + V  must have Ven    (56)a.  PRS + may + V  may/*mays V      b.  PST + may + V  may have Ven    (57)a.  PRS + cannot + V  cannot/*cannots V      b.  PST + cannot + V  cannot have Ven  上記(50b)、(51b)、(52b)、(53b)の当該部分樹形図は、    (58)  (should have been more careful)            V           / \         EPD[AGR] V          (PST) / \           EPD[MOD] V           (should) (be more careful)    (59)  (must have been very rich)            V           / \         EPD[AGR] V          (PST) / \           EPD[MOD] V            (must) (be very rich)    (60)  (may have left the key)            V           / \         EPD[AGR] V          (PST) / \           EPD[MOD] V            (may)  (leave the key)    (61)  (cannot have been true)            V           / \         EPD[AGR] V          (PST) / \           EPD[MOD] V           (cannot) (be true)  12-10 [準V拡充子{法性}: SEMI-MOD]   {法性}を表し、{法性}のV拡充子(MOD)と呼べそうな次のような 形もあります。    (62) I am going to quit my job.       (私は仕事をやめるつもりだ)    (63) John was able to hand in his report just in time.       (ジョンはどうにか間に合ってレポ−トを提出できた)    (64) I have to call Susan.       (スーザンに電話しなきゃ)    (65) You had better see a doctor.       (キミ、医者に行くべきだよ)    (66) Hats used to be a must in church.       (帽子は昔教会ではなくてはならないものだった)  これらは、    (i) be going to ≒ will, be able to ≒ can,have to ≒ must,      のように類似の意味を持つ、 という点で、本来の{法性}V拡充子(MOD)と似ていますが、    (ii) to/-ing との組み合わせがある、    (67)a. to + be able to      b. *to + can   (iii) 他の MOD との組み合わせに強い制限がない、    (68)a. may + be able to      b. *may + can    (iv) PRS/PST形にふぞろいのものがある、    (69)a. PRS + had better      b. *PST + had better    (70)a. *PRS + used to      b. PST + used to などの点で MOD とは異なり、完全なMOD とは言えません。  このように、これらは{法性}を表しながらも、文法的特性の点で厳密 な意味では{法性} のV拡充子と呼ぶには不十分(defective)ですから、 「準V拡充子{法性}」(SEMI-V-EPD {Modal})あるいは SEMI-MOD と呼ぶ ことにします。
【教師用ノート】
 12-11 [Shall we...?/Will you ...?などの慣用表現]   次の Shall we ...? や Will you ...? などは、歴史的には{法性」の V拡充子 shall や will を含んだものですが、この本では、一種の慣用 表現として扱うこととします。    (71) Let's take a break, shall we?       (一休みしましょうか)    (72) Shall I open the window?       (窓を開けましょうか)    (73) Will you put this back?       (これを元の場所に返してくれますか)  12-12 [could/would/might などの丁寧表現]   一見、過去(PST)形に見える次のような形は、現代英語では「過去」 を表すのではなく、「丁寧さ」を表す表現として使われます。    (74) Could you pick me up?       (車で迎えに来ていただけませんか)    (75) Would you tell me the way to the hospital?       (病院へ行く道を教えていただけませんか)    (76) Might I smoke in this room?       (この部屋で煙草をすってもよろしいでしょうか)

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