14-1-NT ［Ｖ拡充子{進行}（be-ing）］
いわゆる「進行形」は、Jespersen, O.(1931/61, p.164)では expanded tenses
と呼ばれ、Onions, C.T.(1904, p.112/1971, p.104)では continuous tenses と呼ばれ時
制のひとつとしてとらえられている。（cf.Scheffer, J. p.1)しかし、この本では、進行
形は動詞（Ｖ)が｛進行｝の意味を持つ任意のＶ拡充子 be-ing によって拡充されふくら
んだ形としてとらえられる。
14-2-NT ［進行分詞］
安井（1994, p.618) は、伝統的な用語「現在分詞」(present participle)
と「過去分詞」（past participle）は、「必ずしも現在分詞が現在時を、過去分詞が過
去の時を表すわけではない」ので「単に分類上のレッテルであるにすぎない」とし、
striking, having struck のような形を「能動態分詞」、struck, being struck のよう
な形を「受動態分詞」と呼んでいる。
この本では、
1) Dad is doing the dishes now.
で、
2)a. is ... ing：PRS + Ｖ拡充子｛進行｝(be-ing)
b. doing the dishes：Ｖing形
c. doing：進行分詞
となる。意味のまとまりから言えば be-ing が、形のまとまりから言えば、（語や句をな
す、ということで）Ｖing 形や進行分詞がわかりやすい。学習英文法にとってより有効な
のは、この本でＶ拡充子｛進行｝と呼んでいる前者の方であると思う。(cf.13-3-NT-(A))
14-3-NT-(A) ［進行相のいろいろな意味］
この本では、be-ing によって表される意味を、
(i) 進行（中の動作）
(ii) 反復動作
(iii) （手配済みの）確定未来
(iv) 不満・苛立ち
とまとめたが、これは以下のような松波（pp.112ff)を参考にしたものである。
(i) 進行中の 動作
(ii) 継続または 反復動作
(iii) 習慣的動作あるいは特徴的なくせ
(iv) 近い 未来に おいて 実現する動作
その他、Leech, G.N.(1971, p.15;1987, p.19) によれば、
(i)進行相の表現は、出来事を引き伸ばして（stretch）述べる機能を
もつ（Leech, 1971, p.15;1987, p.19)
1) He is opening the door.
(ii) 継続が「一時的な継続」(limited duration)であることを表す機能
をもつ（Leech, 1971, p.15;1987, p.19)
2) He is living in London.
(iii) 出来事が未完結であることを示す（cf.Leech,1971,1987;Close,
1975. pp.244,246;Quirk et al.,1985,p.198)
3) He is digging a hole.
という。
また、鈴木・安井泉(1994, p.229)によれば、英語の進行相には、大きく未来、
過程、習慣の３つの意味があり、
4)a. Tomorrow, we're bombing a French mission. (未来)
b. At the moment, we're bombing a French mission. (過程)
c. Nowadays, we're bombing a French mission. (習慣)
未来の意味で進行相をとることができる動詞は、過程、習慣の意味でも進行相をとること
ができる。これに対して、5)に見るように、過程の意味で進行相をとることができる動詞
は、習慣の意味で進行相を取ることができても、未来の意味で進行相をとることができる
とは限らない。
5)a. *Tomorrow, John is expecting Mary to win in October. (未来）
b. At the moment, John is expecting Mary to win in October.
（過程）
c. Nowadays, John is expecting Mary to win in October. （習慣）
さらに、6)にみるように、習慣の意味で進行相をとることができない動詞は、未来、過程
のいずれの意味においても進行相をとることができない。
6)a. *Tomorrow, John is knowing the right answer. （未来）
b. *At the moment, John is knowing the right answer. （過程）
c. *Nowadays, John is knowing the right answer. （習慣）
このように、進行相の生起という問題を、4)-6) でみたように、未来、過程、習慣と
いう３つの意味に基づいて考えると7)にみるような、進行相の生起の意味的条件とし
て、一定の含意関係がみられる。（cf.Sag, I.A. in Bailey and Shuy(eds.), 1973,
pp.83-95)
7)未来の意味で ⊃ 過程の意味で ⊃ 習慣の意味で
進行形が可能 進行形が可能 進行形が可能
ちなみに、鈴木・安井泉のいう「未来」には「すでに手配済みで確定してい
る」（p.201)という含意があり、したがって不確定性を表す表現とは共起できない。
8) *Perhaps, he is leaving tomorrow. (p.202)
また、前もって計画できない事柄については、進行相を用いて未来を表す
ことはできない。
9) *Tomorrow, it's raining.
14-3-NT-(B) ［進行相の基本的な意味］
この本では、進行形の基本的な意味を｛進行｝であるとまとめたが、これに
ついては、その他に｛時間的枠｝（time-frame, Jespersen, O. 1909-49)、｛非習慣｝
（Hill, 1958)、｛限られた継続｝(limited duration, Twaddell, 1960)、｛未完結｝
(imperfective, Leech, 1971,1987;Quirk et al.1985, p.198)、｛動作の過程}(太田,
1968)、heightened temporary relevance(van Ek, 1966)などを主張するものがあり定説
はない。
Scheffer, J.(1975)は、ＯＥから現代英語までの"progressive"について研究
しているが、特に興味深いのは、boat race(1968)とfootball match(1969)の BBC 実況
をtranscribe した CORPUS(pp.277-305)と６人の現代作家の作品からなるCORPUS(p.48)
をもとに分析したデ－タである。このデータをもとに Scheffer, J.(p.21) は、進行形
(progressive)の基本的意味は durationだと言っている。
14-3-NT-(C) ［話者の心的態度（不満・関心・強調）を表す進行形］
進行形が不満(subjective feeling of disapproval) を表す例として、Quirk
et al.(1985, p.199)は次の例をあげている。
1) Bill is constantly/always/forever working late at the office.
また、上で、forever の場合、この含意（suggestion)がよりstrongerになるという。
Scheffer, J.(pp.39-41)によれば、進行形は何より動作を強調(emphasize)す
るという点で、話者の心的態度(speaker's view of matters)を表すという。例えば、次
で、
2)a. The bride wore a white silk gown.
b. The bride was wearing a white silk gown.
2-a) では、bride と gown に注意が向けられているが、2-b) では行為そのものがより
重要であるという。そしてこの関心、注意が興味、不満などを含意することになるのだ
という。であるとすると、be-ing形には、always などの副詞（ＡＤ）と共起する以前か
ら不満などの心的態度を表す準備ができている、ということになる。
なお、江川（p.228)には、 always, constantly などの副詞(ＡＤ)句が be-
ing と共起して「感情的色彩」が加わる例として、「非難」だけでなく「賞賛」を表す
例がある。
3) He's constantly thinking about other people. He never thinks
of himself.
14-4-NT-(A) ［*PROG(be-ng) + Ｖ］
学習英文法における進行形のもっとも一般的なまとめ方は、次の小田（上、
p.18)のように進行形になる動詞、ならない動詞といった単なる分類、提示によるもので
ある。
＜進行形にならない主な動詞＞
(i) 精神的状態
1) know, believe, imagine, want, realize, feel, doubt,
need, understand, suppose, remember, prefer, recognize,
(think), forget, mean
(ii) 感情
2) love, hate, fear, mind, like, dislike, ...
(iii) 所有
3) possess, (have), own, belong
(iv) 知覚・感覚
4) (taste), hear, (see), (smell), (feel)
(v) その他の状態
5) seem, cost, (be), consist of, (look), owe, exist,
contain, include, (appear), (weigh)
しかし、事実はそう簡単ではない。次のような例があるからである。
6)a. I think he is a kind man.
b. I'm thinking about this grammar.
7)a. He has a cat.
b. I am having trouble.
8)a. Tom is foolish.
b. Tom is being foolish.（バカなことをしている）
さらに、文法家によっては［+/-progressive]について判断の異なることもあ
る。Scheffer, J.(pp.61ff)は、ZandvoortからQuirkほかまで１０人の文法家の、１２０
の状態動詞に対する+/-progressive 判定をリスト化している。それによると、例えば、
BE, FEEL, HAVE TO, HEAR についての判定は次のようになる。
9) Ｚ Ｓ Ａ Ｊ Je Ｐ Ｃ Ｈ Sc Ｑ
BE Ｘ Ｘ Ｘ
FEEL Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ
HAVE TO Ｘ
HEAR Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ Ｘ
さらに Scheffer は、Fleming, I.による The Man with the Golden Gun など
６つの現代小説（p.48)とBBCのスポーツ実況(ボートレースとサッカー）からなる自分の
corpus(pp.277-305)とこれら１０人の文法家のリストを比較している。それによると、
HAVE TOは、Ota（上記リストではＡとなっている）によれば、"rarely occur
in progressive forms"となるが、Scheffer の CORPUS には次のような例がある。
10) The missile business must have cost Russia about a billion
pounds. And now they're having to pour money into Cuba,...
[Ian Fleming:The Man with the Golden Gun, p.54]
HEAR は、たいていの文法家によると "not used in the progressive"であり、
次のような hear はstatus verb ではなく process verb であるとされる。
11) The judge is hearing a case right now.
しかし、ShefferのCORPUS(The Man with the Golden Gun by I.Flemingなど６つの現代
小説、p.48)によれば、いくつかの反例(p.68)もある。
このような、これこれの動詞は進行形をとる、とらない、と言った解説は、
学習英文法といえどもあまりに大雑把な分析と言わざるを得ない。それでは、進行形の可、
不可を決める要素とは何なのだろうか。
最も一般的なものは、感覚を表す動詞（feel, hear, seemなど）、心理的状態
を表す動詞（believe, careなど）、物事の構成・関係を表す動詞（be, belong to,
contain など）などのいわゆる「状態的動詞」（stative verbs, Lakoff, G. 1966)は進
行形にならないとするものである。(cf.鈴木・安井泉, p.226)
ただし、次のように真の意味で「状態的」と言えないものは進行形となる。
(i)一時的状態（temporary state)（つまり、次の瞬間変わるかもしれない状態）
を表すとき。
12)a. The bottle is lying on its side. （McCawley,J.D. 1988, p.223)
b.*Libya is lying between Egypt and Tunisia.
13) We're living in London at the moment. (綿貫ほか, p.40)
14) She was wearing her mother's coat. (ibid.)
(ii)状態移入（ingressive, Comrie,O.,1976,p.20)を表すとき。
15) He is resembling his father more and more as the years go by.
(Leech, G.N. p.30)
16) He is just sitting down. (Comrie, p.20)
（上で16)のsitは'be sitting'の意味はなく'adopt a sitting position'の意味）
(iii)強調(emphasis)や非日常(opposed to general)を表すとき。
17)a. I'm hating this assignment. (Celce-Murcia&Larsen-Freeman,
1999,p.121)
b. I hate this assignment.
18)a. He's being rude.(ibid.)
b. He's rude.
14-4-NT-(B) ［常に進行形で用いられるもの］
一方で、常に進行形で用いられるものとして次のような例がある。
1) The house is building. （鈴木・安井泉, p.256)
2) I must have been hearing things.( 幻聴をおこす )
ただし、これらは一般的にイデイオマチックで生産的(productive)ではなく、その数は限
られている。
14-4-NT-(C) ［進行形とともによく使われる/使われない副詞句］
(i) 進行形とともに使われない副詞句には次のようなものがあり、
中断、合計回数：often, seldom, ～times, never, generally など
終わりある期間：in an hour, for two hours など
瞬間的な場面：suddenly, all at once など
(ii) 進行形とともによく使われる副詞句には、frequencyの高いものから順に
次のようなものがある。(Scheffer, J. pp.51-52)
now → still → always → again → already → today
→ tomorrow → when/soon → just ... not any more,
all the time, on Sunday, for years, at four o'clock,
for a while, nowadays, at the same time など
14-4-NT-(D) ［be-ing ＝ 一時的］
鈴木・安井泉（p.225）によれば、進行相に現れる be 動詞は、 ... 一時的
（temporal)属性、あるいは、非本質的属性（accident)を表す形容詞と等位構造縮約
（conjunction reduction)の構文をとることができる。
1) He's ready and waiting. [一時的／一時的］ -Bolinger,1971a.b.
1973
一方、永続的(permanent)属性、あるいは本質的属性（essence)を表す形容詞をしたがえ
る be 動詞とは、等位構造縮約の構文をとることはできない
2) *He's clever and waiting. [永続的／一時的］ -Bolinger, 同上
