15-1-NT-(A) ［アラビア語の受身］
数ある言語の中には、｛受身｝の意味を表すための文法形式を持たないものも
ある。 El-Yasin, M.K. (pp.202-203) によれば、アラビア語に受動態の形式はなく、い
わゆる｛受身｝は、次の 2) のような形で表されるという。
1) English: Ｘ is done by Ｙ．
2) Arabic:Ｘ，Ｙ does it. (itはＸを表している）
15-1-NT-(B) ［迷惑の受身］
楳垣（1978, pp.124-130)によれば、日本語では「迷惑の受身」以外の受身は、
明治以前はあまり使われていなかった。（「会合が開かれる」、「通行が禁止される」な
どの受身表現は明治以後の翻訳調の影響である）そのかわり「富士山が見える」など可能
動詞が受身の役割を果たしていた。
15-1-NT-(C) ［Chomsky, N.による受身形の分析］
Chomsky, N.(1957）は、いったん(p.39)、
1)a. AUX → C(M)(have+en)(be+ing)(be+en)
b. Ｃ → Ｓ in the context NPsing
in the context NPpl
past
を提案。その後（p.43)「be+en には他の auxiliaries とちがって heavy restrictions
がある」として、be+en を省くことを提案、これを have+en, be+ingの延長線上におく
のではなく、変形の一部として導入した。
しかし、その後、Chomsky, N.(1965) の
2) Manner → by-passive
による be-en の導入というやや clumsy な時期を経て、最終的には、Chomsky, N.(1981,
p.54) では、
3)a. John was killed
b. John INFL be [αkill* t]
c. [NPe] INFL be [αkill* John]
(..., where kill* is a form of kill, t is the trace of John,
and [NPe] is a base-generated empty category)
を提案している。
15-3-NT-(A) ［受身形の指導］
従来、学習英文法では、受身形の指導にいわゆる「タスキガケ方式]を用いる
ことが多かった。つまり、次の1-a) から1-b)を生み出すのである。
1)a. The compute wrote a novel.
b. A novel was written by the computer.
ただし、この「タスキガケ方式」による指導には、いくつかの問題点がある。
(i)＜タスキガケ方式の問題点＞
(a)オモテ（能動形）とウラ（受動形）がそろわないものがある
Quirk et al.(1985, p.167)によれば、次の 2) ～ 9) はすべて広義の受身形と
呼べるものであるが、はっきりと対応した能動形を持つという点で 2) ～ 5) のみが真の
受動形（central passives）であるとする。
2) This violin was made by my father.
3) This conclusion is hardly justified by the results.
4) Coal has been replaced by oil.
5) This difficulty can be avoided in several ways.
------------------------------------------------------------------
6) We are encouraged to go on with the project.
7) Leonard was interested in linguistics.
8) The building is already demolished.
9) The modern world is getting more highly industrialized and
mechanized.
6) ～ 7) は対応する能動形を持つが、 quite, rather などによって修飾されうるなど
be + 形容詞の形に近く、semi-passives と呼ぶ。また、8) や 9) は、対応する能動形は
なく、 by ～も従えない。これは pseudo-passives と呼ぶ。そして 2) から 9) には
passive らしさについての gradience があると主張する。(p.167)
また、安井（1944, p.502)には、主語指向の will（意志、意図）は受身にす
ると意味変わるとして、次の例がある。
10)a. Terry won't be helped by Mildred.
b. =/= Mildred won't help Terry.
さらに、上記 1-b) と次の 11) は、新情報ー旧情報などの情報構造上の解釈を加えると、
それぞれ異なった意味を持っており(cf.15-6-NT-(A)）、厳密な意味で同義とはいえない。
11) A novel was written.
つまり、1-b)ではby the computerが、11)ではwrittenが新情報だからである。つまり、
1-a), 1-b), 11) は厳密にはそれぞれ意味が異なるのである。
(b)の意識づけができない（動詞型=/=文型の例）
上記 1-b) は、本文中にも述べたが厳密には次の 12) のように表されるべきも
のである。
12) A novel was written by the computer.
つまり、12) はいわゆる自動詞から生まれたのではない。1-a) の動詞型は VZ+N、文型は
N+VZ+N であるが、12) の動詞型は 1-a) と同じVZ+Nでも文型はN+VZ+ であり、1-a)とは
異なるものである。
(c)受身をふくむ複合拡充形の生成はタスキがけではむつかしい。
13)a. The new robot will be kicking the old one.
b. The old robot will be being kicked by the new one.
14)a. The new robot will have been kicking the old one.
b. The old robot will have been being kicked by the new one.
上で、13-a) 、14-a)から、それぞれ 13-b)、14-b)を生み出すことは言語刺激の少ない
Ｌ2学習者にはきわめてむつかしい。
(ii)＜移動方式の問題点＞
一方、最近の科学文法では、受身形はもともと動詞句の中に含まれる名詞の
文頭移動によって生み出される。（cf. Chomsky, N. 1981, p.54）例えば、de Chene
(p.158)によれば、次の15-b)はおおむね 15-a) のような構造から生み出される。
15)a. [ was kissed Jim] (移動の前）
b. [Jimi was kissed ti] (移動の後）
ただし、この形をそのまま学習英文法で使うには、問題がある。その最大の問題点は、
主語（subject) がゼロ（）で始まる文は、topic がゼロ（）で始まることを意味
するという点である。（cf. Quirk et al. 1985, p.79) つまり、topic の前に comment
があるという 15-a) のような形は、言語習得ルールのかなり基本的なところで本能を逆
なでする部分があり、教室現場への導入には大きな困難が予想されるのである。とりわ
け、文法を発信型でとらえた場合、次の16) のような形が自然であると思われる。
16) A novel → PT → be-en → Ｖ(VZ + Ｎ)
(iii)＜第３の方式：EQUI方式＞
タスキガケ方式だめ、移動方式だめ、となれば、第３の方式が考えられねばな
らない。そしてこの第３の方式には、少なくとも次の２つのポイントが含まれねばならな
い。
(1) be-en をはさんだ２つのＮ（a novel)が必ず同じものをさし、
(2) ２つめのＮが ANA形にならず必ずになる。
この本では、(1) と(2) を保証するのはＶ拡充子 be-en の機能ということになる。また、
逆に、(1)と(2)の条件が満たされない限り be-en は導入されない。
17)a. *A novel - PRS/PST - be-en -write a letter
b. *A novel - PRS/PST - be-en - write(Vi)
かくして、この本では、受身形を、
(i) タスキガケ方式でなく、
(ii) 移動方式でなく、
(iii) {法性｝、｛完了｝、{進行｝のＶ拡充子による拡充と同様、｛受身｝の
Ｖ拡充子による動詞（Ｖ）の拡充として、つまり、 を生み出すEQUI方
式で、
扱う。
ちなみに、Chomsky, N.(1957, p.43)のように、be-en を動詞（Ｖ）の拡充の
枠組みから外して位置づける文法家は多い。例えば、Morenberg, M.(p.26）は、tense,
modality, aspect(perf+prog) までは Expanding Verb Phrases として扱っているが、
pass は抜けている。その根拠として最も一般的なものは、be-en は have-en や be-ing
に比べ、動詞との組み合わせの際に制限が多い（はっきりした被動作主が必要など）とい
う点とは別に、次の 18-d) のようにＡＮＡ形ではなくを生み出すという点である。
18)a. The president will kill himself. [will]
b. The president has killed himself. [have-en]
c. The president is killing himself. [be-ing]
d. The president was killed *himself/.[be-en]
一方、be-ing に続く４つ目の AUX として be-en を考えるのは、
Celce-Murcia&Larsen-Freeman(1983/1999), Huddleston, R.(1984, p.131),
Wardhaugh, R.(p.56), Quirk et al.(1985, p.151)などである。
例えば、Celce-Murcia & Larsen-Freeman(1983, p.224/1999, p.344)では、
19) ＡＵＸ→｛Ｔ／Ｍ (pm) (perf) (prog) (pass)｝
｛-imper｝
(pm は have to などの phrasal modals)
となっている。（は表記されていない）
15-3-NT-(B) ［４種類の］
本文の(7)と(8)はともに重複ありで義務的、一方、(9) は重複ありで任意的な
である。
(i) 重複あり＋義務的
1) This is the book that I bought yesterday. =本文の(7)
2) The refugees have no house to live in . =本文の(8)
(ii) 重複あり＋任意的
3) My car isn't working. I'll have to use Mary's [car/].
=本文の(9)
当然、重複なしで義務的なと、重複なしで任意的なも存在する。
(iii) 重複なし＋義務的
4) Whom does Jim like ?
5) I saw him run away.
(iv) 重複なし＋任意的
6) I think [that/] John told a lie.
7) [I//] will be back soon.
これら４種のについて、さらにくわしくは cf. 11-1-NT-(E)。
15-4-NT ［VZ + Ｎ1＋Ｎ2 型動詞の受身形］
VZ + Ｎ1＋Ｎ2 型動詞の受身形は、学習英文法（発信型）としては、次のよ
うにまとめられよう。
(i) Ｎ2 を主語とする受身はおおむね不可。
1)a. John sold Mary the book.
b. Mary was sold the book (by John).
c. *The book was sold Mary (by John). （小西、1980, p.1360)
2)a. John bought Mary a new wardrobe.
b. Mary was bought a new wardrobe by John.
c. *A new wardrobe was bought Mary by Jonn. (ibid., p.192)
3)a. Someone gave the boy a present.
b. The boy was given a present.
c. ?A present was given the boy. (?は「まれ」)(ibid., p.639)
ただし、Ｎ2が代名詞のときＯＫの例も。
4) The book was sold her (by John). (ibid., p.1360)
Quirk et al. (1985, p.58) の例は、
5)a. Some flowers had been brought him.(less natural)
b. Some folwers had been brought for him.(natural)
ただし、
6) *Some fish had been caught/bought/cooked us.(Quirk, p.58)
(ii) Ｎ1 ＝to Ｎの意味持つ場合はＮ1主語の受身形ＯＫ。 一方、Ｎ1 =
for Ｎ の意味を持つ場合は受身形不可であること多い。
McCawley, J.D.(1988, p.79) によれば、
7)a. Honest Oscar sold my brother a car for $200.
b. My brother was sold a car for $200 by Honest Osc.
c. %A car was sold my brother for $200 by Honest Oscar.
（% means "more normal in British than in American English")
8)a. Fred bought Ethel a birthday present.
b. ?Ethel was bought a birthday present by Fred.
c.??A birthday present was bought Ethel by Fred.
同じVZ＋Ｎ＋Ｎ型でも、'to-dative' constructions(= sell a car to my brother) の
indirect object は受身形可。一方、'for-dative' constructions (=buy a present
for Ethel) の場合は受身形は ?/??（ほぼ不可）。
15-5-NT-(A) ［Valency:早川、Allerton］
＜早川の「他動詞と自動詞との接点に並ぶいくつかの動詞群」＞
早川（in 鳥居・黒川、p.201ff）は、「他動詞と自動詞との接点に並ぶいくつか
の動詞群」として次の１５種をあげ、それぞれについて受身形の可／不可を論じている。
1) This book sells well.
2) He died a millionaire.
3) We walked five miles.
4) The flowers cost fifty pence.
5) Nobody slept in the bed.
6) Everyone laughed at him.
7) The horse knocked down the fence.
8) The spallow flew a town.
9) She laughed her thanks.
10) She smiled a sweet smile.
11) The suit became him very well.
12) I have two brothers.
13) They behaved themselves.
14) She nods her head.
15) He decorated the wall with pictures.
学習英文法で、受身形の学習を難しくしているのは、次の３点であろう。
(i)能動形－受動形がそろわないものがある、(ii)意味が同じように見えて一方が受身
可、他方が不可のものがある、(iii)動詞句の外側の条件によって受身可/不可となるも
のがある。それぞれの例を示すと、
(i)能動形－受動形がそろわないもの
16)a. They caught the 9:30 train.
b. *The 9:30 train was caught by them.
17)a. He clapped his hands.
b. *His hands were clapped by him. (N2がからだの 一部)
(ii)意味が同じように見えて一方が受身可、他方が不可のもの
18)a. The hot weather couldn't be endured.
b. *The hot weather couldn't be stood.
19)a. The farm was owned by the Smiths.
b. *The farm was possessed by the Smiths.
(iii)動詞句の外側の条件によって受身可/不可となるもの
20)a. This house was lived in by George Washington.
b. *Virginia was lived in by George Washington.
c. Chicago has been lived in by generations of immigrants.
d. *Chicago has been lived in by my mother.
＜Valency by Allerton＞
Allerton, D.J.(pp80ff)は、いわゆるsubject, object, complement を verb
elaborators と呼び、とくに後ろ２つ(second elaborators)について詳述している。例え
ば、次の５つ(p.81)を、
(1) Oliver damaged the key.
(2) Oliver resembled Richard.
(3) Oliver weighed tweleve stone(m:stonesでない!)
(4) Oliver had the documents.
(5) Oliver remained a thief.
NP replacement, Cleft, Passivization, NP exchange, How much question などの
テストにより、(1)= Object, (2)=Match Objoid, (3)=Measure Objoid, (4)=Possesion
Objoid, (5)=Predicative と分けている。(p.88) そして、 (1)の the key のみが
passive elaborator で object と呼べる。 (2)～(4)の Richard, etc. は完全な意味で
は object と呼べず pseudo-object あるいは objoid と呼ぶべきとする。(p.82)
15-5-NT-(B) ［デクラーク、久野、高見、Bolinger の仮説］
(i)＜デクラークの動作主制御の仮説＞
安井(1994、p.269)/ Declerck, R.(1991、p.200) は、タスキガケ方式による
受身形の生成を前提としているようであるが、「受動態にできるのは、．．動作が対象に
なっていて、しかも、その動作を動作主が制御できる場合に限られる (...only possible
when the the situation referrred to is dynamic and moreover controlled by an
agent,...)として、受動態を用いることができない場合を次のようにまとめている。
1. 動作主によって制御できないような過程が述べられている場合。
1) The country has changed its appearance. (no passive)
2) The hurricane has now reduced its speed. (no passive)
2. 動作ではなく、出来事が述べられている場合。
3) John received an anonymous letter yesterday. (no passive)
3. 動詞が、関係概念や状態などを表す場合。
4) This bucket contains petrol! (no passive)
5) I have no answer to that. (no passive)
4. 認知にかかわる意味を表す心理的な動詞の場合。
6) He likes you. (no passive)
高見（pp.29ff)によれば、受身文の可否は、久野の「インヴォルブメント仮
説」では擬似受身文の多くを説明できない（p.66）ところから、「特徴づけ仮説」を追
加し、この２つのうちのどちらかを満たしていれば適格となるとする。（p.72)
(ii) ＜久野のインヴォルブメント仮説＞
「英語の受身文が適格となるのは、．．．その他動詞が表す行為や状態に目的語が
インヴォルブ（関与）している場合．．．目的語に何かがなされたという事が示されて
いる場合である」（高見、p.30)
(iii) ＜高見の特徴づけ仮説＞
「英語の擬似受身文は、主語がその受身文によって特徴づけられている場合に適格
となる」（高見、p.59）
7)a. *This building was walked in front of by John last month.
b. This building was walked in front of by the Japanese
Emperor last month.
7-a) の John はあまりに平凡。一方、7-b) は Japanese Emperor によって building が
際立たせられているとする。
ただし、学習英文法では、次のようなBolinger, D.(1975, p.67) の「影響」
仮説で十分と思われる。
(iv)＜Bolingerの影響仮説＞
The subject in a passive construction is conceived to be a true
patient, i.e., to be genuinely affected by the action of the verb.
（受身文の主語は、真の被動者(true patient)であり、動詞の表す行為に
よって真に影響を受けている(genuinely affected)と考えられる）（和訳
は高見、p.31)
例えば、次の 8-b), 9-b), 10-b) では、I, the bridge, He が真に影響を受けているの
で受身可となる。
8)a. *I was approached by the train.
b. I was approached by the stranger.
9)a. *The bridge was walked under by the dog.
b. The bridge has been walked under by generations of lovers.
10)a. *He was crawled on by a bug.
b. He was crawled on by an elephant. [動作主が大きな動物］
また、次のような例（p.69)では、
11)a. *The stairs were run up by Jane.
b. These stairs have been run up so much that the carpet is
threadbare.
Janeひとりが階段を駆け上がっても、 階段は別に影響を受けない。しかし、これまで非
常に多くの人が駆け上がったために、絨緞がすり切れてしまっていれば、階段は明らかに
影響を受けているから、 受動態が成立する。
次の例もまた、この Bolinger の仮説で説明可能と思われる。
12)a. In the movie 'Home Alone', Kevin was left at home by his
family.
b. *The house was left by the family. (大西&McVay、p.68)
13)a. The page was turned by George.（早川、p.201ff)
b. *The corner was turned by George.
14)a. He resembles his father in appearance.(江川、p.277)
b. *His father is resembled in appearance by him.
15) George was met at the airport. (Bolinger, D. 1980, p.190)
16)a. The shop was entered by two thieves. (中川、p.154)
b.*The shop was entered by two boys.
17)a. They arrived at the stadium. (Quirk et al. 1985, p.163)
b.*The stadium was arrived at.
c. They arrived at the conclusion.
d. The conclusion was arrived at.
ただし、上のいくつかの例からもわかるように、No＋VZ + N１ の構造で、
「N１が（どの程度）影響を受けているか」ということは、しばしば「No が（どの程度）
影響を与えているか」ということによって決定される。例えば、8) では、approach me
の me がどの程度影響を受けているかは、No が the train か the stranger かによって
決まる。これは受身形（とりわけby～を持つ場合には）の可否を決定する要因がしばしば
動詞句の「外側」にあることを意味する。
15-5-NT-(D) ［意味格から見た受動可能性］
(i)＜Jackendoff の分析＞
鈴木・安井泉（p.345ff）によれば、Jackendoff, R.(1972) は文中の名詞句が
担う主題関係（thematic relation）に A. に示す階層関係を仮定し、B. のような制約を
もうけて受動可能性を説明しようとした。
A.主題階層 (thematic hierarchy)
i. Agent（動作主）
ii. Location（場所）、 Source（起点）、Goal（着点）
iii. Theme（主題）
B.受動文の主題制約
受動文の by-句は、受動文の主語よりも主題階層において高くなけれ
ばならない。
ただし、次の 1-b) の不適格性や、1-a) と 2-a) の違いは、上記主題関係と主題階層を
用いては説明できない。主題関係は、1-a) も 2-a) も 3) のように同じだからである。
1)a. Leslie has a house on Kausai. (cf. Wasow,1980)
b.*A house on Kausai is had (by Leslie).
2)a. Leslie owns a house on kausai.
b. A house on Kausai is owned (by Leslie).
3) Leslie has(owns) a house on Kausai.
<Location> <Theme>
(ii)＜高見の分析＞
高見（pp.50-55）によれば、意味格（semantic case)に基づいて受身文（主
に擬似受身文であるが）の適格性を分析したものとしては、Couper-Kuhlen(1979) があ
り、これによって、「能動文の主語の意味格が Agentive, Experience の場合適格、
Instrument, Location, Objective の場合は不適格となる。また、目的語の意味格が
Benefactive, Goal, Instrument などの場合は適格。Agentive, Direction, Reason な
どの場合は不適格となる」とする。
(iii)＜de Chene の分析＞
de Chene(pp.50-51)も、能動文で主語が主題の場合は受動化を許さないとし
て、次のような解説を試みている。彼によれば、主題の主語は受動化を許さないという
ことの最初の証拠として、
4) Sue is touching the bookcase.
a. ス－は本棚をさわっている（Sue = 動作主)
b. ス－と本棚とが接触している（Sue = 主題)
5) The bookcase is being touched by Sue.
本棚はス－によってさわられている（Sue = 動作主）
上で、Sue の意味役割に関する 4) で見られる曖昧性は、受動文の 5)ではなくなる。特
に、Sue を主題とする 4-b)には対応する受動文は存在しない。
このような意味格による分析は、「インヴォルブメント」や「影響」といった
ものをより科学的に精緻に分析できる可能性を秘めているが、一方で、学習英文法として
は、細かすぎて実践的でないという懸念がある。さらに、学習英文法が越えられないであ
ろう部分は、意味格による分析ではいわゆる前置詞句と名詞句の区別をしない、という点
である。次のde Chene(pp.50-51) の解説を見てみよう。de Chene は、主語も目的語も動
作主と違う場合には、普通、片方は主題であり、もう片方は着点または起点(source)また
は場所(location)のいずれかであるとし、主語が主題（動作主でない）の場合受身形は不
可であるとする。
6)a. The book fell to the floor. (the floor = 着点）
b. The book fell from the table.(the table = 起点）
c. The book is on the table. (the table = 場所）
(the book = 主題)
15-6-NT-(A) ［受身形のモチベ－ション］
受身形のモチベーションについては、安井（1994, pp.286ff)やAHBEU(pp.
57ff)やCollins(pp.404-405)などにくわしい説明がある。要約すると、それぞれ次のよ
うになる。
(i)＜安井（1994, pp.286ff）/Declerck(1991, p.211)の説明＞
1. 主語が 不明確(vague)になってしまう場合受動態が 好まれる。
１）I've been insulted! (cf Someone has insulted me!)
2. 話し手が動作主に言及したくない場合...
3. 逆に動作主を強調するために...動作主が最重要の新情報を担う場合...
2)A: Why are you so attached to that drawing?
B: It was made by my father.
4. NP1が何をしたかということより、NP2にどういうことが 起きたか ...
5. 文はすでにわかっている情報(old info)で 始め、文末のほうに新しい
情報(new info)をすえるのが通例。 これはできることなら主題(theme)
を旧情報のものにしておきたいからである。この原則を情報の原則
(info principle)と呼ぶことがある。
(ii)＜AHBEU(pp.57ff)の説明＞
The passive voice ... is useful,
1. when the performer of the action is unknown or irrelevant
to the matter at hand.
2.to conceal the performer of an action or the identity of a
person responsible for a mistake.
3.surprisingly enough, ...to emphasize the performer of the
action...using by at the end of the sentence.
4.to emphasize a modifying adverb.
5.scientists...as a conventional means of impersonal reporting
...the air of objectivity...
6.to preserve the coherence of your writing.
(iii)＜Collins (pp.404-405) の説明＞
＜agentに言及しないという選択＞
Using a passive form of a verb gives you the option of not
mentioning the person or thing responsible for the action, often
called the agent of the action.
...because you don't know who or what the agent is...
...because it is not important...
＜科学論文に受身多いのは＞
In accounts of processes and scientific experiments, the
passive is used ... because the focus is on what happens and not
on who or what makes it happen.
＜文末にagentが来る場合には、そのagentが強調される＞
When you use the passive, you can of course mention the
agent at the end of the clause by using 'by'. But this puts
emphasis on the agent, because the end of the clause is an important
position, and so you often do this when you want to refer back to
the agent in the next clause.
3) His best friend was killed by a grenade, which exploded
under his car.
(この例はend-focusとend-weightのル－ルが重なった例でもある)
これらをまとめると、受身形のモチベーションは、本文でも述べたように一見
矛盾するかに見える２つのものからなる。つまり、
(i) 動作主を目立たせたくない → by～なしの受身形
(ii) 動作主を目立たせたい → by～つきの受身形
特に、(ii)は文末に新情報を置くという英語の情報構造上の特色と深くかかわっている。
Young(1980,p160f)は、情報構造上のvoice contrastについて次のように説明
する。
4)a. THEME / RHEME
b. the mistake was explained by Paul
c. ----- / NEW
5)a. THEME / RHEME
b. the mistake was explained
c. ----- / NEW
It is important not to underrate the effect of choice of theme as an explanation
for the occurence of passive voice. (p.164)
また、Downig & Locke(p.252)によれば、speech では 6-B のように新情報を
表すtonicity(change of pitch and stress)が文末から別の場所に動いても問題ないが、
6)A: Where did you get that silver bangle?
B: My BOY-friend gave it to me.
New Given
writing ではこれがむつかしいので、7-B のように文末の by～ によって新情報を示す
passive は useful であるとする。
7)A: Where did you get that silver bangle?
B: It was given to me by my BOY-friend.
Given New
15-6-NT-(B) ［agentless passives］
Celce-Murcia & Larsen-Freeman(1983, p.225) によれば、
The ESL/EFL teacher must also be very aware of the fact that the
majority of passive sentences that occur in speech and writing(i.e.around
85 percent) do not have an explicit agent. For example:
Grapes are grown in the valley. ...
Such sentences occur when the agent is understood, ...
... Shintani(1979)(m:"The Frequency and Usage of the Enlgish Passive."
Unpublished Ph.D. dissertation in Applied Linguistics, UCLA) suggests that
we teach our ESL/EFL students when and why to retain the agent in those appro-
ximately 15 percent of passive sentences that have explicit agents ...
...and she concludes that almost all these agents could be explained
by one of the following generalizations:
1. The agent is a proper name ... who is too important to omit
in the context,e.g.:
The Mona Lisa was painted by da Vinci.
2. The agent is an indefinite noun phrase, i.e.,new information, ...
While Jill was walking down the street, her purse
was snatched by a young man.
3. The agent is an inanimate noun phrase which is retained because
it is unexpected;i.e., we expect agents to be animate, and almost
all omitted agents get reconstructed as animate nouns,e.g.:
All the lights and appliances in the Alberton household
are switched on and off daily by {an/this} elective device.
One of Shintani's recommendations is that the agentless pasive, which
is the norm, should be emphasized much more than it now is in EFL/ESL teaching
materials.
15-7-NT ［be Ｖen:状態か動作か］
(i)紛らわしい例（ambiguous)
次の 1)と2)では、be＋Venが動作と状態を表している。
1)a. The store was closed sharp at 8 yesterday. ［動作］
（江川、p.188）
b. The store was closed all day yesterday. ［状態］
2)a. The tree was uprooted by the storm. ［動作］
（安井、1996, p.313）
b. The tree was uprooted when I saw it. ［状態］
一般的に、1) や 2) のように動詞が完結動詞（conclusive verb, cf. Jespersen, O.
MEGIV,7.6)である場合には、動作と動作の結果である状態と、２とおりの意味がある。
一方、次の 3) のように非完結動詞の場合には常に状態を示す。
3) The mayor is admired by everybody.（安井、1996, p.313)
Quirk, et al.(1985, p.170)によれば、次の 4-a) はstateかactかambiguous
であるという。ただし、4-b), 4-c) のように by～ を加えたり、be-ingを加えたりする
とstateの意味消え、actの意味だけとなる。言い換えれば、4-b), 4-c)によりstateかact
かtestできることになる。
4)a. [ambiguous]In 1972, the Democrats were defeated.
b. [act only] In 1972, the Democrats were defeated by the
Republicans.
c. [act only] In 1972, the Democrats were being defeated.
確かにby～がつくときは動作であることが多いが、非完結動詞の場合には上記 3) のよう
に常に状態でby～がつくこともあるので、by～がつくかつかないかを動作か状態かのテス
ターとして使うことはできないと思う。
ひとつの考え方として、(i)本来の受身形は常に動作、(ii)状態の受身は常に
be + (being) Ven の構造を持つとも考えられる。この場合、(ii)のbe (being) Ven 中の
be は copula であってaux ではない（Quirk et al. 1985, p.170)ということになり、
(being) Ven は -ing によって形容詞化された動詞の受身形(be Ven)ということになる。
この考え方をとれば、1-b), 2-b), 3) はそれぞれ、
5)a. The store was (being) closed all day yesterday.
b. The tree was (being) uprooted when I saw it.
c. The mayor is (being) admired by everybody.
となる。
(ii) get Ven
get Ｖenはつねに動作を表す。get は dynamic conclusive verb(Quirk et
al. p.161)だからである。したがって、次の 6-a) の ambiguity は 6-b) とすれば消え
る。(ibid. p.162)
6)a. The chair was broken. （動作・状態）
b. The chair got broken. （動作）
ただし、Swan, M.(1980, $267-3)によれば、「get + 過去分詞」は、無制限に使えるわ
けではなく、突然・不意・偶然になされること(things that are done suddenly,
unexpectedly or by accident)や自分自身に何かをする(things which we 'do to
ourselves like getting dressed)場合に使われる。したがって、
7) *Our house got built in 1940.
8) *Parliament got opened by the Queen last week.
また、get-passive にはふつう by～がない。(Quirk et al. 1985, p.161)
9) James got beaten last night.
15-8-NT ［by vs in/at/to/etc.］
小田（上、p.183）によれば、状態を表す受動態の後には by 以外の前置詞が
続く。
1) I am interested in Chinese art.
2) He is satisfied with his job.
3) Ann is married to Alex.
動作－被動作の関係（他動性）が弱くなると状態を表し、 by 以外のものが使われると
いってよいかもしれない。
江川（p.281）によれば、次の 4-b) は状態を表し、in whisky は動作主を示
す句ではなく場所を示す副詞句とみるべきであるという。
4)a. Whisky contains a high percentage of alcohol.
b. A high percentage of alcohol is contained in whisky.
c. *A high percentage of alcohol is contained by whisky.
安井（1982, p.97)にも、次の 5), 6) の例について同様のコメントがある。
5) The mountain was covered with snow.
6) His name is known to everyone in the country.
さらに、安井は上の covered や known は一種の形容詞であり、「その形容詞的である
度合いは一様ではない」とする。
15-9-NT ［動詞句の受身形］
動詞句には受身可のものと不可のものがある。(cf.小西、1980, pp.26-27)
1)a. After much argument, we finally agreed to his proposal.
b. After much argument, his proposal was finally agreed to.
2)a. We agreed with Mary.
b. *Mary was agreed with.
また、同じ動詞句が、その中に含まれる名詞によって受身可となったり不可をなったりす
る場合もある。(Quirk et al. 1985, p.163)
3)a. They eventually arrived at the expected result.
b. The expected result was eventually arrived at.
4)a. They eventually arrived at the splendid stadium.
b. *The splendid stadium was eventually arrived at.
Quirk et al. は、3-b) のように主語が abstract/figurative の場合のみ受身形が可能
という。
動詞句がどのような場合に受身可となり、どのような場合に不可となるかを説
明しようとした試みに高見（p.59)の「特徴づけ仮説」（cf.15-5-NT-(B)）がある。次の
ようなものである。
＜高見の「特徴づけ仮説」＞
英語の擬似受身文は、主語がその受身文によって特徴づけられている場
合に適格となる。
5)a. *This building was walked in front of by John last month.
b. This building was walded in front of by the Japanese Emperor
last month.
安井（1982, p.236/1996, p.307)は、「受動態の主語が 動詞によって示され
る行為によって人々の関心を引くような影響を受けると考えられる場合には、受動態が可
能である」として次の例をあげる。
6) The bed was not slept in.
7) The house was not lived in.
8) The chair was not sat on.
9) *The room was run in by the children.
10) *The room was waited in by them.
いずれにせよ、受身可の動詞句は、（語レベルではなく句レベルであるという点で）広義
の異分析（metanalysis, cf.Jespersen, O. 1914, II Syntax Vol.1., pp.141-142)によ
りひとつのかたまりと見なされたものと言える。
15-10-NT-(A) ［there構文の受身形］
there が一種の名詞ととらえられることがある。
1) There is a banana in the fridge, isn't there?
2)a. There is believed by many experts to be an error in the
argument.
b. Many experts believe there to be an error in the argument.
(McCawley, J.D. 1988, p.170)
15-10-NT-(B) ［be said to V］
次の 1-a) は、1-b) からshe を it のところへ代入し、that節をto不定詞に
かえて得られるとする説がある。（安井、1982, p.237)
1)a. She is said to be rich.
b. It is said that she is rich.
しかし、この本では、1-a) の is said to は、is about to, have to などと同様｛法
性｝の準V拡充子(SEMI-MOD)として扱われる。（cf.12-11-NT-(A))
