第III章 動詞(V)の拡充


LESSON 13  V拡充子{完了}: PERF(have-en)

 13-1 [V拡充子{完了}: PERF(have-en)] 
 動詞(V)の意味をふくらますV拡充子(V EPD)として次に紹介するの
は、「V拡充子{完了}」(V EPD {Perfect})あるいは PERF、つまり、
have-en、です。この拡充子は、

   (i) 完了(〜してしまった)
   (ii) 経験(〜したことがある)
  (iii) 継続(〜し続けてきた)

などの意味を動詞(V)に加え、より大きな動詞(V)句を生み出します。

   (1) The computer has written a novel now.(完了)
     (そのコンピューターは今やっと小説を書き終えた)
   (2) The computer has written a novel several times.(経験)
     (そのコンピューターは以前何度か小説を書いたことがある)
   (3) The computer has written a novel for 240 hours.(継続)
     (そのコンピュ−タ−はもう240時間も小説を書いている)

 このとき has written が完了、経験、継続のうち、どの意味になるかは
now, before, for...などのAD(句)やそれらが使われる文脈によって決ま
ります。言い方を変えれば、これらのAD(句)や文脈がなければ、完了か
経験か継続かの区別はできないということでもあります。

 13-2 [樹形図と類例] 
 上の例文(1)(=(5))は、おおむね次のようにして作られます。

   (4) The computer + PRS + have-en + write a novel + now
        ↓      ↓      ↓
   (5) The computer       has        written a novel  now.

 {完了} のV拡充子、have-enが、{呼応} のV拡充子 PRS とV(write a 
novel)との間にはさまって動詞(V)に新しい「薄皮一枚」の意味を加え
ていることに注目してください。ちなみに、上記動詞(V)部分の樹形図
は次のようになります。

   (6)  (has written a novel)
           V
          / \
       EPD[AGR]  V
        (PRS)  / \
          EPD[PERF] V
          (have-en) (write a novel)

 類例:
   (i)<完了用法>
   (7)  My extension number has changed.
     (私の内線番号が変わりました)
   (8)  The musical has been a great sensation nationwide.
     (そのミュージカルは全国的にセンセーションを巻き起こした)
   (9)  What has become of your old car?
     (君のあのポンコツ車どうなった)

   (ii)<経験用法>
   (10)  I have seen a rattlesnake before.
     (私はガラガラ蛇を見たことがある)
   (11)  I have visited Paris three times.
     (私はもう3回もパリに行った)
   (12)  Have you ever been abroad?
     (外国へ行ったことがありますか)

  (iii)<継続用法>
   (13)  How have you been?
     (いかがお過ごしでしたか)
   (14)  We have known him since childhood.
     (我々は彼を子供の頃から知っています)
   (15)  Mr.Miller has taught us math for two years.
     (ミラー先生はこの2年間我々に数学を教えています)

 13-3 [Ven形と完了/受身分詞] 
 have-en の -en は、後に続く動詞(V)と組み合わせられて「Ven形」
(Ven)となります。このVen形のうち、-en を付加される左端の語は、
伝統的に「過去分詞」と呼ばれていますが、{完了}や{受身}(cf.15-1)
を表すために使われる形ですから、むしろ「完了/受身分詞」(perfect/
passive participle)と呼ぶべきでしょう。

 ただし、この完了/受身分詞はいつも上の written のように-enで終る、
というわけではありません。-(e)d や -t で終ったり、現在(PRS)形や過
去(PST)形と同じという場合もあります。

 一般動詞(Vcom)の場合、ふつう、辞書には、「 -(e)s なしの現在形
(PRS+V)−過去形(PST + V)−完了/受身分詞形」の3つについてそ
れぞれ左端の語がリスト化され提示されています。例えば、次のように、

  (i)A−B−C型
    (16)a. begin - began - begun
      b. do - did - done
      c. eat - ate - eaten
      d. sing - sang - sung

  (ii)A−B−B型
    (17)a. build - built - built
      b. kick - kicked - kicked
      c. pay - paid - paid
      d. have - had - had

 (iii)A−B−A型
    (18)a. become-became-become
      b. run- ran - run
      c. come - came - come

  (iv)A−A−A型
    (19)a. hit - hit - hit
      b. cut - cut - cut
      c. let - let - let
      d. cost - cost - cost

 13-4 [PRS+V  vs  PST+V  vs  PRS+have-en+V] 
 次の3つの文をくらべてみましょう。

   (20)a.  The man in charge is out now.
       (係の者は今、席をはずしています)
     b.  The man in charge was out then.
       (係の者はその時、席をはずしていました)
     c.  The man in charge has been out for a couple of hours.
       (係の者はもう2〜3時間、席をはずしています)

 これらの下線部の間には、微妙ですが、はっきりとした意味の違いがあ
ります。(20a) は「現在の時点」、(20b) は「過去のある時点」、(20c) 
は「過去のある時点から現在まで」についての発話であるという点です。
したがって、(20a)は「今、席をはずしている」という意味、(20b)は「過
去のあるはっきりした時点あるいは期間、そこにいなかった」という意味
になります。それに対して、(20c) は「この2〜3時間、現在まで、席を
はずしている」という意味です。

 樹形図には、次のような違いが出ることになります。

   (21)  (is out)
         V
        / \
     EPD[AGR]  V
      (PRS)  (be out)

   (22)  (was out)
         V
        / \
     EPD[AGR]  V
      (PST)  (be out)

   (23)  (has been out)
         V
       /  \
     EPD[AGR]   V
      (PRS)  / \
        EPD[PERF] V
        (have-en) (be out)

 13-5 [使用不可のPERF(have-en)] 
 次のような場合には、have-en を使うことはできません。

   (24) *Einstein has been in Paris before.
   (25) *John has worked there yesterday.

 (24) では故人となった Einstein が、(25)でははっきりと PST を表す
yesterday が、 has been(PRS+have-en+be) や has worked(PRS+have-
en+work)の中に隠れている PRS と論理摩擦を起こすのだと考えられます。

 また、次の (26) も同様の例と考えられます。 When によって含意され
る PST と has ...finished(PRS+have-en+finish)の中に隠れている PRS
が矛盾するのでしょう。

   (26) *When has he finished his work?

 13-6 [過去完了(had Ven)] 
 have-en の過去形、つまり、PST + have-en から生まれる had Ven は、
しばしば「過去完了」(past perfect)と呼ばれますが、過去のある時点
における完了、経験、継続などをあらわします。

   (i)<完了用法>
   (27)  The train had already left when I arrived.
     (私が着いた時には列車は出てしまっていた)
   (28)  She had panicked when the milk boiled over.
     (彼女はミルクが吹きこぼれた時パニックにおちいった)

   (ii)<経験用法>
   (29)  Until yesterday, I had never heard about it.
     (昨日まで、私はそんなこと聞いたことがなかった)
   (30)  I had often been to Europe before I visited South Africa.
     (南アフリカに行く前に、私はよくヨーロッパへ出かけていた)

  (iii)<継続用法>
   (31)  I was very sleepy because I had driven since early 
      morning.
     (朝早くから運転していたので、私はとても眠かった)
   (32)  Washington and his men had already fought for two months
      when the reinforcements came.
     (ワシントンと兵士達は援軍が来た時、もうすでに2ケ月間
      戦っていた)

 例えば、(27) の下線部の樹形図は、

   (33)  (had left)
         V
       /      \
    EPD[AGR]   V
     (PST)  /      \
       EPD[PERF]   V
       (have-en)    (leave)

 13-7 [その他の意味を持つ過去完了形] 
 過去のある時点における完了、経験、継続などは had Ven の形で表し
ますが、had Ven の形をとっているからといって、全て完了、経験、継
続を表す、というわけではありません。

   (34) The airplane had had some engine trouble two months 
      before the accident.
     (その飛行機は事故の2ケ月前にもエンジン・トラブルを起こ
      していた)
   (35)  I wish I had been there.
     (私があの時そこにいたらなあ)

 このように、「過去の過去」(past in the past)を表す用法や「過去の
非現実」(subjunctive in the past)を表す用法(cf.26-6)もあるからで
す。

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