第I章 基本6品詞


LESSON 4  主形態素──形容詞(A)

 4-1 [形容詞(A),名詞の拡充(A+N)] 
 主形態素の中には、色、形、大きさなどを表し、名詞(N)の状態を説
明する形態素のグループがあります。これらのグループは「形容詞」
(adjective)あるいは  と呼ばれます。例えば、次の下線部が形容詞
(A)です。

   (1)  big apple(大きなリンゴ)

 英語では、形容詞(A)はふつう名詞(N)の前につきその名詞を形の
上でふくらませます。これは形容詞(A)による名詞(N)の「拡充」の
例と言えます。上の big apple の例では、形容詞(A)の big  が名詞
(N)の apple を拡充し、より大きな名詞(N)句 big apple となって
いるわけです。

 いわば、

   (2)   (big apple)   [拡充]
          N
         / \
        A   N
       (big)  (apple)

      (この本の樹形図では、語としての名詞(N)と、句として
       の名詞(N)を区別せず、同じNであらわします。以下、
       他の文法カテゴリーも同様)


 4-2 [形容詞(A)の意味] 
 形容詞(A)には、次のような意味を表すものがあります。

  (i) 形を表す
   (3) round(丸い), square(四角の), oval-shaped(卵形の)など
  (ii) 色を表す
   (4) green(緑の), blue(青い), brown(茶色の), red(赤い),
     snow-white(純白の), transparent(透明の)など
  (iii) 大小を表す
   (5) big(大きな), short(短い), small(小さい),
     medium-sized(中サイズの)など
  (iv) 材料を表す
   (6) wooden(木製の), iron(鉄製の), plastic(プラスチックの)
     など
  (v) その他の状態を表す
   (7) liquid(液体の),rich(豊かな), young(若い), healthy
     (健康な), Japanese(日本の), broken(壊れた)など。

 4-3 [後置の形容詞(A)] 
 英語では、たいていの場合、名詞(N)を拡充する形容詞(A)は前置
されますが、次のような場合には後置されます。

   (i) 慣用的表現の場合
   (8) something nice
     (何かいいもの)
   (9) somebody clever
     (誰か賢い人)
   (10) the president-elect
     (大統領当選者)

   (ii) 長い形容詞(A)句の場合
   (11) a white house on the green hill
     (緑の丘の白い家)
   (12)  a book useful for our studies   (総覧、p107)
     (我々の勉強に役立つ本)

 ただし、前置、後置、両方で使われる形容詞(A)もあります。

   (13) a. the best person available
     b.= the best available person
       (今、手が空いている人で最上の人)
   (14) a. the time appointed
     b.= the appointed time
              (指定された時間)        (Quirk, p.418)


 4-4 [2つ以上の形容詞(A):A1−A2−N] 
 2つ以上の形容詞(A)が名詞(N)を拡充する場合には、ある種の順
序関係があるようです。

   (15) a. the big young man   (Lobeck, pp.153-154)
       (その大柄な若い男)
     b. *the young big man
   (16) a. a new German car
       (一台の新しいドイツ製の車)
     b. *a German new car
   (17) a. the great oaken table
       (その大きなオ−ク材のテ−ブル)
     b. *the oaken great table

 ただし、(15b)、(16b)、(17b) を可とする母語話者もおり、この順序関
係はゆるやかな制限と考えた方がよさそうです。

【教師用ノート】「4-4-NT[Ordering]
 4-5 [N?+N=N]   本来、名詞(N)である筈のものが、そのままである種の形容詞(A) として振る舞うように見えることがあります。名詞(N)+名詞(N)か らなる名詞(N)句の最初の名詞(N)がその例です。次の2つの下線部 に注目しましょう。    (18) a. a girl friend        (女友達)      b. a good friend        (良い友達) (18a) の girl は、(18b)の good と同様に機能しており、一種の形容詞 (A)と言えます。  この本では、名詞(N)が別の名詞(N)を拡充するという考え方をと りませんので、(18a) の girl は本来名詞(N)であるものが、いわば、 「ゼロ変化」() をもたらす転換子(CVT)(cf.8-6, OM-NI転換子の )によって一時的に形容詞(A)に変身したと考えることにします。し たがって、上記 girl friend の樹形図は次のようなものとなります。    (19)   (girl friend)           N          / \         A   N        / \ (friend)       N   CVT      (girl)  ()  この時の girl は、限りなく名詞(N)に近い形容詞(A)と言えるで しょう。  4-6 [形容詞(A)の2つの文法特性:形容詞(A)っぽさ]   形容詞(A)は、上のように (i) A+Nの形(Nの拡充)で使う用法が基 本ですが、多くの形容詞(A)には、さらに次のように、(ii) 動詞(V) 句の中の必須の要素(cf.5-2)として使う用法もあります。   (i) A+Nの形で    (20) a. a big house(大きな家)      b. a nice watch(すてきな時計)      c. a pink car(ピンクの車)   (ii) 動詞(V)句の中の必須の要素として    (21) a. The house is big.(その家は大きい)      b. The watch looks nice.(その時計はすてきだ)      c. They painted the car pink.(彼等は車をピンクに塗った)  たいていの形容詞(A)には上の2つの用法がありますが、(i) の用法 のみのもの(ex. utter)や (ii) の用法のみのもの(ex. asleep), (i) と (ii) で意味のことなるもの(ex. late)などもあります。    (22) a. John is an utter fool. (ジョンは全くのおバカさんだ)      b. *The fool is utter.    (23) a. *John smiled at the asleep baby.      b. The baby is asleep now. (その赤ん坊は今眠っている)    (24) a. The late king was very particular about tea.        (今はなき王様はお茶の好みがとてもうるさかった)      b. The king was late for the coronation.        (王様は戴冠式に遅れた)  数ある形容詞(A)の中には「形容詞っぽさ」(adjectivity)の度合い (gradience) に差が見られるものがある、と言えましょう。

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