13-1-NT-(A) [相とは]
「相」とは、話し手が状況をどう見ているかという、ものの見方に関する情
報を表す。文法形式としては、be-ing によって進行相(progressive aspect)が、have-en
によって完了相(perfective aspect) が表されるが、相は一方で(ちょうど、可能性が
may という{法性}の文法形式によっても possibly という語によっても表されるよう
に)語義によっても表される。例えば、完了相はhave-en という文法形式としても、動
詞の中の語義としても表される。
動詞の語義による相の分類は、一般に、次のようなものとなる。(cf.鈴木・
安井泉、p.220)
(i)完結相(perfective)・非完結相(non-perfective)、
(ii)起動相(inchoative)・完成相(completive)・継続相(continuative)
(i)の完結・非完結相には、(a)完成動詞(accomplishment)、達成動詞(achievement)
などの完結相を表すもの、(b)動作動詞(activity)、状態動詞(state)など非完結
相を表すものがある。また、(ii)の起動相・完成相・継続相には、(a)起動相:Walter
began filing the day's mail. (b)完成相:Walter finished filing the day's mail.
(c)継続相:Walter kept filing the day's mail. がみられる。
例えば、reach the top の中には「完結点」の存在が含まれている。これが
動詞の語義の中での完結相で、文法形式によらない完結相と言える。一方、語義中に完
結点を含まない[-完結点]の動詞 run は「完結点」を表出するため、完了形を用い
I have run. のように言うのである。
なお、動詞の語義が持つ相とbe-ing/have-enなど文法形式によって表される
相との相互関係については Celce-Murcia & Larsen-Freeman(1999, pp.119-222) がくわ
しい。
13-1-NT-(B) [{完了・経験・継続(・結果)}のV拡充子]
{ 完了} のV拡充子は、厳密には{ 完了・経験・継続} のV拡充子と呼ぶべき
ものである。ただし、この本では伝統的な呼び名にならい、{経験}、{継続}を省略し
て{ 完了}と表示することにする。当然、{完了}のhave-enのほかに、{経験}のhave-
enと{継続}のhave-en が存在することとなる。また、これら3つの他に{結果}を加え
4用法とするものもある。
一方、McCawley, J.D.(1971, p.104, in Fillmore & Langendoen)の present
perfect 4用法は、次のようなもので、(日本語訳は安井、1987,pp.187-188)
(i) "Universal" use (全称量化表現)
1) I've known Max since 1960.
(ii) "Existential" use(存在量化表現)
2) I have read Principia Mathematica five times.
(iii) "Stative" use (状態)
3) I can't come to your party tonight --- I've caught the flu.
(iv) "Hot news" use (ホット・ニュ-ス)
4) Malcom X has just been assassinated.
これらはいわゆる継続、経験、結果、完了の4用法に符合する。
3用法であれ、4用法であれ、have-en の用法に共通するのは、「過去の不特
定の時から現在までの時間空間を現在の時点から見ている」ということである。
13-1-NT-(C) [完了・経験・継続用法と副詞]
複数の意味がひとつの形で表される、ということはどの言語にもよくあること
である。英語の have-en というひとつの形が完了、経験、継続など複数の意味を持ち得
る、したがって、それ自体では意味がアイマイであるということは不思議なことではない。
例えば、Kaplan, J.D.(p.187)は、McCawley, J.D. によれば、次の文は、完了、経験、継
続の意味に取れ ambiguous である、としている。
1) Bud has been fired.
この have-en の意味を決定するのは、それと共起する副詞(AD)である。
このように、後からつけ加えられた、言わば「追っかけ情報」によってすでに
発話ずみの部分の意味がより明らかになることがある。
2)a. My cousin is bright.
b. My cousin is pregnant.
2-a)では、cousin は語彙本来の意味「男か女かわからないいとこ」であるが、2-b) では、
pregnant により、そのいとこが女性であることが明らかとなる。
ところで、副詞(AD)の手助けがない時は、聞き手はどうするのであろうか。
Declerck, R.(p.103)/鈴木・安井泉(p.272)によれば、副詞(AD)で明らかに継続とわ
かる場合を除いて、聞き手は経験の意味ととるのが普通であるという。
3)a. Since 1982 John has lived in Paris. (継続)
b. John has lived in Paris. (経験)
一方、de Chene(p.30)によれば、副詞(AD)の位置により経験・継続の区
別がなされるという。安井(1994, p.271)にも同様のコメントあり。
4)a. For a year, he lived in Rome.
b. For a year, he has lived in Rome. (継続、*経験)
c. He has lived in Rome for a year. (継続、経験)
4-a) の for a year は a)類副詞として、4-b) のそれは b)類副詞として。4-c) のそれ
は完了文なのにa)類の解釈も。
また、安井(1994, p.268)によれば、have に強勢をおくと経験の意味をまぎ
れなく伝えることができる。
5) I HAVE been to London (but it was years ago). -Palmer, F.R. p.78
13-1-NT-(D) [不連続のV拡充子:have-en, be-ing, etc.]
伝統的英文法でも、so...that や as...so... のように不連続の単位をひとつ
の文法カテゴリ-としてとらえる、という考え方はなかったわけではない。が、have-en
や be-ing という単位をひとつのカテゴリ-とみる考え方はChomsky、N.(1957, p.39)まで
なかった。
例えば、 Quirk et al.(1985, p.62) でも、
1) The ship sank.
2) The ship was sinking.
3) The ship has been sinking.
4) The ship may have been being sunk.
で、下線部が main verb。 was, has been, may have been being は auxiliaries
とする。そしてこれが伝統的な学習英文法のとらえ方であった。これと次の Chomsky
(1957, p.37) のものと比べて見よう。
5) AUX → C (M) (have+en) (be+ing) (be+en)
(Cは-s,
, pastなどの時制、Mはwill,canなどのmodalsを表す)
13-2-NT [経験のhas/have gone]
鈴木・安井泉(p.268)によれば、アメリカ英語では、 has/have gone が経
験の意味で用いられることがある(COBUILD Englsh Usage, 1992, p.273)という。
これは次の1), 2) のような疑問文、否定文などに特に見られる。
1) Have you gone to Italy? (経験)
2) I haven't gone to Italy.
一方、3) のように肯定の平叙文では、完了の意味になるのが普通。
3) He has gone to Italy. (完了)
13-3-NT-(A) [Ven形と完了/受身分詞]
完了分詞(perfect participle)と受動分詞(passive participle)という呼
び方については荒木・安井(p.1010)を参照のこと。
Jespersen, O.(MEG,IV,7.5)は、現在分詞、過去分詞をそれぞれ第一分詞(first
participle)、第二分詞(second participle)と呼んでおり、Quirk et al.(1985, p.103)
は、過去形、過去分詞形にあたるものをそれぞれV-ed1、V-ed2と呼んでいる。(また、
p.96では後者を -ED participle とも)
この本では、この過去分詞にあたる語を「Ven形の左端の語」と定義し、
「完了/受身分詞」と呼ぶ。したがって、次の2つの例では、
1) have-en + write a novel
→ have written a novel
2) be-en + write a novel
→ be written
1) の written a novel, 2) の written
がVen形、written(VZen形というべきか
?)が完了/受身分詞ということになる。ちなみに、この完了/受身分詞は1)では「完了
分詞」、2) では「受身分詞」というようにそれぞれ呼び分けるべきとする人がいるか
もしれない。なぜなら、fallen leaves や retired professors の下線部や been,
gone などは完了分詞であって受身分詞とは言えないからである。
なお、中尾・児馬(p.110)によれば、完了構文は、OEの 3) のような
「have/had+目的語+過去分詞」構文から発達してきた、という。
3)
I have/had him bound (=I have/had bound him)
OEですでに have/be/get による完了形はあったが(p.112)、EMEでは、
自動詞のうちとくに come, become, arrive, enter, ...などは be+過去分詞による完
了構造を好んだという。
13-3-NT-(B) [現在形による未来 vs will による未来]
一方で現在形は未来の事柄を表さないかと言うとそうではない。安井(1987,
p.197)によると、次のように、現在形による未来(F構文)は「断定」、will による
未来は「推測(の域を出ない事柄)」となる。
1) The Yankees play the Red Sox tomorrow. (断定)
2)*The Yankees play well tomorrow.
3) The Yankees will play well tomorrow. (推測)
13-4-NT-(A) [PST + V vs PRS + have-en + V]
単純過去形(PST + V)と現在完了形(PRS + have-en + V)との使い分けにつ
いては、de Chene(pp.27-34)が (i)副詞の種類と(ii)実現可能性の2つの観点から説
明している。要点は次のようなものである。
(i)a. 過去形は-a)類副詞(yesterdayなど過去のある時期から別のある
時期をさす)と共起
b. 現在完了形は-b)類副詞(since X など過去のある時期から現在ま
での時期をさす)と共起
(ii)a. 過去形は-動詞の実現不可能性(unrealizable)をあらわす
b. 現在完了形は-動詞の実現可能性(realizable)をあらわす
(i) a類副詞とb類副詞については
期間の終点が過去にある(a)類は過去を必要とし、期間の終点に関する予定が
ない(b)類は完了を必要とする。(p.28)
1)a. City Hall burned down the year before last, but it was/*has
been rebuilt last year.(去年再建された)
b. City Hall burned down the year before last, but it has
since been/*was since rebuilt.(その後再建された)
なお、de Chene(p.33)は、現在に限りなく近い過去は、現在完了に限りなく近づくとする。
例えば、recently を伴う場合、単純過去形と現在完了形の両方が可能となる。
2)a. Jim learned the Chopin Etudes recently.
b. Jim has learned the Chopin Etudes recently.
鈴木・安井泉(p.269)の次のA. B. C. はそれぞれ de Chene(p.28)の a)類副詞、b)類副
詞、a)かb) かあいまいなもの、に符号すると思われる。
A.現在完了相とは共起するが過去時制とは共起しない副詞
till now, by now, up to the present, in the last few years
B.過去時制とは共起するが現在完了相とは共起しない副詞
a moment ago, an hour ago, yesterday, last night, when we
were at school, in 1965, etc.
C.両方共起可能なもの
this morning, this afternoon, today, this week, this March
など
-Palmer, 1974, pp.49,50,52;Quirk et al., pp.191,195
(ii)実現可能性については
次の 3-b) のようなケースでは、実現可能性の当然の条件として、ジムがま
だ生きていることとマチス展がまだ開催中であることが挙げられるとする。 (p.31)
3)a. Jim didn't see the Matisse exhibit.
b. Jim hasn't seen the Matisse exhibit.
また、Quirk(1985, p.166)によれば、
4)a. Winston Churchill has twice visited Harvard.
b. Harvard has twice been visited by W.Churchill.
4-a) は主語のWinston Churchillが生きていないのでOUT.4-b) はHarvardが現存するの
でOKであるという。ただし、この分析には反例も多い。Quirk et al. (p.166)は、4-b)
についてHowever, speakers have different intuitions on this matter.というコメン
トをつけており、安井(1987, pp.186)は、
5)a. Aristotle has demonstrated that ...
b. Marco Polo and Hilary have climbed Everest.
c. Many people have climbed Everest.
のように、歴史的現在(5-a)、等位構造(5-b)、複数主語(5-c)の場合には、主語が生存し
ていなくても良いとする。また、次のように、Einstein に文強勢が置かれ、焦点となっ
ている場合もOKであるという。(ibid. p.187)
6) EINSTEIN has visited Princeton.
13-4-NT-(B) [just と just now と now]
de Chene(p.36)によれば、just nowは過去と、nowは現在・未来と、just now/
now は現在完了と使われる。
小西ほか(1994, p.984)によれば、just は完了形とともに、が正式であるが、
(米略式)では過去形とともにOK、(英略式)でも過去形とともに多く用いられるよう
になっている。
まとめると、
(i) just/just now/now + 現在完了形
(ii) just/just now + 過去形
ということになる。
13-5-NT [使用不可のPERF(have-en)]
Quirk et al.(1985, p.193)/鈴木・安井泉(p.267)によれば、次の 1-B) は、
1-A) の答えとしては不適切である。
1)A: Has the postman left any letters?
B: Yes, he did six months ago.
また、次の 2-a) (=本文中の(29))は不可であるが、when にストレスを置
き 2-b) のようにすると皮肉を込めた表現となるがOK.
2)a. *When has he finished his work?
b. WHEN has he finished his work?
(=He has never finished his work.)
次も同じ。
3)a. *When is John ready?
b. WHEN is John ready?
13-7-NT [before/afterと過去完了(had Ven)]
before, after の後などで、2つの事柄の前後関係が明らかな場合には、次の
例のように過去完了が使われるよりは単純過去形が使われることが多い。
1)a. Sam had left before we got there. (小田、上、p.54)
b. Sam left before we got there.
2)a. After the guests had left, I went to bed.
b. After the guest left, I went to bed.
上で、1a) = 1b), 2a) = 2b) だが、1b), 2b) の方が普通。