第I章 基本6品詞


LESSON 7  副形態素──拡充子(EPD)

 7-1 [拡充子(EPD)のいろいろ] 
 2-7 で、我々は副形態素を (i) 主形態素の文法特性を変えない拡充子
(EPD)と、(ii)主形態素の文法特性を変える転換子(CVT)とに分類しま
した。ここでは、まず、(i) の拡充子(EPD)についてさらにくわしく見
てみることにしましょう。理論的には、次のようなものが存在します。

    (i) 「N拡充子」(N EPD)(Nを拡充する)
    (ii) 「A拡充子」(A EPD)(Aを拡充する)
   (iii) 「V拡充子」(V EPD)(Vを拡充する)
    (iv) 「AD拡充子」(AD EPD)(ADを拡充する)
    (v) 「S拡充子(S EPD)(S(cf.9-1)を拡充する)

 これら拡充子(EPD)に共通する要素は「主形態素あるいはその組み合
わせに付加され、その文法カテゴリー(品詞)を変えない(category-
maintaining)」ということです。つまり、

   (1)  EPD +X  X

 樹形図で示すと、

   (2)   X
       / \
      EPD   X

 7-2 [N拡充子(接辞レベル){複数}: PL ] 
 まず最初に、名詞(N)を拡充するN拡充子を見てみましょう。N拡充
子についてそのすべてをここで扱うことはできませんが、ここでは代表的
なものとして名詞(N)に{複数}の意味を加える接辞レベルの拡充子、
「N拡充子{複数}」(N EPD {Plural})あるいは PL について見ること
にします。このN拡充子 PL は、可算名詞(Nc)に付加され、複数形
(cf.3-4)という新しい「語」を生み出します。次の -s や -es がその例
です。

   (3) a. two dogs(2匹の犬)
     b. two books(2冊の本)
     c. two dishes(2枚の皿)

 これらの -s や -es は、それぞれの単数形に{複数}という意味を加
え、複数形を生み出しています。

 これらは、言わば、次のような樹形図で表されます。

   (4)   (dogs)
         N
       /  \
      N   EPD[PL]
     (dog)   (-s)

   (5)   (books)
         N
       /  \
      N   EPD[PL]
     (book)   (-s)

   (6)   (dishes)
         N
       /  \
      N   EPD[PL]
     (dish)   (-es)

 7-3 [可算名詞(Nc)の規則複数形:-s/-es ] 
 上で、dog につく -s  は /z/ と発音され、book につく同じ  -s  は
/s/ と発音されます。{複数}を表す形態素が、文字としてはひとつの 
-s 、音としては /z/ と /s/ という2つの形をとっていることに注目し
ましょう。

 さらに、英語には (6) のように  -es という形で /iz/ と発音される
{複数}の形態素もありますので、結局、英語では{複数}という意味を
表す形態素(規則形)は、文字としてはたいてい  -s  あるいは  -(e)s 
という2種類の形で表され、音としては /s/,/z/,/iz/ という3種類の形
で発音されるということになります。

 また、これらの -s や -es とその発音 /s/,/z/,/iz/ との関係には -s
や -es の「直前の音」が大いにからんでいることがわかっています。つま
り、一般的に /g/ や /r/ など有声音で終わる語の後では、{複数}の意味
を表す形態素は -s となり /z/ と発音され、/k/ や /t/ など無声音の後
では同じ -s が /s/ と発音されるのです。一方、// や // などの後
では{複数}を表す形態素は -es となり/iz/ と発音されるのです。具体
例をあげてまとめてみましょう。

    <規則複数形(regular plural form)>   (Swan, p.525)

   (i) 文字 -s 、音 /-z/となるもの。(母音や多くの有声子音の後で)
   (7) songs(歌), beds(ベッド), days(日々), dreams(夢),
      hills(丘), trees(木々), visas(ビザ),1960's(19
      60年代), MC's (司会者たち), A's (成績のA), など。

  (ii) 文字 -s 、音/-s/ となるもの。(/p/,/f/,/θ/など無声子音の
     後で)
   (8) books(本), hats(帽子), close-ups(クローズ・アップ),
      beliefs(確信),deaths(死),など。

  (iii) 文字 -es 、音 /-iz/ となるもの。(/s/,/z/,//,//などの
     歯擦音の後で)
   (9) dishes(皿),  churches(教会),  buses(バス),
      boxes(箱), bridges(橋),quizzes(クイズ),
      lenses(レンズ),houses/-ziz/(家),など。

 7-4 [可算名詞(Nc)の不規則複数形:-ren, etc.] 
 このように-(e)s を付加され規則的変化をする複数形とは別に、不規則
変化をする複数形もあります。

   (10) a. two children(2人の子供)
     b. two geese(2匹のガチョウ)
     c. two sheep(2頭の羊)

 (10a)では語尾の -ren が、(10b)では oo→ee という母音変化が、(10c)
では「ゼロ変化の拡充子:」(expander )が、それぞれ、{複数}とい
う意味を表しています。

 上の下線部は、したがって、次のような樹形図で表わされます。

   (11)   (children)
         N
        /  \
       N   EPD[PL]
      (child)  (-ren)

   (12)   (geese)
         N
        /  \
       N   EPD[PL]
      (goose)  (oo→ee)

   (13)   (sheep)
         N
        /  \
       N   EPD[PL]
      (sheep)  ()

 このことは、英語では{複数}を表す形態素には、規則形 -s, -es の
ほかに、-ren, oo→ee,  などの不規則形がある、ということを意味し
ます。

 これらの不規則形をまとめると、

    <不規則複数形(irregular plural form)>

   (i) -(e)s 以外の付加(代入を含む)。
   (14) ox/oxen(雄牛),  crisis/crises(危機), 
      criterion/criteria(基準), stimulus/stimuli(刺激), 
      など。

   (ii) 母音の変わるもの。
   (15) foot/feet(足先), tooth/teeth(歯), woman/women(婦人),
      mouse/mice(ハツカネズミ), など。

  (iii) 無変化のもの(単複同形)。
   (16) fish(魚),  deer(鹿), sheep(羊), means(手段),
      series(ひと続き), species(種), headquarters(本部), 
      crossroads(十字路), Japanese(日本人), など。

 かくして、{複数}という意味を表すN拡充子、PL、を意味と形という
観点でまとめると、次のようになります。

    <{複数}のN拡充子:PL>
   (i)  PLの意味:{複数}
   (ii)  PLの形(1)(文字):-s, -es, -ren, oo→ee, -, など。
  (iii)  PLの形(2)(音):/s/, /z/, /iz/, /rn/, /u:→i:/, //, 
      など。

 7-5 [N拡充子(語レベル){不定}:INDF ] 
 N拡充子のうち語レベルのものとして代表的なのはa(n)です。a(n) は、
その後に続く名詞(N)が{不定}(Indefinite, この本では INDF)で
あることを表し、a(n)+Nの形で名詞(N)句を作ります。つまり、「N
拡充子{不定}」(N EPD{Indefinite})あるいは  INDF の a(n) は次の
ような形で使われるということになります。

   (17)   N
       / \
    EPD[INDF]  N
    (a(n))

 {不定}のN拡充子 a(n) は、多くの場合(i){不定の}という意味の
他に、(ii){ひとつの}という意味をも表します。

   (18) I'll finish the job in a day or two.
     (その仕事、1日か2日で仕上げますよ)
   (19) I saw a bird under a car.
     (一台の車の下に一羽の鳥がいた)

 7-6 [a と an] 
 同じ意味と機能を持つ a と an の使い分けについては、発音のしやす
さと関係があります。つまり、その後に続く語が(スペリングとは関係な
く)母音で始まるときはan となり、それ以外の音で始まるときは a とな
るのです。

   (20) a.  an egg −  /n + eg/   (1個の卵)
     b. *a egg  − */ + eg/
   (21) a.  an honest man  −   /n + nst + .../
                     (一人の正直な男)
     b. *a honest man   −  */ + nst + .../
   (22) a.  a book   −   / + buk/   (一冊の本)
     b.  *an book  −  */n + buk/

 7-7 [a(n)+A+Nu] 
 不可算名詞(Nu)は、ふつう、a(n) だけで拡充されることはありませ
ん。「ひとつの」という意味を持つ a(n) と、「数えられない」ことを特
徴とする不可算名詞(Nu)の組み合わせは論理的にも矛盾しています。

   (23)   (* a rain)
         *N
         / \
     EPD[INDF]  Nu
      (a)   (rain)

しかし、形容詞(A)を伴うとその不可算名詞(Nu)の具象性が高まり、
「境界線」がはっきりするためでしょうか、a(n) が不可算名詞(Nu)に
先行する次のような形はしばしば見られます。

   (24)   (a heavy rain)
           N
          / \
      EPD[INDF]  N
        (a)  / \
           A   Nu
          (heavy) (rain)

 類例としては、

   (25) a. *a wine
     b. a delicious wine  (うまいワイン)
   (26) a. *an education
     b. a good education   (良い教育)    (Swan, p.139)
   (27) a. *a knowledge
     b. a first-class knowledge(一級品の知識) (Swan, p.139)

 7-8 [N拡充子(語レベル){定}:DEF ] 
 N拡充子(語レベル)としてもうひとつのものは{不定}に対して{定}
(Definite, この本では DEF)を表す the です。「相手がそれとわかる、
と話し手が考えている」ときに「その」、「例の」などの意味で使われま
す。この the を、この本では、「N拡充子{定}」(N EPD{Definite})
あるいは  DEF と呼びます。

 この「相手がそれとわかる、と話し手が考えている」という意味は、も
う少し具体的に述べると次のようなものです。

   (i) すでに述べられたもの
   (28) I bought a house.  The house has seven rooms.
     (家を買った。その家には7つ部屋がある)
   (29) I bought a house.  The kitchen is rather large.
     (家を買った。その台所はかなり広い)

   (ii) 周囲の状況でそれとわかるもの
    a)目前にあるもの
   (30) Look at the door.
     (見て、入口のところ)
   (31) Stand by the window over there.
     (あそこの窓のそばに立って)
    b)常に存在するはずのもの
   (32) Where's the police station?
     (警察署はどこですか)
   (33) Let's keep the earth green.
     (地球を環境汚染から守ろう)
    c)拡充する語/句/節とともに
   (34) I talked with the one/only/last student who needed 
      help.
     (私は助けを必要としているひとりの/唯一の/最後の学生と話
      した)
   (35) She is the best singer I know.
     (彼女は私の知っている最上のシンガーだ)
   (36) Nobody knew the fact that the world is round.
     (誰も地球が丸いという事実を知らなかった)
    d)種類全般(文章体)
   (37) The lizard is a reptile.
     (トカゲは爬虫類だ)
   (38) The color blue is my favorite.
     (青色は私のお気に入りの色だ)

 ちなみに、これら the を含む名詞(N)句の樹形図は、

   (39)   N
       / \
    EPD[DEF]  N
     (the)

 7-9  [その他のN拡充子(語レベル)] 
 語レベルのN拡充子には {不定}(INDF)、{定}(DEF)を表すもののほかに、
次のように {数量}(quantifier)や{指示}(demonstrative)を表すものもあ
ります。これらはそれぞれ「N拡充子{数量}」(N EPD{Quantifier})
あるいは QUANT「N拡充子{指示}」(N EPD{Demonstrative})ある
いは DEM と呼ばれることになります。

   (i)N拡充子{数量}(QUANT)
   (40) a. This cost me one dollar/*dollars.   Nc(Sg/*Pl)
       (これに1ドル払った)
     b. This cost me two dollars/*dollar.   Nc(Pl/*Sg)
       (これに2ドル払った)
   (41) a. There are some books/*book.      Nc(Pl/*Sg)
       (本が数冊ある)
     b. There is some milk/*milks.      Nu(Sg/*Pl)
       (ミルクが少しある)
   (42) a. She showed a few counterexamples/*counterexample.
       (彼女はいくつかの反例を示した)    Nc(Pl/*Sg)
     b. She showed a little interest/*interests.
       (彼女は多少の関心を示した)      Nu(Sg/*Pl)
   (43) a. She showed few counterexamples/*counterexample.
       (彼女は反例をほとんど示さなかった)  Nc(Pl/*Sg)
     b. She showed little interest/*interests.
       (彼女はほとんど関心を示さなかった)  Nu(Sg/*Pl)
   (44) a. They gave us many souvenirs/*souvenir.
       (彼等はおみやげを沢山くれた)     Nc(Pl/*Sg)
     b. They gave us much hospitality/*hospitalities.
       (彼等はおおいにもてなしてくれた)   Nu(Sg/*Pl)
   (45) a. We have no car/cars.
       (我々は車を持っていない)       Nc(Sg/Pl)
     b.  We have no money/*moneys.
       (我々にはお金がない)         Nu(Sg/*Pl)

   (ii)N拡充子{指示}(DEM)
   (46) a. The first man/men landed on the moon.
       (最初の人/人達が月に降り立った)   Nc(Sg/Pl)
     b. The last man/men left the ship.
       (最後の人/人達が船を離れた)     Nc(Sg/Pl)
   (47) a. This/That book/*books is mine.
       (この/あの本は私のです)       Nc(Sg/*Pl)
     b. These/Those books/*book are all mine.
       (これらの/あれらの本はみな私のです) Nc(Pl/*Sg)
   (48) a. Each member/*members agreed.
       (メンバ−はみな賛成した)       Nc(Sg/*Pl)
     b. Every member/*members agreed.
       (メンバ−はみな賛成した)       Nc(Sg/*Pl)
     b. All members/*member agreed.
       (メンバ−はみな賛成した)       Nc(Pl/*Sg)
   (49) a. Neither answer/*answers is correct.
       (どちらの解答も正しくない)      Nc(Sg/*Pl)
     b. Both answers/*answer are correct.
       (2つの解答はともに正しい)      Nc(Pl/*Sg)

 これらには、(i)可算−不可算で使い分けるもの、(ii)単数−複数で使
い分けるもの、があることに注意しましょう。

 7-10  [A(D)拡充子{比較級}:CMP ] 
 形容詞(A)や副詞(AD)に付加され、より大きな語や句を作る拡充
子として代表的なものは{比較級}を表す -er とmore です。

 -erは、どちらかというと短めの語につき、「より〜な/に」という意
味を加え新たな語を生み出します。一方、more は-er と意味は同じです
が、おおむね長めの語に付加されて新たに句を生み出します。例えば、

  (i) 比較級を表すA拡充子:-er/more
   (50) a. John is shorter than Dex.
      b. *John is more short than Dex.
       (ジョンはデックスより背が低い)
   (51) a. Mary is more talkative than Susan.
      b. *Mary is talkativer than Susan.
       (メアリーはスーザンよりおしゃべりだ)

  (ii) 比較級を表すAD拡充子:-er/more
   (52) a. Dan eats faster than Joe.
      b. *Dan eats more fast than Joe.
       (ダンはジョーより食べるのが速い)
   (53) a. Grandma talks more slowly than Grandpa.
      b. *Grandma talks slowlier than Grandpa.
       (おばあちゃんはおじいちゃんよりゆっくりとしゃべる)

 そしてこの本では、これらの -er や moreを「A(D)拡充子{比較級}」
(A(D) EPD{Comparative})あるいは CMP と呼ぶことにします。

 この本では、しばしば、接辞レベルの副形態素と語/句レベルの副形態
素をひとまとめにして考えます。まさにここで見るように、例えば、接辞
レベルの -er と語レベルの more は、一方は語を作り、他方は句を作りま
すが、拡充子としての意味と機能は同じだからです。ちなみに、上記(50a),
(51a), (52a), (53a) の下線部を樹形図で表すと、

  (i)A拡充子{比較級}
   (54)  (shorter)      (55)  (more talkative)
         A               A
        / \             / \
       A  EPD[CMP]        EPD[CMP] A
      (short)  (-er)         (more)  (talkative)

  (ii)AD拡充子{比較級}
   (56)  (faster)       (57)  (more slowly)
        AD              AD
        / \             / \
      AD  EPD[CMP]       EPD[CMP]  AD
      (fast)  (-er)        (more)  (slowly)

 一般に、-er形をとる形容詞(A)や副詞(AD)は more形をとらず、
逆に、more形をとる形容詞(A)や副詞(AD)は -er形をとらないのが
普通ですが、マレに、次の(58)や(59)のように -er形とmore形をともに持
つものもあります。(Baker, p.381)

   (58) a. lovelier      more lovely   (より愛らしい)
      b. narrower      more narrow   (より狭い)
      c. commoner      more common   (より一般的な)
      d. pleasanter     more pleasant (より快適な)
   (59)   oftener       more often    (よりしばしば)

 さらには、長い歴史を持つ形容詞(A)や副詞(AD)の中には、上の
ような規則形ではなく、古い形を残した不規則形をとるものもあります。

   (60) a. CMP + good(良い)  better/*gooder(より良い)
      b. CMP + bad(悪い)   worse/*badder(より悪い)
      c. CMP + little(小さい)  less/*littler(より小さい)
   (61) a. CMP + well(上手に)  better/*weller(より上手に)
      b. CMP + badly(下手に)  worse/*badlier(より下手に)
      c. CMP + little(少なく)   less/*littler(より少なく)

 このような場合、樹形図は、

   (62) (better/worse/less)  (63) (better/worse/less)
          A             AD
         / \            / \
      EPD[CMP]   A       EPD[CMP]  AD
          (good/bad/little)      (well/badly/little)

 7-11 [A(D)拡充子{最上級}: SUP ] 
 形容詞(A)や副詞(AD)に付加され、より大きなAやADを作る拡
充子としてさらに、-est と most があります。

 -est は、どちらかというと短めの語につき、「最も〜な/に」という
意味を加え、新たな語を生み出します。一方、 most は、-est と意味は
同じですが、おおむね長めの語に付加されて新たに句を生み出します。

  (i) 最上級を表すA拡充子:-est/most
   (64) a. John is the shortest.
      b. *John is the most short.
       (ジョンは最も背が低い)
   (65) a. Mary is the most talkative.
      b. *Mary is the talkativest.
       (メアリ−が最もお喋りだ)

  (ii) 最上級を表すAD拡充子:-est/most
   (66) a. Dan eats fastest.
      b. *Dan eats most fast.
       (ダンは食べるのが一番速い)
   (67) a. Grandma talks most slowly.
      b. *Grandma talks slowliest.
       (おばあちゃんが一番ゆっくりとしゃべる)

 そして、この本では、これらの-estやmostを「A(D)拡充子{最上級}」
(A(D) EPD{Superlative})あるいは SUP と呼ぶことにします。(64a)、
(65a)、(66a)、(67a)下線部の樹形図は次のようなものとなります。

   (68)  (shortest)     (69)  (most talkative)
         A               A
        / \             / \
       A  EPD[SUP]       EPD[SUP]  A
      (short) (-est)        (most)  (talkative)

   (70)  (fastest)      (71)  (most slowly)
         AD             AD
        / \            / \
       AD  EPD[SUP]      EPD[SUP]  AD
       (fast)  (-est)       (most)  (slowly)

 なお、-est/most の両形を持つものとしては、

   (72) a. oftenest(最もしばしば)   (Quirk, p.465)
      b. most often(最もしばしば)

 さらに不規則形としては、

   (73) a. SUP + good(良い)    best/*goodest(最良の)
      b. SUP + bad(悪い)     worst/*baddest(最悪の)
      c. SUP + little(少ない)  least/*littlest(最も少ない)

   (74) a. SUP + well(上手に)  best/*wellest(最も上手に)
      b. SUP + badly(下手に)  worst/*badliest(最も下手に)
      c. SUP + little(少なく)  least/*littlest(最も少なく)

 7-12  [OMNI拡充子: OMNI ] 
 これまで、Nを拡充する拡充子(-(e)s, など)、A(D)を拡充する
拡充子(-er/more/-est/mostなど)を見てきました。また、後でVを拡充
する拡充子(cf.12-1〜16-3)やSを拡充する拡充子(cf.17-1〜21-8)も
見ることにします。しかし、ここでは 名詞(N)、形容詞(A)、動詞
(V)、副詞(AD)、文(S)(cf.9-1)すべてを拡充することができ
る拡充子について見ることにします。このような拡充子を「OMNI拡充
子」(OMNI EPD)あるいは OMNI(cf.8-6, OM-NI転換子の)と呼ぶこと
にしますが、その代表的なものは and です。この and は、2つ以上の名
詞(N)、動詞(V)、形容詞(A)、副詞(AD)、文(S)をつなぎ、
それらの文法カテゴリーを変えることなくより大きな意味のかたまりを作
ります。例えば、

   (75) a. ham and eggs  (N and N  N)
       (ハムエッグ)
      b. good and old  (A and A  A)
       (古き良き)
      c. hit and run   (V and V  V)
       (ひき逃げをする)
      d. slowly and carefully  (AD and AD  AD)
       (ゆっくりと丁寧に)
      e. Joe loves Jill and Jill loves Ken. (S and S  S)
       (ジョーはジルが好き。そしてジルはケンが好き)

 最初の例、ham and eggs では、ham, eggs という2つの名詞(N)が 
and によってつながれ、より大きな名詞句となっています。

   (76)   (ham and eggs)  [拡充]
           N
         /  |  \
        N EPD[OMNI] N
       (ham)  (and)  (eggs)

 このとき、唯一の条件は、andによってつながれる2つの文法カテゴリー
が同じものでなければならない、ということです。たとえば、次のような
形は英語では認められません。

   (77) a. *N and A
      b. *N and V
      c. *V and AD
      d. *ADand N

 また、3つ以上のものが並ぶときは、次のように最後のものの直前に and
をひとつだけ置きます。

   (78) a. N, N, and N
      b. A, A, and A
      c. V, V, and V
      d. AD,AD,and AD
      e. S,S, and S

 その他のOMNI拡充子としては、次のようなものがあります。

   (79) Here or to go?
      (ここでお召しあがりですか、お持ち帰りですか)
   (80) Johnny is slow but steady.
      (ジョニーはゆっくりとだが確実だ)
   (81) This is beneficial to both you and me.
      (これはあなたにとっても私にとっても良い話だ)
   (82) Either you or I am wrong.
      (君か僕かのどちらかが間違っているんだ)
   (83) These kids speak not only English but also Spanish.
      (この子達は英語だけでなくスペイン語も話す)

Copyright(C) 2004 Masaya Oba. All rights reserved.