第I章 基本6品詞


LESSON 3  主形態素──名詞(N)

 3-1 [名詞(N):固有名詞(Npro)、可算名詞(Nc)、不可算名詞(Nu)] 
 主形態素は数多くありますが、それらの中には、人、物、名前などを表
すものがあります。そしてこのグループ、また、このグループに属する形
態素のひとつひとつを「名詞」(noun)あるいは  と呼びます。

 名詞(N)が表す対象物には、実際に目で見たり、手で触ったりできる
ほど具象的なものから、概念や空想の世界でのみその存在が認識されるよ
うな抽象的なものまであります。この本では、すべての名詞(N)を次の
ように3つのグループに分けることにします。

 (i)固有名詞(Npro):人名、山・川・町の名などを表す。
   (1) John(ジョン),  Mississippi(ミシシッピ−河),
     London(ロンドン), Broadway(ブロ−ドウエイ),
     English(英語),Friday(金曜日),April(4月),
     Sony(ソニ−),Volkswagen(フォルクスワ−ゲン),など。

 (ii)可算名詞(Nc):人、物をさす一般的呼び名で、数えられるものを
   表す。
   (2) book(本), cat(ネコ), tree(木), house(家), 
     coin(硬貨),hand(手),teacher(先生), hour(時間),
     fact(事実),idea(考え),など。

 (iii)不可算名詞(Nu):液体、気体、集合体、抽象的概念など、数え
    られないものを表す。
   (3) water(水), milk(ミルク), rain(雨),blood(血),
     mud(泥),garbage(台所ゴミ),
     air(空気),aroma(香り),steam(蒸気),snow(雪),
     butter(バタ−),sugar(砂糖),rice(米),money(お金)
     traffic(交通),advice(忠告),
     food(食べ物),baggage(荷物),furniture(家具),
     information(情報),hospitality(もてなし),
     rudeness(無礼),gravity(引力),など。

 名詞(N)の中で、世界中にたったひとつしかないなどユニ−クな存在
を示すものは「固有名詞」(proper noun)あるいは Npro と呼ばれます。
この固有名詞(Npro)は、書き言葉では常に大文字(cf.1-4)で書き始め
られます。さらに、固有名詞(Npro)以外の名詞(N)のうち、意味の
「境界線」がはっきりしていて数えられるものは「可算名詞」(countable 
noun)あるいは Nc、「境界線」がはっきりせず数えられないものは「不
可算名詞」(uncountable noun)あるいは Nu と呼ばれます。


 3-2 [固有名詞(Npro)vs 可算名詞(Nc)] 
 「固有名詞」(Npro)は、本来的には数えられない筈なのですが、一見
数えられるように見えることがあります。
   (4)  There are two Johns in our class.
      (我々のクラスにはジョンが二人います)
   (5)  The Bakers have two Volkswagens.  
      (ベ−カさんの家にはフォルクスワ−ゲンが2台あります)

 また、同じ名詞(N)が大文字でも小文字でも書き始められる場合があ
ります。このような場合には、大文字で表される方の名詞(N)はユニー
クで固有のものを表す固有名詞(Npro)で、小文字で表される方の名詞
(N)は一般的なものを表す可算名詞(Nc)です。

   (6) a. Mother(自分の母)      <Npro>
     b. a mother((一般に)母)   <Nc>
   (7) a. John(ジョン)        <Npro>
     b. the john(トイレ)      <Nc>
   (8) a. the God (神、創造主)    <Npro>
     b. a god(多神教の神、偶像)   <Nc>


 3-3 [可算名詞(Nc) vs 不可算名詞(Nu)] 
 可算名詞(Nc)は一般に具象的なものをさし、不可算名詞(Nu)は抽
象的なものをさすことが多いと言えますが、一番大きな違いは、前者は一
般に意味上その「境界線」がはっきりしていて「数えられ」(countable)、
後者はその「境界線」がはっきりせず「数えられない」(uncountable)と
いうことです。                                                   

 例えば、英語の世界では、poem は具体的な一遍の「詩」を表し、poetry
は集合的、抽象的な「詩」または「詩情」を表します。前者には、いわば、
「境界線」があり、ひとつ、ふたつと数えられるのに対し、後者にはその
「境界線」がなく数えられない、と多くの英語話者は感じているのです。

   (9) a. one poem(一編の詩)
     b. two poems(二編の詩)
   (10) a. *one poetry
     b. *two poetries

 したがって、英語の世界では poem は可算名詞(Nc)、poetry は不可
算名詞(Nu)ということになります。

 ただ、この「数えられる」という感覚は、英語とその他の言語の間でピッ
タリと完全に一致するわけではありません。例えば、英語では tear(涙)は
数えられるものとしてとらえられますが、他の言語を話す人々の間ではむ
しろ数えられないものとしてとらえられる方が一般的ですし、一方、news
(ニュ−ス)は英語では数えられないものとしてとらえられますが、他の
言語では必ずしもそうではないようです。


 3-4 [many +可算名詞(Nc) vs  much +不可算名詞(Nu)] 
 一般に可算名詞(Nc)は、その数が増え「多数の」となったときには
many + Nc という形をとり、一方、不可算名詞(Nu) が「多量の」と
なったときは much + Nu という形になります。次のように。

   (11) a. many cats(多数のねこ)
      b. many hospitals(多数の病院)
      c. many mountains (多数の山)
      d. many dishes(多数の皿)
   (12) a. much water(多量の水)
      b. much sugar(多量の砂糖)
      c. much knowledge(多くの知識)
      d. much furniture(多くの家具)

 ただし、可算名詞(Nc)が2つ以上のものを指す場合は、語尾に -(e)s
などを持つ「複数形」(plural form)となります。(cf. 7-2〜7-4)また、
複数形になる前の形を「単数形」(singular form)と呼ぶこともあります。
一方、不可算名詞(Nu)には、複数形は存在しません。


 3-5 [可算名詞(Nc)でもあり不可算名詞(Nu)でもあるもの?] 
 名詞(N)の中には、可算名詞(Nc)と不可算名詞(Nu)の両方に所
属するように見えるものもあります。

   (13) a. She showed me many kindnesses.  (Quirk p.286)
       (彼女は私にいろいろ親切にしてくれた)
      b. She showed me much kindness.
       (彼女は私にたいへんな親切心を示してくれた)
   (14) a. She was quite a beauty in her day.
       (彼女は若い頃とても美人であった)
      b. She had great beauty in her day.
       (若い頃の彼女にはたいへんな美しさがあった)
   (15) a. Two ice creams, please.  (Genius)
       (アイスクリームを2つ下さい)
      b. Two scoops of ice cream, please.
       (アイスクリームを2すくい下さい)
   (16) a. I always have a coffee at this time of the morning.
       (私はいつも朝この時間に一杯のコーヒーを飲む)
      b. I always have much coffee over the weekend.
       (週末はどうしてもコーヒーをたくさん飲んでしまう)

 どうやら、名詞(N)の中には、文脈によって境界線がはっきりとして
数えられるときと、境界線がはっきりせず数えられないときがあるものが
存在するようです。このような場合、この本では、ひとつの名詞(N)が
2つのグループ(Nc, Nu)に所属するのではなく、それぞれのグループ
に所属する同形の名詞(N)が2つある、と考えることにします。したがっ
て、(13a), (14a), (15a), (16a)  の下線部は可算名詞(Nc)、 一方、
(13b), (14b), (15b), (16b) の下線部は不可算名詞(Nu)ということに
なります。


 3-6 [不可算名詞(Nu)の慣用的複数表現] 
 不可算名詞(Nu)は数えないのが普通ですが、どうしても数えたいと
きには区切りの良い形にしたり、器に入れたりして、「境界線」をはっき
りさせた形で数えます。

  (i) 部分・断片
   (17) a. a piece/bit of [cake/paper/advice/furniture]
       (一片のケーキ/紙/忠告/家具)
      b. a drop of [water/dew/oil/vinegar]
       (一滴の水/露/油/酢)
      c. a grain of [sand/salt/rice]
       (一粒の砂/塩/米)
      d. a strip of [cloth/land/wood]
       (一片の細布/土地/材木)

  (ii) かたまり
   (18) a. a lump of [sugar/coal]
       (一塊の砂糖/石炭)
      b. a stick of [dynamite/chalk/celery]
       (一本のダイナマイト/チョーク/セロリ)
      c. a head of [cabbage/lettuce]
       (一個のキャベツ/レタス)
      d. a bar of [gold/soap/chocolate]
       (金/石けん/チョコレートの板一枚)

  (iii) 容器
   (19) a. a glass of [beer/milk/orange juice]
       (グラス一杯のビール/ミルク/オレンジ・ジュース)
      b. a cup of [tea/coffee]
       (コップ一杯のティー/コーヒー)
      c. a bottle of [wine/ champagne/ whisky]
       (ボトル一本のワイン/シャンパン/ウイスキー)
      d. a tube of [toothpaste/glue/paint]
       (チューブ一本の練り歯磨き/のり/絵の具)
      e. a spoonful of [honey/salad oil/sugar]
       (スプーン一杯の蜂蜜/サラダ油/砂糖)

   (iv) 尺度
   (20) a. a yard of [carpeting/ribbon]
       (1ヤードのカーペット/リボン)
      b. a pound of [butter/coffee/meat/flour]
       (1パウンドのバター/コーヒー/肉/粉)
      c. a quart of [milk/ice cream]
       (1クオートのミルク/アイスクリーム)
      d. an acre of [land/orchard]
       (1エーカーの土地/果樹園)

 この時、器や区切りの目安として使われる名詞とその後に続く名詞との
間にはある種の決められた(慣用的な)「連語関係」(collocation)があ
ることが多いようです。

   (21) a. a blade of grass
      b. *a sword of grass
       (草の葉一枚)
   (22) a. an ear of corn
      b. *a nose of corn
       (とうもろこしの穂一本)
   (23) a. a set of furniture
      b. *a team of furniture
       (家具一式)


 3-7 [可算名詞(Nc)の慣用的複数表現] 
 一方、そのままで数えられるはずの可算名詞(Nc)でも、それらをさら
にひとまとめにしたり、区切ったりして数えることもあります。

   (24) a. two cigarettes
       (タバコ2本)
      b. a pack of cigarettes
       (タバコ1箱)
   (25) a. two cards
       (トランプカード2枚)
      b. a deck of cards
       (トランプカード一式)

 この時もまた、前後2つの名詞の間にはある種慣用的な連語関係があり
ます。

   (26) a. a [crowd/*flock/*herd] of people(一群の人々)
      b. a [flock/*crowd/*herd] of birds (鳥の一群)
      c. a [herd/*crowd/*flock] of cattle(牛の一群)

 ただ、ここでひとつ大切なことは、可算名詞(Nc)の場合、of の後は
複数形になりますが、                         

   (27) a. two bunches of bananas(Nc)
       (2房のバナナ)
      b. two sacks of potatoes
       (2袋のジャガイモ)
      c. two sets of tires
       (タイヤ2組)
      d. two strings of pearls
       (真珠の輪2つ)

不可算名詞(Nu)の場合には、of の後が単数形のままであるということ
です。

   (28) a. two pieces of advice (Nu)
        (2つのアドバイス)
      b. two bottles of wine
       (ワイン2瓶)
      c. two gallons of gas
        (2ガロンのガソリン)
      d. two jars of honey
        (蜂蜜の瓶2つ)


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