27-1-NT-(A) [関係代名詞の誕生]
中尾・児馬(pp.58-59)によれば、2つの節をより密接に結びつける従属構造
がまだ発達していなかったOEでは、文と文とを単に and で結んだ並列構造で様々な従
属構造の意味を表していた。...PEのような関係節構造に至るまでには、構造的にもい
くつかの段階が必要であった。1) はその発達を簡単に図式化したものである。(p.59)
(S は文、Ni は同一人/物を指示する名詞を示す)
出発点となるのは、同じものを指す名詞を含んだ2つの文の等位接続構造1-a)
である。2つ目の文にある同一指示の名詞は、繰り返しを避けるために1-b) のように代
名詞化され、さらにS2の文頭へ動かされ1-c)となった。これが関係節構造の原型である。
次の段階になると、S2全体が(主文)中の名詞(先行詞)の直後の位置に動かされ 1-d)
となる。この中尾・児馬の解説の要点は次の2点である。
(i) 以前は従属構造がなかった。(and による等位構造のみ)
(ii) 2番目のNは、Nそのもの→ANA形→文頭移動(
発生)、
と変化した。
27-1-NT-(B) [関係代名詞のthat と名詞節の that]
Quirk et al. (1985, p.1047) は、subordinate clauses として、nominal,
adverbial, relative, comparative をあげている。このrelative clause はこの本のA節
であり、Quirk et al. は事実上、N/A/AD節を3つとも subordinationと位置づけてい
ることになる。
ただし、Quirk et al.(1985, p.989ff)は、N節、AD節をつくる conjunction
のみを subordinator と呼んでいる。関係代名詞の that は、N節をつくる that と区別
して subordinator ではなく subordination marker(p.1006) と呼ぶ。
The relative pronoun is to be distinguished from the subordinator
that, which does not operate as an element in the subordinate clause.
この本では、Burton-Roberts (pp.192ff)などと同様、N節、AD節、A節を
(CVT+Sという)ひとつの形で横並びにとらえる。もっとも、N節を生み出す that は空所
(
)を作らず、A節を生み出す that は必ず空所(
)を作るという点は重要な違いである。
ちなみに、ここで言う CVT はいわゆる COMP とは異なり、「意味的に無色」で
はない。品詞が変わるということは意味が変わる、ということだからである。
27-1-NT-(C) [2文合成による関係代名詞の導入]
変形文法の初期、まだ変形という概念が自由に考えられていた頃には、
LaPalombara, L.E.(pp.295-296)の "Multi-Base Embedding Transformation:
adjectivalization" のように変形を2つの文に対して並行的に行う一種の2文合成法
が考えられた。
LaPalombara, L.E.(pp.281-314)は、Multi-Base Embedding Transformations
として次の3種類をあげている。
(i) Adverbialization
1)a. He studies because of something.
b. He must pass the test.
c. →He studies because he must pass the exam.
(becauseはsubordinator)
(ii) Adjectivalization
2)a. This is the house.
b. Jack built the house.
c. →That is the house that Jack built.
(iii) Nominalization
3)a. I realize something.
b. He will call me soon.
c. →I realize (the fact) that he will call me soon.
また、これとは別に、 Roberts et al.(p.181)のように、
4)a. The knight forgot his sword.
b. → the knight who forgot his sword
といった、文(S)から一気に「先行詞+形容詞節」を生み出す変形 Rel (関係節変
形)という考え方も登場した。
歴史的な経緯から言えば、(
はEQUIではなく移動によるという)2文合成
法は正しい。しかし、教室では次のような問題点がしばしばおこる。次の 1-a) と 1-b)
から2文合成を行うと、2つの文、つまり、2-a) と 2-b) が生まれる。
1)a. I know a man.
b. The man speaks English very well.
2)a. I know a man who speaks English very well.
b. The man whom I know speaks English very well.
母型文 1-a)に 1-b)が埋め 込まれると 2-a)になり、1-b) に 1-a) が埋め 込まれると
2-b) が得られるのである。(cf. 安井、1982, p.123)
しかし、もともと発話の順序(旧情報がThe man...なのか、I know...なのか)
を無視したこの指導法には問題がある。むしろ、2-a) と 2-b) は、次の 3-a) と 3-b) か
ら生まれると考えるべきであろう。
3)a. I know a man. He speaks English very well. →2-a)
b. The man speaks English very well. I know him. →2-b)
ここでのポイントは、2番目の文が重複語(man-he/him)を trigger にして形容詞(A)
節に変身しているという点である。
27-2-NT-(A) [Arabic:
を生じない形容詞化]
Celce-Murcia & Larsen-Freeman(1983, p.361)によれば、Arabic や Hebrew
では、次のような形容詞化によって
を生じない形が認められているので、彼らの英語
にはこの形の間違いが多い。
1) *Shirley called out to the boy that she knew him.
ちなみに、「古い英語でも関係節の中に先行詞と同じものを指す語が代名詞の
形で残留している構造がしばしば見られる」という。(中尾・児馬、pp.65-66)
(=there he whom death carries off must trust in the Lord's
judgment) (Beowulf 441)
3) with other dyueres (=different people) that I know ther (=their)
names (PL II 426/31)
4) I ... whome nature and kynde(=nature) most specially ...
bynden(=bind) me to owe(=you) (PL II 317/12-3)
27-2-NT-(B) [S-A転換子 that の働き]
この本では、S-A転換子 that の働きは、次の2つである。
(i) 同一NP認識
(ii) 2nd NPを
に
空所(
)が重複削除によりできるとするか、代入-移動によりできるとするかは議論
の分かれるところ。(歴史的には移動による。cf.27-1-NT-(A))
もし、文(S)の形容詞化が重複削除ではなく代入ー移動によりできるとす
ると、本文(5) は次のように変わる。
1) (fish) +[the fish was caught by John]
↓ (thatを文頭付加)
(fish) +[that the fish was caught by John]
↓ (第2NPにthat代入)
(fish) +[
that was caught by John]
↓ (thatを文頭へ移動)
(fish) +[that
was caught by John]
いずれの案でも、上記A節の部分は厳密には
2) that
was caught by John
のようになり、
が含まれていることになる。
代入-移動より重複削除を支持するかもしれない例としては、安井(1996,
p.248)の次の例があるが、
3) The house which Tom broke the window of is Mr.smith's.
一方、次の McCawley, J.D. (1988)の例は、単純な重複削除では説明できない。
1)a. the person who [John says that [you talked to
]] (p.435)
b. *the policeman who [FBI is looking for the person who killed
]
2) *the guy who they don't know whether
wants to come (p.444)
27-2-NT-(C) [4種類の義務的な
]
かくして、この本では、次の4つの環境で義務的(obligatory)な
が登場
することとなる。
(i) Vの拡充(ex. be-en +VZ+
)
(ii) Sの拡充(ex. What do you want
?)
(iii) Vの転換(ex. something to eat
)
(iv) Sの転換(ex. a book that I bought
)
27-2-NT-(D) [
指導の意義と問題点]
文(S)の形容詞化を指導する際に
を確認するということは、次のような
非文を出さないという効果があり、
1) *Shirley called out to be the boy that she knew him.
(Celce-Murcia & Larsen-Freeman, 1983, p.361)
一方で、
を考えることにより、次の 2-a) と 2-b) の区別ができるというメリットが
ある。
2)a. Winter is gone.
b. The cockroach was killed
.
さらに、次の 3-a) のあいまいさは、3-b) と 3-c) を考えることで説明でき
る。
3)a. I found the purse that I had stolen.
b. I found the purse that I had
stolen. (私が盗まれた財布)
c. I found the purse that I had stolen
. (私が盗んだ財布)
しかし、一方で、次のようないくつかの問題点もある。まず、
を生み出さ
ないS-A転換子がある。
4) She looked as if she had seen a ghost or something.
5) I'll never forget his surprise when we told him. 松波, p.73
また、次のように
を持つものと持たないものの両方が許容される形容詞化がある。
6)a. the now-I-can-tell-
story
b. the now-I-can-tell-you story
c. the now-I-can-tell-it story
27-3-NT-(A) [S-A転換子(関係代名詞)の選択:that/which/who(m)]
安井(1994, p.739-750)( 要約)によれば、that と which/who(m) との
交替には次のようなル-ルがある。
(i) 非制限的用法では、that不可。which/who(m)が使われる。
(ii) 先行詞が人のとき who(m)、人以外のときwhich。that は両方OK。
(iii) 主格の who は that より好まれる。(先行詞がばくぜんとした物の
ときthatも可)
(iv) 目的語では who(m)/which より that が好まれる。
(v) all, best, last, everything などの後では that が好まれる。
この本では、S-A転換子としてまず that を導入し、その「言い換え表現」
として which/who/whom を導入する。したがって、教室での導入順序は、次のように
なろう。
(i) 制限用法の that.
(ii) 先行詞が人ならwho(m)へ(optional)
(iii) 先行詞が人以外ならwhichへ(optional)
(iv) *非制限的用法の that(人なら)who(m)へ(obligatory)
(v) *非制限的用法の that(人以外なら)which へ(obligatory)
ちなみに、次の 1) の when のような、いわゆる、関係副詞の導入は、
2) のようなものとなろう。
1) The day will come when we have to work only four days a week.
2) that...in → which...in → in which ... → when ...
なお、科学文法ではここで言うS-A転換子の that と whichなどとを
別物として扱う立場もある。(cf.de Chene p.147, 中尾・児馬 p.5)
27-3-NT-(B) [同一性認識(人か物かなど)のあいまいさ]
that を which/who(m) に言い換える場合、重複削除された名詞(N)が人で
あるか物であるかは重要な情報となる。ただし、人か物かの区別がつねに厳密に決められ
るというわけではない。次の 1) では、精神的産物としての本と物理的産物としての本を
素性上のずれがあるにも拘らず同一性の条件(identity condition)のもとで認めており、
(安井、1987, p.418)
1) This book, which John wrote, weighs five pounds.
次の athlete は人というより状態としてとらえられている。
2) He is not the athlete that[*who] he was when he was at college.
(安井、1994, p.740)
次の 3) では、通常 she/her でうけられる ship が、who(m) ではなく which を導いて
いる。
3) The captain told us about the ship which[*who(m)] he commanded.
(安井、1994, p.739)
次は重複削除された部分が必ずしも名詞(N)とは言えない例である。
4) I'm delighted, which I know you're not. (Kaplan, J.P. p.301)
次の例で、which がさすものは前文全体が名詞化されたものである。
5) She signed the letter herself, which was a serious infringement
of the rules. (安井、1994, p.734)
27-3-NT-(C) [S-A転換子のwhichなどとV-A転換子の to ]
次の例では、S-A転換子の which/who とV-A転換子の to が
美しいパラレリズムを見せている。
1)a. a shovel to dig the hole with
(McCawley, J.D., p.429)
b. a shovel which you can dig the hole with
2)a. the person to give the money to
b. the person who you should give the money to
ただし、which/who などと to が共存する、いわゆる、 infinitival
relatives(McCawley, J.D.1988, pp.429ff)では、その共起について heavy restrictions
が存在する。
3)a. a shovel with which to dig the hole (p.429)
b. a hole (*which) to fill with earth
4)a. a shovel for us to dig the hole with
b. *a shovel with which for us to dig the hole
5)a. a priest (for us) to be blessed by (p.430)
b. a priest by whom to be blessed
6)a. a book in which (*for Al) to find the answers to his questions
b. a book for Al to find the answers to his questions in (p.452)
これらは、which/who などと to をともにAを生み出す転換子と位置づけるこの本では分析
はむつかしい。(cf.McCawley, J.D. 1988, p.435/p.444 あるいは安井、1982, p.125<ダ
ブルの関係代名詞>)
27-4-NT [制限的用法(restrictive)と非制限的用法(non-restrictive)]
安井(1994, p.735)によれば、制限的関係詞節(restrictive)は、先行詞に
よって指し示されるものを、同じクラスの他の成員から区別し、特定化するために必要
な情報を与える。
1) The essay I read yesterday was interesting.
一方、非制限的関係詞節(nonrestrictive)は、すでにわかっている指示物について補足
的な情報を与えるので、この節を省略しても指示物の特定化に影響はない。
2) My sister, whose name is Maud, lives in Newenden.
また、意味的な役割からすると、制限的関係詞節は先行詞と同じ情報の単位に
属しているのに対して、非制限的関係詞節は先行詞と別の情報単位に属している。中尾・
児馬(p.67)の表現を借りれば、制限節は先行詞に関する既知の情報を、非制限節は先行
詞に関する新しい情報を提示する、となる。
したがって、次の 3-a) では、one は violin that once belonged to
Heifetz をさすのに対し、3-b) では、violin だけをさすということになる。
3)a. Tom has a violin that once belonged to Heifetz, and Jane
has one too. (McCawley, J.D. 1988, p.420)
b. Tom has a violin, which once belonged to Heifetz, and Jane
has one too.
ただし、学習英文法で最も重要なのは、非制限的関係詞節の場合は、直前ある
いは前後に、
(i) 休止が置かれる(話しことば)
(ii) コンマ(,)が置かれる(書きことば)
ということである。
もちろん、上級学習者の場合には、次のことを知る必要があろう。
(i) 非制限的関係詞節では that は使わない
(ii) 制限的関係詞節は固有名詞(Npro)にはかからない
27-5-NT [S-A転換子の省略(ゼロ関係詞)]
中尾・児馬(p.65)(要約)によれば、ゼロ関係詞は当初、ほとんど主格に限ら
れていた。それが、以後次第に衰え、18世紀に入って一般に廃れた。代わって目的語の
ゼロ関係詞が出現、16-7世紀に急増した。常に制限節である。
現代英語では、目的格の関係代名詞はしばしば省略されるが、主格の関係代名
詞の省略は、文中に there is が含まれている場合に多く 、ほとんど 口語体に限られる。
(安井、1996, p.254) [∧は関係代名詞の省略されている位置を示す]
1) This is the highest building ∧ there is in Paris.
2) There is somebody∧ wants to see you.
また、安井(1987, p.396)によれば、関係代名詞のない(that-less)関係節
は、関係代名詞が明示されている節と意味が異なっているという指摘がある。
3)a. John gave a book {that/which} he wrote to Mary.
b. John gave a book
he wrote to Mary.
3-a) の文は、3-b) にくらべて「ほかにも本があるのに自分の書いた本を」という含みが
強いという。
両者の間に意味の違いがあるとすれば、2種類の関係節は、一方が他方から、
関係代名詞の省略によって派生されるのではなく、初めから別個のものである
とする見方が可能になる。
導入・指導という観点から言えば、ゼロ関係詞を持つ、いわゆる、「接触節」
から入る方法と、that/which などの関係詞を持つ形容詞から入り、その省略という形で
接触節の説明に入る方法とがある。英語の日常会話では、圧倒的に接触節が多く使われる
ので頻度を重視する立場では前者を、構造理解に重点を置く立場では後者をとることとな
ろう。
27-6-NT [関係代名詞(N+CVT)のwhatと疑問詞(EPD)のwhat]
McCawley, J.D. (1988, p.431) は、次の 1-a) の what節を interrogative
complement、1-b) の what節を free relative と呼び、
1)a. I'll ask what he's selling. (Interrogative complement)
b. I'll buy what he's selling.(Free relative)
Bresnan and Grimshaw(1978) によれば、free relative だけが whatever での言いかえを
許すという。
2)a. I'll buy whatever he's selling.
b. *I'll ask whatever he's selling.
一般に、know, guess などの後には indirect question が、wear,
borrow などの後には free relative が続くと言える。(Baker, C.L. 1989, p.226)
ただし、A節を生み出す that/which などと、N節を生み出すこの what とを同じ「関係
代名詞」と呼ぶことは学習英文法ではやめたいものである。
ちなみに、Hamburger and Crain(1982) (in Givon, T. p.10) によれば、3才
以降児の grammatical inventiveness の例として、
3) This is my did it. (This is what I did.)
4) Look-a my made. (Look at what I made.)