16-1-NT-(A) ［Ｖ拡充子の複合形］
学習英文法では、
(i) 義務的である｛呼応｝のＶ拡充子(AGR)と、任意的である｛法性｝(MOD)、
｛完了｝(PERF)、｛進行｝(PROG)、｛受身｝(PASS)のＶ拡充子との区別、
が、まず重要なポイントとなろう。その次には、４つの任意的なＶ拡充子（MOD, PERF,
PROG, PASS)をまったく同列に扱ってよいかどうかがポイントとなる。これらには先行す
る｛呼応｝のＶ拡充子(AGR)や後に続く動詞（Ｖ）との組み合わせの際にrestrictionsの
違いがある。そのため、MOD を他の３つと区別する文法家(Palmer, F.R.(1974, p.31/
1988, p.32), Akmajian & Heny(1979), Wardhaugh, R.など)や、PASS(be-en)を他の３つ
と区別する文法家（Chomsky, N. 1957など)もいる。
この本では、４つのＶ拡充子をすべて同じ任意的なＶ拡充子としてまとめた
上で、
(ii) ｛受身｝のＶ拡充子(PASS)とその他のＶ拡充子（MOD, PERF, PROG）と
の区別、という点を第２のポイントとする。 PASS は必ずφを生み出し、その他はANA
（-self）形を生み出すからである。
16-1-NT-(B) ［Bache の分析］
Bache,C.(1995)は、動詞まわりを a)Actionality, b)Temporality,
c)Aspectuality という３つの素性で統合的に分析できるとする。例えば、Bache(p.301)
は、Tense をtemporal/simplex に、さらに simplex は punctual/durative に、
durative はさらに telic/atelic に、atelic はさらに directed/self-contained に
下位区分する。そして、次のような例では、
1) Ted played the serenade for Sally.
2) Ted was playing the serenade for Sally.
3) Ted is playing the serenade for Sally.
1)の下線部は[telic, past, perfective], 2)の下線部は[directed, past, perfective],
3)の下線部は[directed,present,imperfective]と素性分析される。
16-3-NT-(A) ［日本語の複合Ｖ拡充形］
日本語でも、動詞にいくつかのいわゆる助動詞をからめふくらませる例はあ
る。その場合にも助動詞の順序は重要である。
1) 行か・せ・られ・たく・なかった・らしい。
2) ＊行か・られ・せ・たく・なかった・らしい。
3) ＊行か・せ・たく・られ・なかった・らしい。
4) ＊行か・せ・られ・たく・らしい・なかった。
16-3-NT-(B) ［複合Ｖ拡充子の順序］
複合Ｖ拡充子がその順序を破ってしまうということは極めてマレである。
1)a. Sam may have been arrested for selling drugs.
（McCawley,J.D. 1988, p.76）
b. *Sam may be had arrested for selling drugs.
2)a. Dinner is being served. (ibid.)
b. *Dinner is been serving.
3)a. Max may have been studying. (Kaplan, p.218)
b. *Max has may been studying.
c. *Max may be have studied.
d. *Max is may have studied.
4)a. Mary has been eating my chocolates. （大場、1981, p.106）
b. *Mary is having eaten my chocolates.
ただし、次の Schachter,P.(1983, p.161) の例文(in McCawley,J.D. 1988, p.223) は、
そのマレな例であると思われる。
5) Whenever I see you, you're always just having returned from a
vacation.
16-3-NT-(C) ［一般的でない複合Ｖ拡充形］
本文中の(21h)～(21o)については、少なくともひとりの文法家によって不可と
される。
(21h)については、Ｘ:Quirk,et al. 1985, p.166/○:小田、上, p.177
(21i)については、Ｘ:小田、上, p.165
(21j)については、Ｘ:Quirk,et al. 1985, p.166
(21k)については、Ｘ:Quirk,et al. 1985, p.166
(21l)については、Ｘ:小田、上, p.165
(21m)については、Ｘ:小田、上, p.165/○:小田、上, p.177, McCawley, J.D. p.76
(21n)については、Ｘ:Quirk,et al. 1985, p.166
(21o)については、Ｘ:江川、p.279/○:Quirk,et al. 1985, p.64
もう少し具体的に述べると、Quirk, et al.(1985, p.166)は、
AB: may have examined (p.151)
AC: may be examining
AD: may be examined
BC: has been examining
BD: has been examined
CD: is being examined
ABC: may have been examining
ABD: may have been examined
ACD: may be being examined
BCD: has been being examined
ABCD: may have been being examined
で、AD, BD, CD, ACD, はマレ、 BCD, ABCD, はもっとマレ、とくに "be being" sequence
がきらわれる、とする。例えば、
1) ?Seats have not been being won by the Conservatives lately.
鈴木・安井泉(p.286)には、決まった表現で容認される例 2-b) とともにほと
んど不可でマレな例として 3-b) があげられている。
2) a. They have been building a lot of houses recently.
b. A lot of houses have been being built recently.
－ Close, R.A. p.251
3) a. Volunteers have been running the organisation.
b. The organisation has been being run by volunteers.
－Leech, G.N. p.50
小田(上、p165)には、現在完了進行形、過去完了進行形、未来完了進行形、
そして未来完了受動態を使用することはほとんどない、とある。つまり、*have been
Ｖing、*will have been Ｖing、*will have been Ｖen であるとしている。
江川(p.279)には、構文上は可能でも実際上はさけられる形として次の例が
あり、
4) The road has been being repaired.
5) The road will have been being repaired.
6) The bridge will be being repaired.
人工的で問題外の例文として次の例がある。
7) The road will have been being repaired.
しかしながら、(21h)～(21o)の形でも、その可否についてnative informants
の間で意見の分かれることもある。また、ある限られたコンテキストをイメージすれば可
となるケースもある。次の
8) は Scheffer, J. の例であるが、
8) *The work will be being finished in the afternoon.
００７の映画の中でスパイが受ける指令としてはOKの文であろう。また、Quirk et al.
(1985, p.64) はマレである、とはしながらも、次の 9-B は起こりうる(could well
occur)会話であるとする。
9) A:Has a candidate named Petersen been interviewed yet?
B:He wasn't in the waiting room two minutes ago.He may have
been being interviewed then.
ちなみに、鈴木・安井泉(1994, p.209)によれば、助動詞が認識様体的
(epistemic)な場合に限って進行相、完了相と共に用いられる(Leech, G.N. p.98)。
例えば、may は 10) にみるように、進行相、完了相と共に用いられている場合には、
「可能性」という認識可能性的意味となることはあっても、「許可」という知的
(cognitive)意味となることはない。
10)a. She may be bluffing. (可能性Ｏ、許可Ｘ）
b. You may have left your wallet on the bus.(同上）
－Leech, G.N. 1987, p.98
また、be Ｖing が不可の場合でも、will be Ｖing では OKとなる次のような
場合もある。
11)a. He'll be owning his own house next.
b. *He is owning his own house now.
－鈴木・安井泉, pp.211-212/Quirk et al. 1985, p.217)
16-3-NT-(D) ［継続のhave Ｖen vs have been Ｖing］
一回限りの行為を表す動詞が have Ｖen形によって継続を表すときには「過去
にくり返し起きた行為」(小田、上、p.233)を表し、have been Ｖing形によって「今続い
ている行為」を表す。
1)a. Rita has talked to Josh on the phone many times.
b. Rita has been talking to Josh on the phone for twenty minutes.
この場合、have Ven形とhave been Ving形とでは意味が異なるということになる。
しかし、live, work, teach など特定の動詞が、 since または for と一緒に
使われるときは、現在完了と現在完了進行形の意味はあまり変わらない。(小田、上、
p.51)
2)a. He has worked at the same store for ten years.
b. He has been working at the same store for ten years.
鈴木・安井泉(p.285)によれば、sit, lie, wait, say など 一時的状態
(temporary state)を表す動詞は、継続を表す場合、単純完了相の形式で用いられるより
も完了進行相の形式で用いられるのが普通である。（Leech, G.N. p.50)
3)a. I've sat here all afternoon.
b. I've been sittng here all afternoon.(一時的状態ではこちらが普通)
16-3-NT-(E) ［複合Ｖ拡充子の中の準Ｖ拡充子］
鈴木・安井泉(p.219)によると、次のような形がOKとされる。
1) will be able to Ｖ
2) will have to Ｖ
また、 have been going to という完了相を用いると、3) にみるように、実現
できなかったことを明示的に表すことになる。（Palmer,1974,p.65;Close,1975,p.258)
3) You've been going to play tennis with me for months,
but you've never played with me yet.
