第III章 動詞(V)の拡充


LESSON 15  V拡充子{受身}: PASS(be-en)

 15-1 [V拡充子{受身}: PASS(be-en)] 
 動詞(V)の意味をふくらます任意の(optional)V拡充子として第4番
目のそして最後のものは、「V拡充子{受身}」(V EPD {Passive})あ
るいは PASS、つまり、be-en です。この形は「〜られる」という「受身」
の意味を動詞(V)に加えます。

   (1)  A novel was written by the computer.
     (小説がひとつ、そのコンピューターによって書かれた)

 上の、was written という形は write a novel というかたまりがもとの
形で、この形が{過去}を表す PST と{受身}を表す be-en という2つ
のV拡充子の影響で was written という形になったと考えられます。

 15-2 [樹形図] 
 したがって、上の例文 (1) は、おおむね次のようにして作られた、と
考えられます。

  (2)  A novel + PST + be-en + write a novel + by the computer
           ↓    ↓    ↓
  (3)  A novel     was   written       (空所) + by the c. =(1)

2つ目の a novel が、「重複ル−ル#3」(Equi Rule #3)によって消
え、空所(φ)になっていることに注意しましょう。

 また、上記動詞(V)部分の樹形図は、

   (4)      (was written )
           V
         /      \
       EPD[AGR]     V
       (PST)    /      \
          EPD[PASS]   V
           (be-en)   (write a novel)

 15-3 [空所()] 
 上で述べたように、 上の was written の後には英語話者によって意識
はされるものの表現はされない空所が存在しています。これまで登場し
た can/willなど,  have-en, be-ing といった、ただ動詞(V)に付加さ
れるだけのV拡充子とは異なり、be-en は動詞(V)の後に必ず「空所」
()(cf.11-1) を作るという点が特徴的です。次の (5) と (6) を比べ
てみましょう。

   (5)a. John will write an essay about himself/*. [Equi #2]
      (ジョンは自分自身についてエッセイを書くつもりです)
     b. John has written an essay about himself/*.
      (ジョンは自分自身についてエッセイを書きあげました)
     c. John is writing an essay about himself/*.
      (ジョンは自分自身についてエッセイを書いています)
   (6)  An essay was written /*itself.    [Equi #3]
     (エッセイがひとつ書かれた)

 上で、will, have-en, be-ing は 重複ル−ル#2 によりANA形を、be-
en は重複ル−ル#3 により空所を生み出していることに注意しましょ
う。
 この時、(6)の was written のように、be-en により文法的に作られ
た空所()は、義務的である(obligatory)という点で次の空所に似て
おり、

  (i)<義務的な>
   (7)  This is the book which I bought [/*the book] yesterday.
     (これは昨日私が買った本です)
   (8)  The refugees have no house to live in [/*the house].
     (その避難民たちには住む家がない)

次のような任意で(optional)、復元可能(recoverable)なものとは異なり
ます。

  (ii)<任意的な>
   (9)  My car isn't working. I'll have to use Mary's [car/].
     (自分の車が動かないので、メアリーのを使わなければならな
      い) (Swan, p.173)

 15-4 [VZ+N+A(D)型とVZ+N1+N2型の受身形] 
 VZ+N型の動詞(V)だけでなく、VZ+N+A(D)型やVZ+N1+N2
型の動詞(V)も、be-en によって受身形となることができます。

  (i)<VZ+N+A(D)型>
   (10)  make a lot of people homeless  →
      A lot of people were made  homeless.
      (沢山の人々が家なし状態となった)
   (11)  leave the last problem unsettled  →
      The last problem was left  unsettled.
      (最後の問題は未解決のまま残された)

  (ii)<VZ+N1+N2型>
   (12)  give him a Nobel Prize  →
      He was given  a Nobel Prize in 1971.
      (彼は1971年にノーベル賞を授与された)
   (13)  call him a jerk  →
      He was called  a jerk then.
      (彼は当時「おばかさん」呼ばわりされていた)

 ただし、VZ+N1+N2型の場合、N1が消えとなる受身形が一般的で、
N2となる受身形はマレか文法的でないことが多いようです。

   (14)  give him a Nobel Prize  →
     a. He was given  a Nobel Prize.
       (彼はノーベル賞を授かった)
     b. ?A Nobel Prize was given him .
   (15)  cook us some fish  →
     a. We were cooked  some fish.
       (我々のために少しばかりの魚が料理された)
     b. *Some fish was cooked us .
   (16)  do me a favor →
     a. I was done  a favor.
       (私は特別の計らいをしてもらった)
     b. *A favor was done me .

 ちなみに、(10) と (12)、それぞれ下線部の樹形図は、

   (17) (were made  homeless)
          V
        /     \
      EPD[AGR]     V
       (PST)    /     \
         EPD[PASS]    V
          (be-en)   (make a lot of people homeless)

   (18) (was given  a Nobel Prize)
          V
        /     \
      EPD[AGR]     V
       (PST)    /     \
         EPD[PASS]    V
          (be-en)   (give him a Nobel Prize)

 15-5 [使用不可の PASS(be-en)] 
 be-en と組み合わせて受身形で使われる動詞(V)は、上で述べてきた
ように、

   (i) VZ+N, VZ+N+N, VZ+N+AD のように動詞化子(VZ)の後ろにNを従
     える、

というのがおおきな特徴ですが、もうひとつ、

   (ii) VZと後に続くNの意味関係(他動性)が、動作(VZ)−被動作主
     (N)とはっきりしている、

という特徴があります。次の2つの例を比べてみましょう。

   (19)  kick a ball  →
         A ball was kicked .(ボールが1個蹴られた)
   (20)  have a ball  →
        * A ball was had .  (*ボールが1個持たれた)

 上の例で、(19) の kick a ball が受身可となるのは、蹴る(kick)と
ボール(ball)との間に動作−被動作主の「他動性」が存在するからであ
り、一方、(20) の動詞(V)have a ball が受身不可となるのは、持つ
(have)とボ−ル(ball)との間にその「他動性」が存在しないからだと
考えられます。

 その中に名詞(N)を持つ動詞(V)のうち、ふつう受身形で使われな
いものは次のようなものです。

    <ふつう受身形で使われない動詞(V)(VZが語のもの)>
  (21)  escape N(〜を逃れる),  get N(〜を手に入れる),
      have N(〜を持つ), like N(〜を好む),  resemble N
     (〜に似ている),  suit N(〜に似合う), survive N(〜
      の後まで生き残る),など。

 15-6 [受身の2つのモチベーション] 
 動詞化子(VZ)と後に続く名詞(N)との間に、動作(VZ)−被動作主
(N)の関係が成り立つ動詞(V)の多くは be-en と組んで受身形とな
りますが、これらのすべてが常に受身形で使われるというわけではありま
せん。では、いつ、どのような場合に受身形で使われるのでしょうか。

 受身表現(be-en)使用のモチベ−ションには、次のように一見矛盾する
2つのものがあります。

    (i) 「動作主を 伏せたい 」モチベーション:誰に何が起こっ
       たか、に重点
  (22)  America was discovered  in 1492.
     (アメリカは1492年に発見された)

    (ii) 「動作主を 目立たせたい」モチベーション:誰がそれをし
       たか、に重点(by 動作主によって新情報)
  (23)  America was discovered  in 1492 by Columbus.
     (1492年、アメリカが発見されたのはコロンブスによっ
      てであった) 

したがって、 (i)により  by + Nのない受身文、(ii)により by + N を
持つ受身文が生まれることになります。ただし、(i) によるものが標準的
で、(ii) によるものよりは圧倒的にその数が多いと言われています。

 このほか、主題の統一、重い名詞(N)は文末に動かすなど、文体上の
理由から使われる受身形もあります。

   (iii) 「 文体上のモチベ−ション」
  (24) The Pope arrived in Madrid this morning and was immediately
     besieged  by reporters.  デク,p.288
    (法皇は今朝マドリッドに到着。早速報道陣に取り囲まれた)

 15-7 [動作の受身と状態の受身] 
 {受身}のV拡充子 be-en による動詞(V)の受身形には、「動作」
を表すものと、「状態」を表すものとがあります。これは be-en の be 
自体に「動作」と「状態」を表す用法があるためと思われます。

   (25)  The chair was broken .               (Quirk, p.162)
      (その椅子が壊れた)   [動作]
      (その椅子は壊れていた) [状態]

 このように be Ven の形では、しばしば「動作」なのか「状態」なの
か区別ができないため、間違いなく「動作」を表したいときは、次の(26)
のような get Ven の形が使われます。

   (26)  The chair got broken .               (Quirk, p.162)
      (その椅子が壊れた)   [動作]

 15-8 [目標、原因、手段などを表すN−A(D)転換子(語レベル)] 
 動作主を明確に表したいときは by N の形が使われますが、動作主と
いうよりはその行為の目標、原因・理由、手段・材料などを表すときには
by 以外の転換子(CVT)が使われます。

   (27)  My brother is interested  in history.
      (私の兄(弟)は歴史に興味がある)
   (28)  We were all surprised  at the news.
      (その知らせに我々はみんな驚いた)
   (29)  Mt.Fuji is covered  with snow.
      (富士山は雪で覆われている)
   (30)  The boy is known  to everybody in town.
      (その少年は町の誰にも知られている)
   (31)  Tommy's piggybank is made  of plastic.
      (トミーのブタちゃん貯金箱はプラステイック製だ)
   (32)  I'm fed  up with these stupid students.
      (もうこんなバカ学生にはウンザリだ)

 15-9 [V+CVT → VZ?]   cf. 25-3, 再分析(Reanalysis)
 次の下線部は構造的にあいまいです。

   (33)  Uncle John laughed at me.
      (ジョンおじさんは私のことを笑った) 

この場合、(33)の下線部の構造は、次の(34)であるという考え方と、(35)
であるという考え方ができるからです。

   (34) (laugh at me)      (35) (laugh at me)
         V             V
        /    \          /    \
       V        AD                VZ        N
     (laugh)   /    \         (laugh at)   (me)
        CVT[N-AD]   N
         (at)     (me)

しかし、この本では、(33) 下線部の構造は (35)であると考えます。laugh
と at が今やひとつのまとまり、VZ、となっていると考えるのです。laugh
at と後に続く me との間には動作−被動作主の関係が成り立ち、次の (36)
のようにその受身(be-en)形も存在するからです。

   (36)  I was laughed at  by Uncle John.
      (私はジョンおじさんに笑われた)

 一方、一見動詞化子(VZ)としてまとまっているように見えても、動作−
被動作主の関係がはっきりと成り立たない動詞(V)句の場合には受身形
にはなりません。

   (37)a.  We all agreed with Bill.(我々はみなビルに賛同した)
     b. *Bill was agreed with  by us all.  (デク、p.283)

     <ふつう受身形で使われない動詞(V)(VZが句のもの)>
   (38)  band together N(〜を束ねる)、brush up N(〜を磨き
      直す)、fail in N(〜に失敗する)、have on N(〜を身
      につける)、live on N(〜を常食とする)、stand off N
      (〜に距離をおく)、など。

 15-10 [VZ+N+to+Vの受身形] 
 一見同じように見える VZ + N+to+Vの形にも、(i)受身形が存在す
るもの、と、(ii) 受身形が存在しないものとがあります。

  (i) 受身形が存在するもの
   (39)  expect you to go alone  →
        You are expected  to go alone.
        (君はひとりで行くことになっています)
   (40)  force them to leave the room  →
        They were forced  to leave the room.
        (彼等はむりやり部屋を退出させられた)

  (ii) 受身形が存在しないもの
   (41)  want the candidate to make a brief speech  →
        *The candidate was wanted  to make a brief speech.
   (42)  wish me to join their team  →
        *I was wished  to join their team. (デク、p.660)

Copyright(C) 2004 Masaya Oba. All rights reserved.