17-1-NT-(A) ［基本文（K-S）］
この本では、9-1 で述べたように(i)Ｎ＋Ｖの構造を持ち、したがって、(ii)
ＮとＶの間に｛呼応｝の拡充子 AGR(PRS/PST) を持つものを文（Ｓ）と呼ぶが、そのうち
もっともシンプルなものを基本文（kernel sentence)、あるいは、K-Sと呼ぶ。
安井（1994, pp.28ff) によれば、文には次のようなものがある。
(i) 単文(simple sentence)と多重文(multiple sentence)
a)単文
b)多重文
(1)重文
(2)複文（＝superordinate clause + subordinate clause）
(ii) ほとんどの文は、陳述(statement) であるか質問(question)であるかのどちらか
である。その他、少数派の文タイプとして、指図(directive)、願望(wish)、 感
嘆(exclamation)がある。
(iii) 文は、肯定(affirmative/positive)文と否定(negative)文に分けることができる。
(iv) 文は、断定(assertive)文と非断定(nonassertive)文にわけることができる。内容
が肯定的で疑問を含まないものが断定文。単に形の上で決まるのではなく、全体
の意図（伝達内容）によって決まる。例えば、Didn't I warn you against him?
は形の上では疑問文だが断定文。（p.36)
したがって、この本で言う「基本文」(K-S)とは、単文－陳述－肯定－断定文
である。
17-1-NT-(B) ［強調文(EMPH-S)］
「強調文」という呼び名は、実は、確立した用語とは言い難い。McCawley、
J.D.(1988, p.237)は、retortsとして次の４つの例をあげている。
1) John HAS mailed the letter.
2) Margaret IS practising the piano.
3) The meeting WILL start at 2:30.
4) Hindemith DID write a horn concerto.
ただし、McCawleyは、上記例文を全文強調というよりは部分的対比強調として
とらえており、3) の WILL start は、won't startを否定し、これがもし、will START
ならば will end と対比し、これを否定するとする。
17-1-NT-(C) ［基本文/強調文のイントネ－ション］
竹林(p.153)によれば、この本で言う基本文（K-S）の標準的なイントネ－ショ
ンは次のようなものである。
1) I'd like a cup of coffee
４↓ （下線は＋強勢）
３
２ ２ ２ ２
１
前頭部 ｜ 頭部 ｜核｜尾部
上で、頭部（head）とは「文の中で最初に強勢のある音節から核の直前の音節まで」を、
核（nucleus）とは「ピッチが急激に下降または上昇するところ」を表す。
一方、ここで言う強調文（EMPH-S）の典型的なイントネ－ションは、次のよう
なものである。(p.159)
2) The boys are here.
２ ３ ４↓ ２
3) I did see a ghost.
２ ４↓ ３ ２ ３
17-1-NT-(D) ［アクセント（強調）はピッチ。強勢(ストレス)ではない］
ここで言う「アクセント」は、Bolinger, D.(1986, p.20) の言う"abrupt
pitch jump"（突然のピッチの上下）をさす。
Bolinger(ibid. pp.14-22)は、｛強調｝（accenting) にかかわるのは音の強
弱を表す「強勢」（stress)ではなく、むしろ、音の高低を示す「ピッチ」(pitch) であ
るとして、次のような理由をあげている。
(i) lengthとloudnessは自然会話の中ではdistortionを受け易いがpitch
は安定している、(p.22)
(ii) abrupt pitch jump は必ず強調（emphasis)を表すが、強勢（stress)
があるからといって強調されている(emphasized)とは限らない。
(p.14-15)
例えば、(ii)の例として、次の1)で、
1) A:Would you put up with something like that?
B:I
would never put up with it.
I はemphasize/accent されているが、never は 強勢はある（is still stressed)ものの
強調されてはいない（is not emphasized or accented）とする。
ちなみに、Taglicht, J. (p.50)によれば、stressによるNew/Given Infoの区
別をはじめたのはSweet, H.(1969, pp.199ff)であるが、pitchを a matter of prominence
として扱ったのはColeman, H.O.(1912)であるという。
17-1-NT-(E) ［強調：対比か関心・感嘆か］
Swan, M.(1995, pp.182-183) は、ある語(word)や表現(expression)を強調
(emphasise or strengthen)する理由が２つあるという。
(i) emotive emphasis (to show that we feel strongly about ...)
1) You DO look nice today!
(ii) contrastive emphasis (to show a contrast ...)
2) Why weren't you at the meeting?/I WAS at the meeting.
Bolinger, D.(1986, p.95)は、強調（accenting)の正体は、contrast を表す
というより、focus of interest を表すものであるとする。次の 3) と 4）で、
3) We have been talking about their customs, dress, ceremonials,
marriage, etc. Now I'd like to know about another aspect of
their culture: What did they éat?
4) They were forbidden pork, beef, cereal grains, and fruits?!
What did they éat?
3)の eat にはfood customs について "contrast" があるが、4)の eat には focus of
interest はあるものの、はっきりとした contrast はないとする。
感情的な強調（p.682)と対比強調（p.654)を区別する同様の議論は池上(1977)
にも見られる。池上は、感情的な強調を持つ文として、次をあげ、
5) That WÌLL be nice. (p.681)
6) What ÁRE you DÒING? (p.682)
（大文字は核音節、アクセント記号は音調、縦線は強勢を示す）
さらに「感情的な強調には対照の意味はない」(p.682)とし、例えば、上の 5) には、過
去との対比はない、とする。
ただし、強調が対比を表すのか関心・感嘆を表すのかは微妙なところである。
例えば、1) に contrast の含意なしとは言い切れず、2) に emotive な要素なしとも言
いがたい。また、5) には過去との対比はないが否定形 won't との対比はあるように思わ
れる。
17-2-NT ［Allen, R.L. の X Sector］
Allen, R.L.(p.106) は negative sentence や emphatic sentence を作る"X
sector"という position を考え、このＸの位置に extra heavy stressやnot や time
reference などを運ぶ first aux が動いてくると考える。さらに、文(S)全体を拡充する
要素として、Seuren,P.A.M.(1969) の operator や Celce-Murcia & Larsen-Freeman
(1983/1999)の sm(sentence modifier) を参照されたい。
17-3-NT-(A) ［アクセント移動？］
ここでは「AGRにアクセントを置く」という言い方をするが、実は、「AGRにア
クセントを移動する」が厳密な表現であろう。例えば、
1) We love music.
は、実は、話し言葉のレベルでは、文末に unmarked のアクセントを持つ、
2) We love MUsic.
だからである。cf.17-1-NT-(C)
また、「AGR（大江ではTn）を焦点とする構文」という発想については、大江
(p.183)を参照されたい。大江は、
3) They DO/CAN speak Japanese.
4)a. JOHN bought his book at that store yesterday.
b. John bought his book at THAT store yesterday.
で、3) はAGR に Emph がついた形、4-a) や 4-b) はＮやDetにEmphがついた形として説
明している。
17-3-NT-(B) ［強調の操作］
Ｓ拡充子の｛強調｝(EMPH)は「具体的な単語などの付加」ではなく、「アクセ
ントを持った語、つまり、オペレーターを生み出す一連の操作」であるという点で、教室
現場ではなじみにくいかもしれない。ただ、英語では否定文、疑問文、ショート・アンサー
などでオペレーターを生み出すこの操作は頻繁に使われる。ひとつの意味を与えるための
形の上での複数の操作、ということで乗り切れないだろうか。ちなみに、ひとつの意味単
位を与えるために形の上で複数の操作を必要とする簡単な例としては、
1) city +PL → citi + PL → cities（書き言葉）
伝統的には、Celce-Murcia and Larsen-Freeman(1983, pp.97-99)のように、
次の３ステップで強調文を作るというのが一般的である。
(i) Aux がある場合、最初の要素にストレスを。
(ii) Auxがない場合で、本動詞のBEがある場合は、そのBEにストレスを。
(iii) Aux も本動詞のBEもない場合にはストレスを持つDO/DOES/DIDの挿入。
この伝統的なやり方は、表層で変形ができる、という点ですぐれたものである。ただし、
この本では、-DO型/+DO型動詞、PRS/PSTの呼応など総合的な分析力を見据えた上であえ
て本文のような形を提案した。
17-4-NT-(A) ［オペレーター（operator）とは］
大塚・中島（pp.803-804)には、OPERATOR(操作詞）として次の(i)、(ii)、(iii)
の説明（要旨）がある。
(i) Firth(1975b;1968,p.182)の用語。Quirk et al.(GCE, 2.2)なども使用する。
操作詞は実際には定形の助動詞のほかに、本動詞としての定形のbe および
主としてイギリスで英語における定形の have である。これらの働きによっ
て、疑問・否定・強調などの文が明らかになる。
1) Did it rain yesterday?
2) The girl isn't a student.
3) That WILL be nice!
(ii) Harris(1970) では、核文（KERNEL SENTENCE)全体、またはそれに含まれて
いる動詞に作用して変形文を作るものをさす。例えば、次の 4) において、
4) He studies eclipses. → He is studying eclipses.
is-ing は動詞操作詞（verb operator) であり、次の 5) において、
5) He came. → I know (that) he came.
I know は文操作詞（sentence operator)である。
(iii) Seuren, P.A.M.(1969)では、深層構造をNucleus(核)とOperator(操作詞)に
二分し、Nucleus(核)は主語・述語・目的語その他の関係だけを表し、
Operator(操作詞)はそれに作用する否定・疑問・提案・時制その他を含む。
この本では、
(iv) Ｓ拡充子{強調}のEMPHによりアクセントを持つようになった語をオペレー
ターと呼ぶ。
したがって、この本では次の 6)-a, 7)-a の IS, DID はオペレーターである
が、6-b), 7-b) の is や did はオペレーターと呼ばない
6)a. The girl IS a student.
b. The girl is a STUdent.
7)a. DID it rain yesterday?
b. Did it rain YESterday?
ただし、ふつう、学習英文法では、オペレーターは上記(i)の立場をとり「強調文でアク
セントを持つ語」ではなく、「アクセントを置かれるはずの語」をさす。例えば、Qurik
et al.(1985, p.79)では PREDICATE = OPERATOR + PREDICATION とされ、この OPERATOR
は first and only auxiliary(but cf2.49) だけでなく 'dummy' auxiliary の DO(DO-
SUPPORT)やBEもさす。したがって、次の8) で、is は auxではないが operatorである。
(p81)
8) Is everything ready?
この場合には、上の 6-b) のis や 7-b) の didもオペレーターということになる。
また、オペレーターの訳語については、池上（p.507)では、「操作語」、安井
(1994,p.72)では「演算子」となっている。また、安井(1996, p.155)は、Palmer や Hornby
によって「変則定形動詞 」（twenty-four anomalous finites）と呼ばれた、24個の動詞
（am, is, are, was, do, does, did, can, could, dare, used など）を「特別動詞」と
呼んでいる。
17-4-NT-(B) ［迂言的 do の起源：使役の do］
中尾・児馬(pp.70ff)によれば、ＰＥの強調文で使われる助動詞 do（迂言的do)
をもたらしたと考えられるもっとも有力な要因のひとつは、使役動詞の do(=cause) であ
るという。(p.70)
1) he dede davy sadillyn an-oder hors
(=he caused Davy to saddle another horse) (PL II 28/38-9)
2) I did (someone) saddle a horse.
3) I want to saddle a horse.
つまり、1)のような使役形が2)となり、不定名詞(someone)省略を経て、3)の形のアナロ
ジーから、saddle の主語が I となる新解釈が生まれ、さらに did は単なる時制マーカー
へと変身したという。また、今日の迂言的 do が重要なのは、「強調」だけでなく、疑問
文や否定文にも用いられるからにほかならないが、ＯＥにはまったくなく、ＭＥにおいて
は例はあるものの確立されていたとは言えないとのべている。(p.73)
17-5-NT-(A) ［EMPH の作用域］
核強勢（この本ではアクセント）と情報構造との関係は、荒木・安井(pp.
523ff) に簡潔にまとめられている。それによれば、
(i)＜旧情報（前提） vs 新情報（焦点）＞
発話は、旧情報と新情報とから成り、旧情報を表す部分は「前提」
(PRESUPPOSITION)、新情報を表す部分は「焦点」(FOCUS)ということになる。例えば、
1)A: What did John do?
B: He opened the door.
で、John did something. が前提、opened the door が焦点である。また、新情報を示す
語句が焦点であり、焦点は核強勢(nuclear stress)[文強勢(SENTENCE STRESS)と呼ばれる
こともある］によって表示される。
2)A: Who did John give the doll to?
B: He gave it to SÚsan.
では、核強勢は SÚ にあるが、to Susan 全体が焦点となる。
(ii) ＜無標の焦点（文末） vs 有標の焦点（対比）＞
焦点は、新情報を担う要素として、発話を構成する文の文末、または、それに
近い位置に置かれ、核強勢によって表示される。...これは「文末の焦点」(END-FOCUS)と
呼ばれる最も一般的な無標の焦点である。...核強勢が文末の語句の最後の音節に来る場
合は、新情報は文全体のこともあるし、述語（PREDICATE)のこともあるし、文の最後の要
素であることもある。次の例は、新情報つまり焦点の範囲が、１つでなく４つの可能性を
持っていることを示している。［下線部が焦点（新情報）］
3)A: What's on today?
B: We're going to play TÈNnis.
4)A: What are we doing today?
B: We're going to play TÈNnis.
5)A: What are we going to do today?
B: We're going to play TÈNnis.
6)A: What are we going to play today?
B: We're going to play TÈNnis.
このように、核強勢は同じでも、焦点のひろがりはＡの問いによって変わる。
また、有標の焦点は、しばしば「対比焦点」(contrastive focus)として現れ
る。文末の焦点（無標）に対して、情報構造上有標である対比焦点は核強勢を伴って、発
話としての文の、文末以外の要素にも置かれ、対照・対比という観点から見た場合の新情
報を担う。例えば、次の7-B) のように。
7)A: Let's bring them a pound of TEA.
対比焦点はまた、操作語(operator)に置かれることもある。この場合には、肯
定と否定の対比を示すという機能を持つ。
8)A: Why haven't you had a bath?
B: I HÀVE had a bath. (p.525)
結局、英語のアクセントは次のようにまとめられる。
(i) アクセントを持つ語句はすべて対比強調（対比焦点）を持ち得る（有標）
(ii) アクセントを持つ文末の語句は強調の意味を持たない無標の焦点であることが
多い（無標）
(iii) (アクセントを持つ）オペレ－タ－は、文全体の強調を表すことが多い（無標）
例えば、次の 9) では、
9) John met Mary YESTERDAY.
コンテキストにより、(ii)の yesterday は新情報ではあるが強調の意味を持たない場合
（無標）と、(i)の一昨日ではない昨日、といった対比強調の意味を持つ場合（有標）の
解釈がなりたち、次の 10) では、
10) John DID write a book on frogs.
(iii)の文全体の強調の場合（無標）と(i)の書かなかったのではなく確かに書いたのだと
肯定の意味が対比強調される場合（有標）か、もしくは、これからではなくもうしてしま
ったという過去の意味が対比強調される場合（有標）の解釈がなりたつ。
17-5-NT-(B) ［HAVE-ENに強勢：経験］
鈴木・安井泉(p.271、要旨）によれば、
1) John left the office at five o'colck.
2) John has left the office at five o'clock. ─Declerck, p.108
（ジョンは今まで５時に退社したことがあります）
2) は経験の意味を紛れなく伝えるために助動詞 have に強勢が置かれ 3) のように
なるのが普通である。
3) John HAS left the office at five o'clock.
17-5-NT-(C) ［Taglichit の focus marker］
Taglicht, J.(p.1) は prominence を与えることを focusing と呼び、focusing
devices にはその影響が及ぶ 'domain' があるとする。また、domain の中には、(i)the
(focus) marker, (ii)the focus, (iii)the residue(focus以外の残り)があるとする。
Taglicht, J.(pp.2-3)のいう focus marker と focus(下線部）の例をいくつ
かあげると、
(i) The cleft-sentence construction:
1) It was Jack who called yesterday.
(ii) The WH-interrogative:
2) What would you like?
(iii) The intonation nucleus:
3)a. He was here.
b. He was here.
c. He was here. (intonationがmarkerで、下線部がfocus)
(iv) Marked word order:
4) His name I never found out.
