12-1-NT-(A) ［法(mood)と法性(modality)］
法(mood)と法性(modality)とはしばしば混用されているようである。法も法
性もともに本来は「話し手の心的態度」を表すという点で共通点を持つが、現在では、
多くの場合、法(mood)は直説法、 仮定法 、命令法の別を表し、法性(modality)は意志、
許可、禁止、義務などの別を表す。ここ(Lesson 12)で扱うcan,may などのＶ拡充子は、
しばしば「法助動詞」と呼ばれるが、上の区別に従えば「法性助動詞」と呼ばれるべき
ものである。
ちなみに、安井（1944, pp.499ff) によれば、法性には次のようなものが
ある。
a. 意志 b. 許可 c. 禁止
d. 強制・義務 e. 義務・必要性の欠如 f. 能力
g. 可能性 h. 不可能性 i. 認識様態的必然性
j. 蓋然性・期待 k. 願望 l. 習慣
m. dare
12-1-NT-(B) ［一次助動詞と二次助動詞］
伝統的学習英文法では、「助動詞」という文法カテゴリ－を設定し、Twaddell,
W.F.(1961)に従い、次のような分類をするものが多い。（cf.安藤貞、p.169）
1)a. 一次助動詞:be, have, do
b. 二次助動詞:can/could, may/might, ...
「一次助動詞」(primary auxiliaries)は、語彙的な意味をほとんど持たない
とされ、「二次助動詞」(secondary auxiliaries)は、「法助動詞」(modals)とも呼ばれ、
主として話し手の心的態度を示すものとして、明確な語彙的意味をとどめているとされ
る。また、後者は(i)-(e)sや-(e)dなどの屈折をもたない、(ii)*to can のように、to
と共起しない、などの点で前者に比べ defective であるとされる。（cf. Wardhaugh, R.,
p.18;Long, R.B., p.177)
この本では、1-a) の be はＶ拡充子 be-ing, be-en の一部として、have も同
じくＶ拡充子have-enの一部として扱う。また、do は文（Ｓ）に｛強調」の意味を加える
オペレ－タ－（operator)の DO として扱う。一方、1-b) は全て｛法性｝のＶ拡充子とし
て分類される。
12-1-NT-(C) ［Expandの定義］
動詞（Ｖ）が意味と形の上で大きくふくらむことを"expand" という表現を使
って表現する文法家は多いが、それぞれ細部において指すものが異なる。これらの文法
家は大きく次の３つのグル－プに分かれる。
(i) be＋Ｖing 形を expanded form とするもの
初出はJespersen, O.（"expanded tenses" in MEG,1931/61,p.164）のようで
あるが、Allen, R.L.(p.114)は、次のようないくつかの "Verb Clusters"を設定し、
そのうち特に、5) の be + ing-form を Expanded Verb-cluster と呼んでいる。
1) TENSES (Past&Present)
2) WILL/SHALL (Future Verb-clusters)
3) WILL/SHALL/CAN/MAY...(Modal Verb-clusters)
4) HAVE + alpha (Perfect Verb-clusters)
5) BE + ing-form (Expanded Verb-clusters)
6) BE + d-t-n form (Passive Verb-clusters)
(ii) do ＋ Ｖ形をexpanded formとするもの
Long, R.B.(p.177）は、do + Ｖの形のみを expanded form と呼んでいる。
また、can＋Ｖ などは、*cans ＋Ｖなどの用法がないところから、expanded forms に準ず
る形として defectives と呼んでいる。 (cf.Wardhaugh, R. p.18)
(iii) tense, modality, aspect(perf+prog) が動詞を"expand"するとするもの
Morenberg, M.(p.26) は、tense, modality, aspect(perf+prog) を含む動詞句
を Expanding Verb Phrases の項で扱っているが passは抜けている。(cf.Chomsky, N.
1957)
この本では、(iii)を改良して、呼応(AGR)、法性(MOD)、相(PERF/PROG)、態
(PASS)それぞれに対応する「Ｖ拡充子」を設定する。これらＶ拡充子は、動詞（Ｖ）に
それぞれの意味を加え、ふくらませるのである。
12-2-NT ［能力/許可のcan］
このような「能力」、「可能性」、「許可」といった伝統的な法性分類法は
便利ではあるが、それぞれの境界線がしばしばはっきりせず、必ずしも科学的とは言え
ない。次の Lobeck, A.(p.119)の解説と例参照。
... the sentences are ambiguous with respect to their different
modalities.
1) You may not get elected. (possibility or permission)
2) Can I have the car tonight? (ability, permission)
3) He should get home soon. (prediction, obligation)
4) You can have the car tonight, but may you is the question.
(can=permission/ability, may=permission)
また、West, M. のリストでも、
can (i)(idea of capacity) 71%
(10,552examples) 5) He can speak French.
6) Can I have one of these?
(ii)(idea of possibility:hardly distinguishable from (i)) 26%
7) It can't be true.
というように、「許可」は「能力」の中に含まれており、しかも「可能性」との区別はむ
つかしい(hardly distinguishable)とされている。
そこで、これら｛法性｝の多義性について、辞書や伝統的文法書の立場に満足せ
ず核心的意味（core meaning）を設定し、その他の派生的意味は文脈によって生じるとす
る Perkins, M.R.(1982;1983）などの立場も生まれた。（cf.荒木・安井、p.865)
12-3-NT-(A) ［２つの時制］
中尾ほか（p.104） によれば、「ＯＥ以来英語の時制は現在と過去の２種類
だけ」であるが、伝統的な学習英文法では未来形を含む３時制、あるいは、相などを含む
１２時制をとるものも多い。(cf.Celce-Murcia&Larsen-Freeman, 1983, pp.61-66)
この本では、Kaplan, J.P.(p.173) の「passive tense, subjunctive tense,
progressive tense と言う言い方はナンセンス。 passive は voice, subjunctive は
mood, progressive は aspect だから」 という立場をとる。また、未来形の will に
ついて言えば、Palmer, F.R.(p.111) や McCallum-Bayliss, H.（p.92）の言うように、
「will は Tense Marker ではなく、Modal である」と考える。(cf.9-2-NT)
12-3-NT-(B) ［will の意味と頻度］
West, M. のリスト(pp.565-566)による will の意味と頻度は次のようなもの
である。（例文は抜粋）
will (i)(intend, be determined to, used with stress) 2%
(16302ex.) 1) They will do it, although I tell them not to.
Will,'ll, (ii)(be in the habit of, ...) 3.1%
won't,would 2) Give me anything that will hold water.
(iiia)(choose to, be agreeable to) 8.3%
3) He said he would help me.
(iiib)(the simple future tense)
(referring to immediate action) 22.3%
4) Well, I'll say good-bye.
(Meanings (iii-a) and (iii-b) are not easily distinguished.)
(iv)(in conditional clauses) 57.1%
5) If you go there, you will see him.
(v)(hypothetical) 1.8%
6) Would you like to ...?
12-3-NT-(C) ［現在形による未来 vs will による未来］
一方で現在形は未来の事柄を表さないかと言うとそうではない。安井（1987,
p.197）によると、次のように、現在形による未来（Ｆ構文）は「断定」、will による
未来は「推測（の域を出ない事柄）」となる。
1) The Yankees play the Red Sox tomorrow. （断定）
2)*The Yankees play well tomorrow.
3) The Yankees will play well tomorrow. （推測）
12-3-NT-(D) ［予定のwill］
次のような、予定を表す will は、いわゆる意志未来と単純未来の中間に位置
すると考えられる。
1) Mr.Turner will leave tomorrow. (小西ほか、p.2062)
2) I will do that now. (Lobeck,A. p.120)
12-4-NT-(A) ［may の意味と頻度］
West, M.(pp.299-300) のリストによる may の意味と頻度は次のようなもので
ある。
may,might (i)(showing possibility) 56%
(8831examples) 1) He may come, or he may not.
in 500万例） (ii)(showing permission) 6%
2) May I leave this with you?
(iii)(showing hope) 1%
3) May you live long!
(iv)(equivalent of a subjunctive) 12%
4) So that he may know in time.
(with words expressing fear or hope) 5%
5) Afraid that he might catch cold.
12-4-NT-(B) ［ＡＤ vs EPD］
一部のＶ拡充子 MOD は、意味の上で副詞（ＡＤ）と区別がつかない。
1)a. Possibly he is ill. (Young, D.J., p.80)
b. He may be ill.
また、安井（1987, pp.205-206）によれば、この２つは「その間に協調関係が成り立つ
とき」、共起可能である。
2) Possibly, it may survive.
また、次の例から、
3)a. The toy may {*certainly/*probably/possibly} be dangerous.
b. The toy must {certainly/*probably/*possibly} be dangerous.
may は possibly と、must は certainly と協調関係をつくることが分かるとする。
多分、どの言語でもそうだと思われるが、意味的な「不整合」にはきびしく
とも、「重複」には寛大である。例えば、英語の次の例では、｛過去｝という情報が-ed
とyesterday で重複している。
4) I worked hard yesterday.
12-4-NT-(C) ［可能性の can と may］
McCallum-Bayliss, H. (p.14) は、Modals を 次のような Probability の
scale の中でとらえようとする。
1) ｜ NECESSITY ｜ HIGH LIKELIHOOD ｜ POSSIBILITY
｜ ｜ ｜
[+ground] ｜ (have to) ｜ will ｜ can
｜ ｜ ｜
[-ground] ｜ must ｜ shall ｜ may
｜ ｜ ｜
これによると、POSSIBILITY を表す can や may は、 must、will などより
probability 低く、この２つの間では can の方が「論拠」（+ground) がある分論理
的可能性を、may の方は主観的可能性（-ground)を表す分、確信度は弱い。したがって、
次の 2-a), 2-b) では、
2)a. Anybody can make mistakes.
b. He may make mistakes. (Leech, G.N. p.69）
2-a) は、「だれでも そういう可能性がある」、2-b) は、「話し手が、たぶんそうな
るだろうと思っている」という意味になる。
また、小西ほか(p.1043)では、 might-may-could-can-should-ought to-would
-will- must の順で確信度は強くなるとする。
また、安井(1987, p.200) によれば、can と may の違いとして、これらはとも
に可能性を表すが、常に交替可能なわけではない。例えば、次の 3-a)～3-d) において、
3)a. Careful, that gun may be loaded. （～かもしれない）
b. It is possible that the gun is loaded.
c. Perhaps that gun is loaded.
d. That gun can be loaded.（その銃は弾丸を装てんできる状態にある）
3-a) の下線部は、陳述緩和的（epistemic）な可能性を表し、3-b)、3-c) と同義であるが、
3-d) は同義ではない。
また、Palmer, F.R.(p.53) によれば、possibility の場合、proposition
（命題）が否定されるときはmay not(=It is possible that...not...)、modality が否定
されるときは can't(=It is not possible that....)が使われるという。
4) You may not have met her.
5) It sounds as though he can't be at Damion Sampson Hall any more.
12-4-NT-(D) ［許可の can と may］
can は impersonal な許可。may は話者による許可。したがって、次の例で、
1-a) に続けて There's no notice "No Smoking." と言えるが、1-b)に続けては言えない。
1)a. You can smoke in this room.
b. You may smoke in this room.
(cf.12-11-NT-(E), must vs have to)
12-5-NT-(A) ［must の意味と頻度］
West, M. のリスト(pp.316-317)による must の意味と頻度は次のようなもの
である。
must (i)(compulsion, not always distinguishable from (2)) 86%
(3946ex.) 1) I must go.
(ii)(certainty) 12%
2) He must be there by now.
12-5-NT-(B) ［must の曖昧性］
次の 1) は曖昧である。must には、「～にちがいない」という意味の認識的
(epistemic) 用法と「～でなければならない」という意味の非認識的 (non-epistemic)
用法があるからである。
1) John must be careful. （安井、1987, p.200)
must に限らず、｛法性｝のＶ拡充子には複数の意味を持つものが多い。
2) John may come tomorrow. (Palmer, F.R., p.38/Ross, J.B., p.89)
(cf. 12-7-NT-(B), Ross の２つの構造案)
このような｛法性｝の助動詞（この本では｛法性｝のＶ拡充子）の多義性が have to
などのいわゆる semi-auxiliaries(cf.Quirk, et al., 1985, p.137、この本では｛法
性｝の準Ｖ拡充子）を生み出したとされる（cf.中尾・児馬、p.83)。
12-6-NT-(A) ［shall/should の意味と頻度］
West, M.(p.447) のリストによる shall/should の意味と頻度は次のようなも
のである。
shall (i)(simple future) 17%
(7064ex.) 1) I shall arrive at 4 p.m.
(ii)(compulsion, promise) 9%
2) You shall do as I order!
(iii)(question, or offer of service) 5%
3) Shall I get you another cup of tea?
should (i)(hypothetical and conditional) 11%
4) I should be glad to do so - if I could.
(ii)(=shall or will, in reported speech) 19%
5) I said I should(would) be there early.
(iii)(obligation) 23%
6) You should be more careful.
(iv)(probability) 4%
7) They should be here soon.
12-6-NT-(B) ［must（強い確信）と should（弱い確信）］
Swan, M.(1980/1995, pp.496-497)によれば、確信を表すmust は、great
confidence を表し、should/ought to よりも強くより確信的である。また、安藤貞
（p.203)によれば、確信性の度合いで should < must(more certain)であるだけでなく
義務の強度の度合いでも should < must であるという。Swan, M.(p.496)の次の例文
と解説はこれを支持する。
1)a. The doctor said I must give up smoking.
b. You really ought to give up smoking.
1-a)では、an order which is likely to be obeyed を表し、1-b)では、a piece of
advice which may or may not be followed を表す。したがって、must の代わりに
should を使うと more polite となる。
2) Applications should be sent by 31 January.
12-6-NT-(C) ［should（主観的）と ought to（客観的）］
一般的に、shouldは自分自身の主観的な意見を述べることになるが、ought
to は社会的規範や社会的常識による判断を表し、客観的な力を持っているとされる。
例えば、次の 1-a) の代わりに、
1)a. It is natural that he should be tired. （安井、1982, p.248)
b. It is natural that he is tired.
should のない １－b）の形を用いれば 、「彼が疲れているのは当然のことである」とい
う事実を端的に述べる客観的表現となる。これに対し, should のある 1-a) の形は 話者
の感情的主観面が強く出ることになる。
もっとも、一方で、should は、公式の掲示や注意書きなどに用いられるが、
ought to にこの用法はないという事実もある。（綿貫ほか、p.59)
なお、可能性(possibility)の should/ought to について言えば、
2) might < may < could < can < should < ought to < would < will
< must
の順で右へ行くほど確信度が強くなるという。(小西ほか、p.1043)
12-7-NT ［認識的用法(epistemic use)と非認識的用法(non-epistemic
use)］
(i) 安藤貞（pp.171ff)の分析
法助動詞には２つの用法が認められる。認識的用法(epistemic use)と非認識
的用法(non-epistemic use)である。（脚注：root/epistemic(Hofman,1966), modulation/
modality(Halliday, 1970), cognitive/epistemic(Ota,1972), primary/secondary(Close,
1975)とも）
1)a. We must be careful.（～しなければならない）［非認識的］
b. John must be careless.（～に違いない）［認識的］
安藤貞(p.202)によれば、それぞれの法性は、次のように非認識的なものと認
識的なものとに分けられる。
非認識的 認識的
Can 能力(ability) 可能性(possibility)
行動の自由(freedom to act)
May 許可(permission) 可能性(possibility)
Must 強制(compulsion) 論理的必然性(logical necessity)
Have to 強制(compulsion) 論理的必然性(logical necessity)
Ought to 義務(duty) 蓋然性(probability)
Will 意志(volition) 予言(prediction)
習性(habitualness)
Shall 束縛(obligation) 成就確実性(certainty of fulfilment)
Need 必要(necessity)
Dare 大胆さ(boldness)
そして、非認識的助動詞は主語指向的(subject-oriented)で、認識的助動詞は、「話し
手」の査定を表す点で話し手指向的(speaker-oriented)であるとされる。（cf.Ota,1972:
43)ただし、荒木・安井（p.865)には、次のような非認識的用法でありながら speaker-
oriented である「許可」や「義務」の例がある。
2) You may go home.（家に帰ってよろしい）（許可）
3) You must go home. （義務）
4) You should go home. （義務）
上のように、主語が you である場合、許可や義務は subject-oriented であると同時に
speaker-oriented になるということであろう。
(ii) Palmer, F.R.の分析
Palmer, F.R.(1979, pp.41ff) は、法性(modality)を次のような３つのグルー
プに分け、
A. Epistemic modality：話し手の推量（可能性・推測）を表す
B. Deontic modality：許可、義務を表す
C. Dynamic modality：事柄の可能性・必要性、主語の特性（能力など）を
表す
次のような例文（抜粋）をあげている。
A. Epistemic modality
a) MAY for possibility(p.43,=It is possible that...)
5) You may not like the idea of it, but let me explain. (p.42)
6) He may go to London every day.
b) MUST for necessity(p.43, =It is necessary that...というよりは、=The
only possible conclusion is that...)
7) She is a bridesmaid and she must be all excitement at the
moment.
8) It must rain tomorrow. (p.44)
c) WILL for probability(confidence)
9) The French will be on holiday today. (p.47)
10) John will be in his office.
d) SHOULD for necessity(reasonable conclusion)
11) You should be meeting those later on this afternoon. (p.49)
12) There's no reason why it should be so surprising.
ただし、12)の should は、は epistemicともnon-epistemicともとれるという。
B. Deontic modality
a) MAY for permission
13) If you want to recall the doctor, you may do so. (p.59)
b) MUST for necessity
14) I've been telling Peter, as I've been telling several people,
you know, 'You must get into permanent jobs', and I've been
urging Peter ... (p.61)
C. Dynamic modality
C-1 neutral dynamic modality
a) CAN for'possibility'
15) Who knows? It can go either way. (p.71)
b) MUST for '(neutral) necessity'
16) Why must I put up with such enraging conditions? (p.91)
(neutral necessity のPST形は had to, p.97)
C-2 subject oriented modality
a) CAN for ability
17) They can't speak a word of English, of course, not a (p.73)
word, but, you know, they can say what they like.
b) WILL for volition, power, and habit
18) But she loves him and she won't leave him. (p.109)
19) You know that certain drugs will improve the (p.110)
condition.
c) WILL for future
20) I hope I won't be too late, though. (p.112)
(iii) 中尾・児馬の分析
中尾・児馬 (p.78)（要旨）では、法助動詞は次のように分類され、
法助動詞 → 認識的意味(epistemic) → speaker-oriented
義務的意味(deontic) → subject-oriented
歴史的な流れとしては、次のような特徴があるという。
(a) 本動詞から助動詞へ
shall,will,may,can,mustは、それぞれ元はscullan,willan,magan,
cunnan,motanの過去形である。(p.179)
(b) 義務的意味から認識的意味へ
元来、法助動詞は、主語が関与する義務的意味を表し、時代の経過
とともに「話者」が関与する認識的意味を発展させる傾向がある。(p.81)
(iv) Ross, J.R.の分析
また、Ross, J.R.(1969, p.89）は、epistemic modals と deontic modals の
根本的な違いは、前者が intransitive であるのに対し、後者はtransitive であるとし、
例えばJohn may come tomorrow. の２つの読みのうち「～かもしれない」を表す
epistemic 用法は 21) のように、「～してよい」を表す deontic 用法は 22) のように
表されるとする
21) Ｓ 22) Ｓ （cf.Palmer, F.R., p.37)
／ ＼ ／ ＼
NP VP NP VP
｜ ｜ ｜ ／ ＼
Ｓ Ｖ ｜ Ｖ NP
John come t. may ｜ ｜ ｜
｜ ｜ Ｓ
I may John come tomorrow
(v) 中右の分析
Modality を(i)階層的に、(ii)discourseの中で、取り扱ったものとして中右の
分析がある。それによれば、Total Proposition にobligatory な S-MOD が加えられて
Meaning of Construction となり、さらに optional な D-MOD が加えらえれて Meaning
of Utterance になるという。次のように。
23) Ｍ（Ｓ）2 <Meaning of Utterance>
／ ＼
D-MOD Ｍ（Ｓ）1 <Meaning of Construction>
(Discourse ／ ＼
M.) S-MOD PROP <Total Proposition>
(Sentence M.)
12-9-NT-(A) ［PRS/PST + MOD(non-epistemic) vs PRS/*PST +
MOD(epistemic)］
｛法性｝のＶ拡充子（MOD）のうち、非認識的（non-epistemic）用法のものに
は PRS形とPST形があるが、認識的（epistemic）用法のものには PRS形のみで PST形は
ないとする立場が一般的である。例えば、Palmer, F.R.(p.50)では、次のように述べられ
ている。
Generally the modality is in the present only, because the judgments
are made in the act of speaking, ... The modal verbs are not normally
used, therefore, in past tense forms to refer to past judgments.
また、Young(pp.83ff)は、modals をsubject modal と object modal の２つ
に分け、subjective modal に 過去(PST)形はないとする。また、安藤貞（p.215)は、認識
的法助動詞は常に現在時を指示するのに対して、非認識的用法は、現在時を指示すること
も過去時を指示することもできるとしている。
1)a. * I asked him, and he would come. ＜予言＞
b. I asked him, but he wouldn't come.＜意志＞
2)a. * It could rain last night.＜可能性＞
b. I could hardly sleep last night.＜行動の自由＞
つまり、科学文法では、次のようにまとめられる。
3)a. PRS/PST + MOD(non-epistemic)
b. PRS/*PST + MOD(epistemic)
12-9-NT-(B) ［MOD(epistemic)＋have-en vs *MOD(non-epistmic)＋
have-en］
｛法性｝のＶ拡充子（MOD）のうち、PST形を持つ非認識的（non-epistemic）
用法のものは一般に have-en と共起しないが、
1) *You may/can/must have come yesterday.（安藤貞、p.216)
PST形を持たない認識的（epistemic）用法のものは、過去の事柄に対する発話時における
話し手のコメントを表すときには have-en と共起する。（相補分布の関係）
2) John may/must/would/ought to/cannot have left yesterday.(p.215)
ちなみに、2) の最初の例文は、次のようにパラフレ－ズできる。
3) It is possible that John left yesterday.
Quirk et al. (1985, p.235) にも、 have-en, be-ing は「能力」（ability) 、
「許可」（permission)、「意志」（volition) を表す non-epistemic modals と
は共起しないが、次のような epistemic modals とは共起するとある。
4) He may/might have missed the train. (possibility)
5) She can't/couldn't be swimming all day.
6) He must have left his umbrella on the bus.(necessity)
7) You must be dreaming.
8) The guests will/would have arrived by that time.(prediciton)
9) Hussein will/would still be reading his paper.
ちなみに、Quirk et al.(ibid.)は、'obligation' を表す should が、perfective や
progressive と共起する時には非現実（counterfactual implication, nonfulfilment of
the obligation)を表すとして次の例をあげている。
10) I ought to be working now. [...but I'm not.](counterfactual)
11) She shouldn't have left him. [...but she did.]
12-9-NT-(C) ［PST + MOD(epistemic) + Ｖ == MOD(epistemic) +
have-en + Ｖ］
この本では、小田（上、pp.110ff）や Givon, T.（p.174）にならい、MOD
(epistemic) + have + Ｖen 形を一種の PST形として位置づける。例えば、小田は、
次の下線部をそれぞれ should, must, may の「過去形」であるとする。
1) I should have studied last night.(p.110)
2) She must have been sick. (p.130)
3)a. She may have been sick.
b. =She might have been sick.
c. =She could have been sick.
また、Givon, T.(p.174) は、ごく最近の歴史的変化（fairly recent historical
development) により、次のような古い現在－過去形のペア（older present-past
pairings)から、
4) present form past form
a. can could
b. shall should
c. will would
d. may might
最近では、modals with the auxiliary "have" が a sense of 'past' を表すようになっ
ているとする。
5) present form past form
a. She could do it. She could have done it.
b. She may do it. She may have done it.
c. She must do it. She must have done it.
d. She might do it. She might have done it.
d. She will do it. She will have done it.
f. She would do it. She would have done it.
g. She should do it. She should have done it.
5) のような新しい"past forms" は、could, would, might, should, must(<motan),
ought (<owe) などがもとは過去形(cf.Young, D.J., p.83)で、これ以上「過去」に
することができなかった、という事情があったのかもしれない。
かくして、この本では、
6) PST + MOD(epistemic) + Ｖ == MOD(epistemic) + have-en + Ｖ
ということにするが、これには次のような問題点(i)～(iv)がある。
(i) 科学文法では、MOD(epistemic)にPST形が存在すること自体が認められ
ない。本来、MOD(epistemic)は、「発話時における話し手の評言」（安藤貞、p.215)を
表すものだからである。例えば、次の 7-a) を例にとれば、
7)a. He must have left home a moment ago.
b. It is certain that he left home a moment ago.
7-a) に対し 概略的なパラフレ-ズを与えるとすれば、 7-b) となる。これを「～したに
ちがいなかった」 とすると誤りとなる。（安井、1982, p.250)
(ii) MOD(epistemic)でありながら、have Ｖen形にならないものや、逆に、
MOD(non-epistemic)でありながらhave Ｖen形になるものがある。
A. [MOD(epistemic）でありながら have Ｖen形とならないもの］
小西ほか(p.1063)には、可能性・推量(かもしれない)を表すmayの過去形として
次の 8) や 9-a) の例があり、
8) (まれ) In my youth, wild ponies might still be found there.
9)a. Do you think he might have purposely disappeared?
(=Do you think that it was possible that he had purposely
disappeared?)
[過去にその可能性があったが実際には実現しなかった場合］
b. He may have had an accident.
(=It is possible that he (has) had an accident.)
[過去についての推量で、実際どうだったかは不明］
また、間接話法の被伝達部では、MOD(epistemic)の過去形は have Ｖen 形とならない。
(荒木・安井、p.1017)
10) He said he would be using the car himself on the 24th.
また、次の 11-b) は、epistemic推量の過去形と考えられる。
11)a. She will be eighty now.
b. She would be eighty when she died.
B. [MOD(non-epistemic)で have Ｖen 形となるもの]
一方、義務の should は、定義上 non-epistemic と分類されるが、その
PST 形は should have Ｖen 形となる。
12) You should/ought to have gone there yesterday. (安藤貞、p.215)
これは、そもそも should が推測（epistemic)と義務(non-epistemic)との間であいまい
であるという事実に由来すると思われる。
should のあいまいさについては、de Chene(pp.42-43)を参照。
13)a. He should call her today. (推測・義務）
b. He should have called her by now.
（～しただろうー推測）
（～すべきだったー義務）
(iii) MOD(epistemic) + have-en + Ｖ形が｛過去｝を表さず、｛完了｝を表
す場合がある。次の 14) と15) では、have-en が｛過去｝を表すか｛完了｝を表すかあ
いまいである。
14) I reckon that must have hurt Cooper. (Palmer, F.R. p.51)
15) By next week, they will have completed their contract.
また、次の16-a)ではhave-enが現在完了相に、16-b)では過去完了に対応して
いる。
16)a. John may have left already.[=It is possible that John has
left...]
b. John may have left before you came.[=It is possible that John
had left before you came.]（安藤貞、p.215)
ただし、これらは、Quirk et al.(p.190)のANTERIOR TIMEというコンセプトを使えば説明
可能であるように思われる。
... the perfective indicates ANTERIOR TIME; time preceding whatever
time orientation is signaled ...
(iv) had better, used toなど
準Ｖ拡充子(SEMI-MOD) の中には、現在形だけで過去形が存在しないものや、
その逆のものもある。例えば、had betterの過去形は普通使われないし、used to にその
現在形はない。したがって、
17)a. PRS/*PST + had better
b. *PRS/PST + used to
12-10-NT ［LOB CORPUS:RANK LIST］
Hofland & Johansson によれば、頻出ベスト１００語中に含まれるＭＯＤは、
would(2682回)、will(2269回)、can(1675回)、 may(1447回)
should(1276回)、must(1129回)
である。
12-11-NT-(A) ［準Ｖ拡充子；擬似助動詞；半助動詞；準法助動詞］
鈴木・安井泉（p.18）は、英語の助動詞を統語的な特徴から考えて次の４種
に分け、 be going to, have to, used to などを be able to, be to などととも
に擬似助動詞と呼んでいる。
1)a.相・態の助動詞：完了相のhave, 進行相のbe, 受動態のbe
b.法助動詞：will, shall, can, など
c.支え助動詞：do(does,did)
d.擬似助動詞：have to, be to, be able to, be about to, be bound
to, be going to, be obliged to など
また、Quirk et al.(1985, p.137)の以下のような分類によれば、 これらは
Modal Idiom あるいはSemi-Auxiliaryとなる。
2)a.Central Modals;can, could, may, might, shall, should, will,
would, must
b.Marginal Modals;dare, need, ought to, used to
c.Modal Idioms;had better, would rather, would sooner, be to,
have got to
d.Semi-Auxiliaries;be able to, be about to, be apt to, be bound to,
be going to, have to
ちなみに、Quirk et al.（1985, p.146) では、seem to などを catenative verb
construction と呼んでいる。
また、荒木・安井(pp.864-865)は Semi-Auxiliary を「半助動詞」と訳し、
多義性を持つ法助動詞に対して、特定の法性しか示さない半助動詞によって意味が明確
になるメリットがあったとする。
また、中尾・児馬(p.83)は、歴史的に、法助動詞として独立した can, will,
must の代わりに、本動詞として働く（cf.*to can vs to be able to, *will can vs
will be able to)「準法助動詞(quasi-modal)」が登場したとする。
したがって、この本でいう準Ｖ拡充子｛法性｝とＶ拡充子｛法性｝との違いは
次のようになる。
準Ｖ拡充子｛法性｝ Ｖ拡充子｛法性｝
a) ing形 とる（本動詞として働く） とらない
b) 多義性 なし あり
c) 他のMODとの 制限ゆるやか 制限強い（*will can）
組み合わせ
12-11-NT-(B) ［was/were able to(過去の一回限りの行為) vs could
(過去の状態)］
一般に、肯定文で「一回限りの過去の行為や出来事」を表すときは was/were
able to、「過去の状態」を表すときには could が使われる。
1)a. *I'm really happy - last month I could get my driver's
license.(de Chene, p.40)
b. I'm really happy - last month I was able to ...
2) My mother says I could talk by the time I was two.(ibid.)
同様のコメントは、Palmer, F.R.(p.6, p.88) や小田（上, p.149)にも見られる。
なお、過去の能力を表す肯定文で could は、3) のように過去に能力があった
が現在はないということを意味すると主張する文法家(小田、上、p.149)もいるが、
3) When I was younger, I could run fast.（今は速く走れない）
上記 2) はその反例となる。
ただし、否定文では、couldn't と wasn't/weren't able to の意味は変わら
ない。
4) They couldn't/weren't able to reach the top ....(小田、上、
p.149)
なお、be able to と can の違いについて、さらに詳しくはPalmer, F.R.(pp88-89)を参
照されたい。
12-11-NT-(C) ［be going to（人の意志） vs will（生物・無生物の
意志）］
一般に、be going to には、意志、確信、話者の意図の用法が、will には、
意志、習性、蓋然的推測などの用法があるとされる。（cf.木下、pp.163-178)
1) He is about to retire, and is going to hand over the business
to his son, Charles, next year. (p.175) (意志）
2) I know he is not going to have any trouble with the language.
(確信）
3) You are going to tell me everything that happened with the girl.
(話者の意図）
4)a. I'll find out the address, and ring you back. (p.165)(意志）
b. This door won't open.
5) Accidents will happen. (p.166)(習性）
6) Heavy rain will spread into all parts of England this evening...
（p.166）（蓋然的推測）
しかし、学習英文法としては、鈴木・安井泉(p.198ff)のように、おおきく「意志未来」
と「予測未来」に分けるのがよいと思われる。その上で次の２点がポイントとなる。
(i) 意志未来では、will の主語は人に限らない (cf. 4-a), 4-b)) が、
be going to の主語は「人」に限られる。
7)a. When are you going to leave London?
b.*When is the ship going to leave here? [意志未来の解釈］
(ii) 予測未来では、be going to と will ともに無生物の主語が可能（小
田、上、p.62）であるが、be going to のほうが willより確定的である。（松浪、p.104)
8)a. She is going to have a baby.
b. It's going to rain. --Quirk et al., p.214; Close, p257
9)a. According to the weather report, it will be cloudy tomorrow.
b. According to the weather report, it is going to be cloudy t.
さらにその上で、上級者は上記3)の話者の意図(婉曲な命令）や5)の習性や、次のような
非実現の用法などに進むこととなろう。
10) You were going to give me your address, [...but you didn't.]
(鈴木・安井泉、p.218)
12-11-NT-(D) ［used to（規則的習慣） vs would（不規則的習慣）］
鈴木・安井泉（pp.191-193）によれば、used to とwould は次のように異なる。
(i) used to は、「常に～した」という過去の規則的習慣となる反復的な動作を表す
ときに用いられ、would は「時々～した」という不規則的習慣となる反復的な動作を表す。
(ii) used to が客観的な意味を含むのに対して would は個人的関心を示すときに
用いることが多い。
(iii) used to は「以前はこうであったが（今はそうでない）」のように過去と現在
を対比させて用いることがあるが、would にその用法はない。
(iv) 過去の状態を表す場合には used toを用いる。一方、would に続けることができ
るのは動作動詞に限られる。
1) My grandfather used to(*would) be a policeman.(綿貫ほか p.61)
ただし、鈴木・安井泉（ibid. p.192)は、マレだがＯＫの例としてLeech, G.N.(1987, p.
54-55)の次の例をあげる。
2) He would/used to be sitting on the bench when I passed by.
(v) would を用いるのは、主語が人間である場合に限る。
(vi) 聞き手に共有知識(shared knowledge)を期待できない場合に、青天のへきれき
(out of the blue)のように、だしぬけに...would を用いることはできない。その場合
には used to を用いる。
12-11-NT-(E) ［have to(客観的義務) vs must(主観的義務)］
have to は、周囲の事情で生じる客観的義務を表し、must は話し手が課す義
務を表す。言い換えれば、have to は客観的な事実を表し、mustの背景には話し手の主観
的な判断が存在する。次の例（綿貫ほか、p.54)参照。
1)a. My daughter must be back by ten o'clock.
＜父親が娘の夜の外出を案じて...＞
b. My daughter has to be back by ten o'clock.
＜寄宿舎の門限＞
したがって、have to のほうがmust よりしばしば控えめに聞こえる。
また、Palmer, F.R.(pp.93-94) によれば、現在形のhave (got) to は、
actuality を imply するという点で must とは異なる。例えば、次の 2) では、
2）It's a slow walk down. He's got to fight his way through the
crowds.
ボクサーが実際に通路を歩いている(is actually doing so)。ここでmustは使えず、must
を使うと単に necessary in the future を表すこととなる。
12-11-NT-(F) ［be to (第３者が立てた手配済みの計画］
Leech, G.N.(p.144)は、次の３つの文を比較して、
1) The Minister is to meet union officials tomorrow.
2) The Minister is meeting union officials tomorrow.
3) The Minister meets union officials tomorrow.
1)は主語以外の第３者が立てた計画で、しばしば公式の予定の一部であることが暗示され
ている。また、1) だけは未来を表す副詞 tomorrow がなくても未来の予定になるが 2) と
3) は tomorrow を除くと未来を表すことができないとする。
鈴木・安井泉（p.206）には「手配済み」という表現、Close, R.A.(p.259)には
official plan or decision という表現で同様のコメントあり。
12-11-NT-(G) ［be easy to：Tough-construction？EPD？］
原口・中村（pp.487-489）によれば、次の1-a) は 1-b) と同義であるが、この
1-a)のように「難易、快・不快」を表す述語を用い、不定詞内目的語の位置に生ずる空所
が主節主語に対応している構文をtough構文という。
1)a. Johni is easy (for us) to please ti.
b. It is easy (for us) to please John.
従来、tough構文は、不定詞節内の名詞句を直接主節の主語の位置に移動する
ことによって派生されると考えられていた。しかしながら、この分析にはいくつかの問題
点（束縛原理(A)違反など）があり、ＧＢ理論では、2)のように空演算子（empty
operator=Op)を補文のＣＰの指定部に移動することによって派生されると仮定される。
2) John is easy (for us) [cpOpi[IPPRO to please ti]]. (p.488)
しかしながら、2)によっても説明できない事実があり、いくつかの解決案が提示されてい
るが、まだ妥当な説明を見るに至っていないという。
学習英文法では、「形容詞に続く不定詞」（安井、1994, pp.665ff)として
次のように be able to などと横並びでとらえるものもあるが、
3)a. This is easy to understand 
.
b. I am able to do it.
この分析では、3-a)の understand の後のが説明できず不都合である。そこでこの本で
は、be easy to を｛受身｝のＶ拡充子 be-en と同様にとらえ、understand の後のは
重複ルール#3 により生ずると考える。
4)a. This map is easy to read *this map/*itself/.
b. This map is read *this map/*itself/ (by many drivers).
ちなみに、この重複ルール#3 は、次の 5-a)中 のをも説明することになる。
5)a. This novel took me 3 years to write .
b. =It took me 3 years to write this novel.
(McCawley,J.D. 1988 p.104)
