第I章 基本6品詞


LESSON 8  副形態素──転換子(CVT)

 8-1 [転換子(CVT)のいろいろ] 
 前課では、主形態素に付加されその文法特性を変えることなくその意味
をふくらませる副形態素、つまり「拡充子」(EPD)について見てきました。
ここでは、この拡充子とは対照的に、主形態素あるいはその組み合わせに
付加されその文法特性を変える働きをする副形態素、「転換子」(CVT)、の
いろいろについて見ることにします。

 理論上、転換子(CVT)には次のようなものが存在しうることになります。
ただし、(i)-d)、(ii)-d)、(iii)-d)、(iv)-d) のような、転換子が加えら
れた結果文(S)となる形は事実上存在しません。また、(v)-c のような
文(S)から動詞(V)への転換も文(S)の定義上(cf.9-1)存在しませ
ん。

  (i) 名詞(N)を転換する転換子
   a) N−A転換子(N-A CVT)
   b) N−V転換子(N-V CVT)
   c) N−AD転換子(N-AD CVT)
  * d) N−S転換子

  (ii) 形容詞(A)を転換する転換子
   a) A−N転換子(A-N CVT)
   b) A−V転換子(A-V CVT)
   c) A−AD転換子(A-AD CVT)
  * d) A−S転換子

 (iii) 動詞(V)を転換する転換子
   a) V−N転換子(V-N CVT)
   b) V−A転換子(V-A CVT)
   c) V−AD転換子(V-AD CVT)
  * d) V−S転換子

  (iv) 副詞(AD)を転換する転換子
   a) AD−N転換子(AD-N CVT)
   b) AD−A転換子(AD-A CVT)
   c) AD−V転換子(AD-V CVT)
  * d) AD−S転換子

  (v) 文(S)を転換する転換子
   a) S−N転換子(S-N CVT)
   b) S−A転換子(S-A CVT)
  * c) S−V転換子
   d) S−AD転換子(S-AD CVT)

 したがって、英語には、上記*印のついた転換子(CVT)を除く合計15
種類の転換子(CVT)が存在することになります。

 これら転換子(CVT)に共通する要素は、「主形態素あるいはその組み合わ
せに付加され、その文法カテゴリー(品詞)を変える(category-changing)」
ということです。つまり

   (1)  CVT + X  Y

 樹形図は、

   (2)      Y
          / \
         CVT   X

 8-2 [N−A転換子(接辞レベル)の -ful と -'s] 
 ここではまず名詞(N)を形容詞(A)に変える転換子、「N−A転換
子」(N-A CVT)についてその接辞レベルのものを見てみましょう。

   (3)   careful (注意深い) (派生)
   (4)   (careful)
         A
        / \
       N  CVT[N-A]
      (care)  ( -ful)

 上では care という名詞(N)が -ful という接辞レベルの転換子(CVT)
により、形容詞(A)に変えられています。

 類例としては、

   (5) a. John is a careless driver.
       (ジョンは不注意なドライバーだ)
     b. Chris is still childish.
       (クリスにはいまだに子供っぽいところがある)
     c. They were all friendly there.
       (そこの人達はみな親切だった)
     d. This job is quite troublesome.
       (この仕事はとても骨が折れる)

 一方、次のような例でも、名詞(N)の Mom が形容詞(A)の Mom's 
へと変わっています。

   (6)  Mom's bike(屈折)
     (ママの自転車)
   (7)   (Mom's)
         A
        / \
       N  CVT[N-A]
      (Mom)   (-'s)

 上で名詞(N)を形容詞(A)に変えているのは接辞レベルの転換子
(CVT)-'s です。

 類例としては、

   (8) a. Mary's dress   (メアリーのドレス)
     b. Chicago's mayor(シカゴの市長)
     c. the boy's cap  (その少年の帽子)

 N−A転換子(CVT[N-A])の -'s は生産性が高く、人や生き物を表すほ
とんどすべての名詞(N)に付加され形容詞(A)を生み出します。

 8-3 [N−A転換子(接辞レベル)の -'s とN−A転換子(語レベ
   ル)の of ]
   次の2つをくらべてみましょう。    (9)  a. Japan's economy       b. the economy of Japan         (日本の経済)  (9a)と(9b)は同義です。したがって、この本ではそれぞれの下線部を次 のように分析します。    (10)   (Japan's)           A          /  \         N  CVT[N-A]        (Japan)  (-'s)    (11)   (of Japan)           A          /  \       CVT[N-A]  N        (of)  (Japan)  (10)では、接辞レベルのN−A転換子(N-A CVT) -'s が、(11)では、語 レベルのN−A転換子(N-A CVT) of が、Japan という名詞(N)を形容詞 (A)に変えているのです。  8-4 [N−A(D)転換子(語レベル)のいろいろ]   ところで、この of のように名詞(N)を形容詞(A)に変える働きの ある語レベルのN−A転換子は、たいてい、名詞(N)を副詞(AD)に 変える働きも持っています。次の by の例を見てみましょう。    (12) Look at the tall man by the window.       (窓のそばの背の高い男をごらんなさい)    (13) Stand by the window.       (窓のそばに立ちなさい)  (12) の by the window は、名詞(N) の the tall man にかかり、 (13) の by the window は動詞(V)の stand にかかっています。した がって、前者は形容詞(A)句、後者は副詞(AD)句です。  見方を変えれば、(12)の by は the window という名詞(N)句につ くことにより形容詞(A)句を生み出し、(13)のby は副詞(AD)句を 生み出しています。したがって、この by にはN−A転換子としての働き と同時にN−AD転換子としての働きもあるということになります。した がって、この本では、このような転換子を「N−A(D)転換子」(N-A(D) CVT)と呼ぶことにします。  (12) と (13) の2つの by the window の樹形図は、それぞれ、    (14) (by the window)    (15) (by the window)          A             AD         / \           / \      CVT[N-A]  N       CVT[N-AD]  N       (by)  (the window)    (by)  (the window)  語レベルのN−A(D)転換子には、上の of や by のほかに次のよう なものがあります。    (16) a. They were on the way to school.  [N-A]        (彼等は学校へ行く途中だった)      b. They went to school.        [N-AD]        (彼等は学校へ行った)    (17) a. The water in the bathtub somehow disappeared. [N-A]        (バスタブの水がどうゆうわけか消えていた)      b. I can sing pretty well in the bathtub.    [N-AD]        (私は風呂場では結構上手に歌える)    (18) a. My boss saw his secretary with me.      [N-A]        (私の上司が私と一緒の彼の秘書を見てしまった)      b. Come with me.                [N-AD]        (私と一緒に来なさい)    (19) a. Mental development at the age of three has been        researched thoroughly.              [N-A]        (3才児の知的発育状況が徹底的に研究された)      b. Jimmy was given a piggybank at the age of three.[N-AD]        (ジミーは3才の時にブタちゃん貯金箱をもらった)  N−A(D)転換子(N-A(D) CVT)として良く使われるのは、上記 of, by, to, in, with, at の6つを含む次のようなものです。  <N−A(D)転換子のいろいろ> (エイザー、下、p.240)    (20) about before despite of to       above behind down off toward(s)       across below during on under       after beneath for out until       against beside from over up       along besides in since upon       among between into through with       around beyond like throughout within       at by near till without  句レベルのN−A(D)転換子としては。    (21) a. The foreigner spoke to the man in front of me. [N-A]        (その外国人は私の前にいた男に話しかけた)       b. Don't stand in front of me.          [N-AD]        (私の前に立たないでください)    (22) a. Absence because of the storm can't be excused. [N-A]        (嵐のために欠席したなんて言い訳にはなりません)       b. The game was cancelled because of the storm. [N-AD]        (その試合は嵐のために中止となりました)  8-5 [複数の意味を持つN−A(D)転換子(語レベル)]   ひとつのN−A(D)転換子がいくつかの意味を持つ場合もあります。   (23) a. The dictionary was lying on the bookshelf.   場所       (辞書は本棚の上にのっていました)     b. The graduation ceremony will take place on March 20th.       (卒業式は3月20日に行われます)       時     c. I need some books on American history for my assignment.       (宿題でアメリカの歴史関係の本が必要なんです) 関連   (24) a. He rarely stayed in the same town for more than a week.       (彼は滅多に1週間と同じ町にいることはなかった)時間     b. Thank you for calling.       (お電話をありがとうございます)      原因・理由     c. Let's go for a drive in my new car.       (私の新車でドライブに行きませんか)    目的・結果  8-6 [OM-NI 転換子:]   拡充子(EPD)にOMNI拡充子(cf. 7-12)があったように、名詞(N)、 形容詞(A)、動詞(V)、副詞(AD)、文(S)のすべてに付加され、 それらを転換する「OM-NI転換子」(OM-NI CVT)と呼ぶべきものもありま す。ゼロ変化をもたらす転換子(CVT) がそれです。      <OM-NI転換子 のいろいろ>    (i) 名詞(N)に付加されるもの    (25) a. [ + boy]+friend → boy friend(男の友達) [N-A]       b. [ + breakfast]+-ed → breakfasted(朝食を食べた)       c. [ + yesterday] → yesterday(昨日) [N-AD]   (ii) 形容詞(A)に付加されるもの    (26)   [+ valuable] + -s(貴重品)  [A-N]   (iii) 動詞(V)に付加されるもの    (27)   bus+ [+ stop](バス停)    [V-N]   (iv) 副詞(AD)に付加されるもの    (28)   unlike+ [+ in UK](英国の場合と違って)[AD-N]    (v) 文(S)に付加されるもの    (29)   I think + [+[you told a lie]]  [S-N]        (君はウソをついたんだと思う)  8-7 [6つの基本的な文法カテゴリ−:4つの主形態素と2つの副形
   態素]
   かくして、形態素は次のような6つの基本的な文法カテゴリ−(品詞) に分類されることになります。    (i) 主形態素        a) 名詞(N)        b) 形容詞(A)        c) 動詞(V)        d) 副詞(AD)    (ii) 副形態素        a) 拡充子(EPD)        b) 転換子(CVT)  そして、すべての形態素は、拡充あるいは転換により「語」、「句」へ とふくらみますが、それらは結局4つの主形態素グル−プ(N、A、V、 AD)のどれかに収斂(しゅうれん)し、さらにそのうちのいくつかは次 の課で学ぶN+Vの形、つまり、S(文)に収斂します。しかも、この収 斂はさらなる拡充と転換によりこの5つの文法カテゴリ−(N、A、V、 AD、S)の間で繰り返されるのです。

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