第II章 文(S)


LESSON 9  文と呼応

 9-1 [文(S):(A)−N−V−(AD)] 
 おそらく、英語でもっとも一般的な文法カテゴリー(品詞)の組み合わ
せは次のような名詞(N)+動詞(V)の形でしょう。

   (1)   Cheerleaders cheer.(N+V)
       (チアリーダーたちは応援する)

 このようなN+Vの結びつきは、「〜が〜する」とか「〜が〜である」
といったまとまった意味を表し、「文」(sentence)あるいは  と呼ばれ
ます。英語では、文(S)のはじめは必ず大文字で書き表します。

 この組み合わせは、名詞(N)+動詞(V)のかたまり全体が名詞(N)
でもなく動詞(V)でもない全く別の文法特性を持つ意味のかたまり、文
(S)、となっていますので「転換」の例と言えます。

   (2)   (Cheerleaders cheer)   [転換]
            S
           / \
          N   V
      (cheerleaders) (cheer)

 また、上で、例えば、 cheerleaders(N) が拡充され  cheerful 
cheerleaders(A+N)にふくらんだり、cheer(V)が拡充され cheer 
cheerfully(V+AD) にふくらんだりすると、次のような新しい文が
生まれます。

   (3)  Cheerful cheerleaders cheer.  (A+N+V)
      (元気なチアリーダーたちは応援する)
   (4)  Cheerleaders cheer cheerfully.  (N+V+AD)
      (チアリーダーたちは元気に応援する)
   (5)  Cheerful cheerleaders cheer cheerfully.  (A+N+V+AD)
      (元気なチアリーダーたちは元気に応援する)

 上記(3)〜(5)の例文は樹形図で表すと次のようになります。

   (6)   (Cheerful cheerleaders cheer)
              S
             /  \
            N   V
           /  \ (cheer)
          A   N
       (Cheerful) (cheerleaders)

   (7)   (Cheerleaders cheer cheerfully)
              S
             /  \
            N   V
       (Cheerleaders) / \
              V   AD
            (cheer) (cheerfully)

   (8)   (Cheerful cheerleaders cheer cheerfully)
                S
             /     \
           N         V
         /  \      /  \
        A     N    V    AD
    (Cheerful) (cheerleaders) (cheer) (cheerfully) 


 9-2 [2つの時制:現在形と過去形] 
 いったん、名詞(N)のグル−プと動詞(V)のグル−プがつながって
ひとつの文(S)となると、その動詞(V)は必ず「現在形」(present 
form)「過去形」(past form)のどちらかの形となります。

 つまり、ある動詞(V)が「〜をする」とか「〜である」など現在の動
作や状態などを表す時、その動詞(V)は現在形となり、「〜した」とか
「〜であった」など過去の動作や状態などを表す時は過去形となるのです。
次の例では、(9a) と (9b)の下線部が現在形。(10a) と (10b) の下線部
がそれぞれそれらに対応する過去形です。

  (i) 現在形
    (9) a. John works hard.
       (ジョンはよく働く)
      b. John is sick.
       (ジョンは病気です)

  (ii) 過去形
   (10) a. John worked hard.
       (ジョンはよく働きました)
      b. John was sick.
       (ジョンは病気でした)

 もちろん、我々は実生活の中では、「過去−現在−未来」といった時の
流れの中で生きています。ただ、英語という言語システムの中の動詞(V)
には、「現在−過去」という2つの時制形式しかない、というのが現実な
のです。

【教師用ノート】「9-2-NT[2つの時制]
 9-3 [呼応]   英語の動詞(V)の現在形と過去形をいろいろくわしく調べてみると、 それらは単に「現在−過去」といった「時制」の意味を表すだけではない、 ということに気付きます。それらはその前の名詞(N)の人称、数の影響 を受けて形を変えるのです。しかもその影響の受け方は、一般動詞(Vcom) と BE動詞(Vbe)ではだいぶ趣が異なるのです。   (i) 一般動詞(Vcom)    a) 現在形     (11) a. He works hard.  (彼はよく働く)        b. They work hard.  (彼等はよく働く)    b) 過去形     (12) a. He worked hard.  (彼はよく働いた)        b. They worked hard. (彼等はよく働いた)   (ii) BE動詞(Vbe)    a) 現在形     (13) a. I am sick.    (私は病気だ)        b. You are sick.   (あなたは病気だ)        c. He is sick.    (彼は病気だ)    b) 過去形     (14) a. I was sick.    (私は病気だった)        b. You were sick.  (あなたは病気だった)        c. He was sick.   (彼は病気だった)  一般動詞(Vcom)は、直前の名詞(N)の性質(人称、数)に合わせて 2種類の現在形(上の例では、works, work)と1種類の過去形(worked) を持ちます。一方、BE動詞(Vbe)は、"be〜"という形がもとの形ですが、 直前の名詞(N)に合わせて3種類の現在形(am/is/are〜)と2種類の過 去形(was/were〜)を持ちます。  このように動詞(V)が時制やその前の名詞(N)の人称、数に合わせ て形を変えることを「呼応」(agreement)と呼びます。
【教師用ノート】「9-3-NT[呼応(agreement)]
 9-4 [一般動詞(Vcom)の2つの現在形]   一般動詞(Vcom)の現在形には、上の work のように動詞本来の形と、 works のようにそれに-(e)s をつけた形の2種類があります。これは同じ 現在形でも、一般動詞(Vcom)の場合、その前にくる名詞(N)が3人称 で単数であるとき、その動詞に-(e)sをつけた形、「3人称単数の現在形」 (3rd-person-singular present form)をとり 、    (15) a. He works hard.   (Nは3人称で単数−男性)        (彼はよく働く)       b. She works hard.  (Nは3人称で単数−女性)        (彼女はよく働く)       c. It works hard.   (Nは3人称で単数−中性)        (それはよく働く) 一方、一般動詞(Vcom)の前にくる名詞(N)がそれ以外の人称、数の 時、この -(e)s はつけない、という呼応の習慣があるからです。    (16) a. I work hard.    (Nは1人称で単数)        (私はよく働く)       b. We work hard.    (Nは1人称で複数)        (我々はよく働く)       c. You work hard.   (Nは2人称で単数あるいは複数)        (あなた/あなたがたはよく働く)       d. They work hard.   (Nは3人称で複数)        (彼等はよく働く)  これを別の観点でみれば、文(S)の中で一般動詞(Vcom)が現在 (present)を表すとき、その動詞(V)には「V拡充子{呼応}」(V EPD {Agreement})あるいは AGR のうち、{現在}(present)を表す PRS がつき、このいわば「V拡充子{呼応(現在)}」(V EPD {Agreement (Present)}) PRS がその前の名詞(N)に応じて-(e)s か か、ど ちらかをその動詞(V)に付加するというふうに考えられます。つまり、      <一般動詞(Vcom)の現在(PRS)形>    (17) PRS  + Vcom   -(e)s/ + Vcom 具体的には、(15a)〜(15c)の worksと、(16a)〜(16d)の workの樹形図は、    (18)  (works)       (19)  (work)          V             V        /   \         /   \      EPD[AGR]   V      EPD[AGR]   V      (PRS=-s)  (work)     (PRS=)  (work)  この時、PRSは「Vの意味が現在」ということだけでなく「その前の名詞 (N)の人称、数は ...」といった情報も運んでいることに注意しましょ う。
【教師用ノート】「9-4-NT[PRS+Vcom]
 9-5 [一般動詞(Vcom)のひとつの過去形]   一般動詞(Vcom)が「過去」を表す時は、それに先立つ名詞(N)の 人称、数に関係なく1種類の過去形をとります。    (20) He/They worked hard.       (彼/彼等はよく働いた) 上で、過去形を表す -ed は動詞(V)を拡充する「V拡充子{呼応)}」 (V EPD {Agreement})の AGR と考えられます。「過去」(past)を表す このいわば「V拡充子{呼応(過去)}(V EPD {Agreement(Past)})PST で表すと、(20)の樹形図は、    (21)  (He/They worked hard)             S           /    \          N      V          |     /  \          |    V   AD          |   / \   |          | EPD[AGR] V |       (He/They)(PST=-ed)(work)(hard)  一般動詞(Vcom)の過去形は、一般に -(e)d をつけて作りますが、 cut - cut, go-went のように例外的変化をするものもあります。    (22)  Two students cut/*cutted class yesterday.        (昨日2人の学生が授業をサボった)    (23)  John went/*goed there.        (ジョンはそこへ行った)  このような場合、それぞれの樹形図は、    (24)   (cut)          V        /   \      EPD[AGR]   V      (PST=)   (cut)    (25)   (went)          V        /   \      EPD[AGR]   V    (PST=go→went)  (go)  したがって、一般動詞(Vcom)につく{呼応(過去)}の拡充子 PST の働きをまとめると、次のようになります。      <一般動詞(Vcom)の過去(PST)形>    (26) PST  +  Vcom a) -(e)d + Vcom                   b) + Vcom                   c) go → went                   d) その他  9-6 [BE動詞(Vbe)の3つの現在形]   一方、BE動詞(Vbe)の現在形は、その前の名詞(N)の人称、数に呼 応して、 その動詞化子(VZ)の be が am, is, are のどれかとなります。    (27) a. I am on a diet.(Nが1人称単数のとき)        (私はいまダイエットをしている)       b. You are on a diet.    (2人称単数)        (あなたはいまダイエットをしている)       c. He is on a diet.     (3人称単数)         (彼はいまダイエットをしている)       d. We are on a diet.    (1人称複数)        (我々はいまダイエットをしている)       e. You both are on a diet. (2人称複数)        (あなたがたふたりはいまダイエットをしている)       f. They are on a diet.   (3人称複数)        (彼等はいまダイエットをしている)  動詞(V)部分の樹形図は、    (28)  (am on a diet)           V          /  \       EPD[AGR]  Vbe        (PRS)  (be on a diet)    (29)  (is on a diet)           V          /  \       EPD[AGR]  Vbe        (PRS)  (be on a diet)    (30)  (are on a diet)           V          /  \       EPD[AGR]  Vbe        (PRS)  (be on a diet)  つまり、      <BE動詞(Vbe)の現在(PRS)形>    (31) PRS + Vbe am/is/are 〜  9-7 [BE動詞(Vbe)の2つの過去形]   また、BE動詞(Vbe)の過去形は、その前の名詞(N)の人称、数に呼 応して、その動詞化子(VZ)の be が was, were のどちらかになります。    (32) a. I was on a diet.(Nが1人称単数のとき)        (私はダイエットをしていました)       b. You were on a diet.    (2人称単数)        (あなたはダイエットをしていました)       c. He was on a diet.     (3人称単数)        (彼はダイエットをしていました)       d. We were on a diet.     (1人称複数)        (我々はダイエットをしていました)       e. You both were on a diet.  (2人称複数)        (あなたたちは二人ともダイエットをしていました)       f. They were on a diet.    (3人称複数)        (彼等はダイエットをしていました)  動詞(V)部分の樹形図は、    (33)   (was on a diet)   (34)  (were on a diet)           V              V          /  \           /  \       EPD[AGR]  Vbe        EPD[AGR]  Vbe       (PST)  (be on a diet)    (PST)  (be on a diet)  つまり、      <BE動詞(Vbe)の過去(PST)形>    (35) PST  + Vbe was/were  〜  なお、BE動詞(Vbe)の過去形はすべて、 その動詞化子(VZ)が w−で 始まることに注目しましよう。さらに、w +is→was、w +are → were、 とスペリングは異なりますが、音はよく似ています。    (36) a. w- + is → was       b. w- + are → were  ただ、どういうわけか、w +am という形は認められていません。       c. w- + am → *wam  9-8 [まとめ:文(S)]   このように、一般動詞(Vcom)の現在形はその前の名詞(N)の人称、 数に呼応して2種類の形、つまり、-(e)s形または形をとり、その過去 形はその前の名詞(N)の人称・数に関係なく1種類、つまり、-(e)d形 などをとるのです。一方、BE動詞(Vbe)の場合は、その動詞化子 be は 3種類の現在形(am, is, are)と2種類の過去形(was, were)をとるの です。  これら動詞(V)の呼応は、{呼応}の拡充子、PRS/PST、によって引 き起こされると考えられますが、この拡充子の働きをまとめると、次のよ うになります。   (i) 一般動詞(Vcom)の呼応(AGR + Vcom)     a) 現在形(PRS + Vcom)      1) 先行する名詞(N)が3人称で単数(he,she,itなど)のとき    (37) a. PRS +Vcom  -(e)s + Vcom  (ex.works/goes)      2) 先行する名詞(N)がそれ以外のとき、    (37) b. PRS +Vcom   + Vcom   (ex.work/go)     b) 過去形(PST + Vcom)       先行する名詞(N)の人称・数に関係なく、    (38) PST +Vcom -(e)dなど+Vcom  (ex.worked/went)   (ii) BE動詞(Vbe)の呼応(AGR + Vbe)     a) 現在形(PRS + Vbe)      1) 先行する名詞(N)が1人称で単数(I)のとき、    (39) a. PRS + Vbe am 〜      2) 先行する名詞(N)が3人称で単数(he/she/itなど)のとき、    (39) b. PRS + Vbe is 〜      3) 先行する名詞(N)がそれ以外のとき、    (39) c. PRS + Vbe are 〜     b) 過去形(PST + Vbe)      1) 先行する名詞(N)が1人称で単数(I)か3人称で単数       (he,she,itなど)のとき、    (40) a. PST + Vbe was 〜      2) 先行する名詞(N)がそれ以外のとき、    (40) b. PST + Vbe were 〜  つまり、英語では名詞(N)と動詞(V)が組み合わせられると、その 動詞(V)は、一般動詞(Vcom)であれBE動詞(Vbe)であれ、必ず PRS +V か PST + Vの形となるということになります。  樹形図にすると、    (41)   S        / \       N   V          / \        EPD[AGR]  V       (PRS/PST)  しかも、このV拡充子の PRS/PST が、(i){過去}あるいは{現在}の 意味を加えるだけでなく、(ii)先行する名詞(N)の人称、数を反映して、 -(e)s、、-(e)d などの付加や、be → am、go → went などの変化を引 き出すのです。

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