1-1 [形態素:ひとつの意味と2つの形(音/文字)]
話し言葉の英語では /d/-/e/-/s/-/k/ という4つの音をこの順番で並
べて発音すると{ふつうは4本足で、その上で本を読んだり、物を書いた
りする家具}を意味するようになります。そして、この /desk/ のように、
いくつかの音がある順番でつながることによってひとつの意味を持つよう
になった「音の組み合わせ」は、一般的に「形態素」(morpheme)と呼ば
れます。
また、上の音の組み合わせ /desk/ は、書き言葉では文字の組み合わせ
desk として表示されます。つまり、英語には他のほとんどすべての言語
同様、ひとつの{意味}を表すための2つの「形」の世界、つまり、「音」
の世界と「文字」の世界がある、ということになります。まとめると、
(1) a. 意味:{ }
b-1. 形(音):/desk/
b-2. 形(文字):desk
1-2 [母音と子音]
ところで、英語にはいくつぐらいの「音」があるのでしょうか。一般的
には、/a/,/e/,/i/,...といった「母音」(vowel) が12に、/p/,/t/,/b/,
...といった「子音」(consonant) が24、合計36音と言われていま
す。これらの音を組み合わせるだけで、数学的には36+36×35+36×35×
34+...+36×35×34×33×32×31×30×29×28×27×26×25×24×23
×22×21×20×19×18×17×16×15×14×13×12×11×10×9×8×7×6×
5×4×3×2×1通りの組み合わせが存在しうるわけですが、この上にさらに
重複を認めればそれこそ「無限の」組み合わせが存在することになります。
もっとも、これらの音の組み合わせすべてが意味を持つわけではありま
せん。例えば、上の desk は、/d/, /e/, /s/, /k/ という4つの音からな
る形態素ですが、これらの音の数が足りなかったり、順序が入れ替わった
りすると、何の意味も伝えないただの音のかたまりになってしまいます。
(*印は「無意味な形、あるいは、文法的でない形」を表します)
(2) a. */d/-/e/
b. */d/-/e/-/s/
c. */d/-/e/-/k/-/s/
d. */k/-/e/-/s/-/d/
また、意味を持つ音の組み合わせ(形態素)のすべてが日常的にしばし
ば使われるというわけでもありません。このうち英語を話す2歳児はふつ
う約300、4歳で約1500、成人でも約20000から50000通
りの意味を持つ音の組み合わせ、つまり、形態素を使っているにすぎない
と言われています。
1-3 [強勢と音調]
音の組み合わせとしての形態素は主に母音と子音で構成されますが、し
ばしばこれらの音以外の要素、つまり、「強勢」(stress)(強く発音する
部分)や「音調」(pitch)(音の高低)などの要素がその構成にからむこ
とがあります。
(3) a. INcrease (N) (増加)
b. inCREAse (V) (増加する)
(4) a. Happy? (幸せ?)
b. Happy! (幸せっ!)
例えば、上の(3a)と(3b)では、同じ increase でも強勢が語の最初に置
かれるときと、後の方に置かれるときとでは意味が違います。同様に(4a)
の Happy? も (4b)の Happy!も音の組み合わせは で同じですが、
音調に違いが見られ、その違いが意味の違いを引き出しています。
このように英語では、微妙な強勢や音調の違いが意味の違いを表し、し
たがって形態素の重要な構成要素となることもあるのです。
1-4 [音と文字]
英語には36の「音」がありますが、それらを表すための「文字」は次
のようなアルファベットの26文字です。このアルファベットの26文字
にはそれぞれ「大文字」(capital letter)と「小文字」(small letter)の
2つの形式があります。
(5) a. 大文字:A, B, C, D, E, F, G, H, I, J, K, L,
M, N, O, P, Q, R, S, T, U, V, W, X, Y, Z
b. 小文字:a, b, c, d, e, f, g, h, i, j, k, l,
m, n, o, p, q, r, s, t, u, v, w, x, y, z
話し言葉で使われている音の数(36)より書き言葉であらわしたとき
の文字の数(26)が少ないということは、実は、困ったことを意味しま
す。当然、次のようなことがしばしば起こるからです。
(i) ある音を表すための文字がない
(6) * ─
(7) * ─
(ii) ある文字が異なる音を表す
(8) a. dot ─
b. to ─
(9) a. picnic ─
b. circle ─
また、長い英語の歴史の中では、次のようなことも起こるようになりま
した。
(iii) ある文字に対する音がない
(10) castle ─ (//は「無音」を表す)
(11) honest ─
(iv) ある音を異なる文字で表す
(12) a. sun ─
b. son ─
(13) a. meet ─
b. meat ─
結局、現代の英語では、音の組み合わせと文字の組み合わせが完全な符
合をしないということがしばしば起こるようになってしまいました。言い
換えれば、現代の英語では発音どおりに書かないとか、書いたとおりに発
音しないということがよくあるのです。