第I章 基本6品詞


LESSON 6  主形態素──副詞(AD)

 6-1 [副詞(AD)、動詞の拡充(V+AD)] 
 主形態素の中には、いつ、どのように,など主として動詞(V)の様態
を説明するものがあります。「副詞」(adverb)あるいは AD と呼ばれ
る第4のグループです。次の例では again という副詞(AD)が try と
いう動詞(V)を拡充しています。

   (1)  Try again.
      (もう一度やってごらん)

 より大きな動詞(V)句となった (1) の構造は次のようなものと考え
られます。
   (2)   (Try again.)  [拡充]
          V
         / \
        V  AD
       (try) (again)

 6-2 [副詞(AD)の意味] 
 副詞(AD)には、時・場所、様態・頻度、話者の気持ちなどを表すも
のがあります。

   (i) 時・場所を表すもの。
   (3) now(今), then(その時), immediately(すぐに),
     daily(毎日),など。                
   (4) here(ここに), there(あそこに),など。

   (ii) 様態・頻度を表すもの。
   (5) quickly(素早く), quietly(静かに), slowly(ゆっくりと)
     carefully(注意深く)、など。
   (6) always(常に), never(決して〜でない), sometimes(時々)
     seldom(滅多に〜しない),  often(しばしば),など。

  (iii) 話者の気持ちを表すもの。
   (7) fortunately(幸運にも), hopefully(望むらくは), 
     obviously (明らかに),など。
   (8) probably(多分),  certainly(確かに),  allegedly(伝え
     られるところでは),など。
   (9) still(未だに),  yet(まだ),  already(すでに),  
     anymore(最早これ以上),  usually(ふつうは),など。

   (iv) その他。
   (10) even(〜でさえ),  only(ただ),  too(もまた),など。

 6-3 [副詞(AD)の形:-ly を持つもの/持たないもの] 
 語としての副詞(AD)には、again, well などのように、(i) ひとつ
の形態素からなるものと、 slowly, outdoors などのように (ii) 複数の
形態素からなるものがあります。

  (i) ひとつの形態素からなるもの
   (11) again(また),  well(上手に),  hard(しっかりと),
      just(ちょうど), など。

  (ii) 複数の形態素からなるもの
   (12) slowly(ゆっくりと), outdoors(外で),  clockwise(時
      計回りに), side-ways(横に), schoolboy-fashion(生徒
      風に),など。

 (ii) のグループのうち、最も多いのは語尾に -ly を持つ形です。この
-ly という形態素は、いわば、{副詞(AD)に変われ}あるいは{副詞
化}という意味を持つ転換子(CVT)で、形容詞(A)に付加されそれを副
詞(AD)に変える働きがあります。したがって、例えば(12) の slowly
は、 slow という形容詞(A)とこの-ly によりできた形、つまり、次の
ような構造を持つと考えられます。

   (13)   (slowly)
         AD
        / \
       A   CVT
      (slow) (-ly)

 また、この -ly は、すべての形容詞(A)というわけではありませんが
多くの形容詞(A)に付加され使われます。その意味でこの -ly にはかな
りの「生産性」(productivity)があると言えます。

 6-4 [副詞(AD)の作用域(scope)] 
 実は、副詞(AD)は動詞(V)を拡充するだけではありません。形容
詞(A)や他の副詞(AD)、さらにはN+Vのかたまり全体、つまり、
文(S)(cf.9-1)を拡充する場合もあります。

 それぞれの場合について例をあげてみましょう。

   (i) 動詞(V)を拡充する副詞(AD)
   (14) He talks differently.
     (彼にはナマリがある)

   (ii) 形容詞(A)を拡充する副詞(AD)
   (15) This is too expensive.
     (これは高すぎる)

  (iii) 他の副詞(AD)を拡充する副詞(AD)
   (16) She drives so carefully.
     (彼女はとても慎重に運転する)

   (iv) 名詞(N)+動詞(V)の組み合わせ全体(文(S)、cf.9-1)
      を拡充する副詞(AD)
   (17) Fortunately, he did not die.
     (幸運にも彼は死ななかった)

 また、上の (14)〜 (17)の当該部分の樹形図は、

   (18)  (talks differently)
         V
        / \
       V   AD
     (talks)  (differently)

   (19)  (too expensive)
         A
        / \
       AD   A
      (too)  (expensive)

   (20)  (so carefully)
         AD
        / \
       AD  AD
      (so)  (carefully)

   (21)  (Fortunately, he did not die)
         S
        / \
       AD   S
   (Fortunately) (he did not die)

 このような拡充の際、拡充される部分を拡充する部分の 「作用域」
(scope)と呼びます。「作用を受ける領域」という意味です。(18)で
は talks が differently の、(19) では expensive が too の、(20) 
では carefully が so の、(21)では he did not die が fortunately 
の作用域ということになります。

 6-5 [2つ以上の副詞(AD):V−AD1−AD2] 
 副詞(AD)が2つ以上、文末に登場する場合、一般的には、

   (22) 様態−場所−時

の順で登場することが多いようです。

   (23) a. I worked hard yesterday.   (Swan p.27)
     b. *I worked yesterday hard.
       (私は昨日しっかり働きました)

   (24) a. She sang beautifully in the town hall last night.
     b. *She sang beautifully last night in the town hall.
     c. *She sang last night in the town hall beautifully.
     d. *She sang in the town hall beautifully last night.
       (彼女は昨晩公会堂で素晴らしく上手に歌いました)

Copyright(C) 2004 Masaya Oba. All rights reserved.