第II章 文(S)


LESSON 10  動詞型

 10-1 [3動詞型] 
 動詞(V)には、ひとつの語でそれ自体意味的にまとまっているものと、
つねにいくつかの語を組み合わせることによってはじめて意味的にまとま
り、動詞(V)として完成するものとがあります。次の例を見てみましょ
う。

   (1)  A full moon rose.
      (満月が昇った)
   (2)  a. *I have.
       b. I have a headache.
      (私は頭痛がする)

 上で、(1)のrose は意味的に完結しているため、そこで文を終えること
ができますが、(2a)の have は(2b)のように「何を」の部分を補わない限
り意味的に完結しているとは言えず、したがってそこで文を終えることが
できません。つまり、 rose は単独で動詞(V)と呼べるのですが、have 
は単独では動詞(V)と呼べません。そこでこの本ではこの have のよう
な未完結の副形態素を「動詞化子」(Verbalizer, VZ)と呼ぶことにしまし
た。(cf.5-2)

 さらに、動詞化子(VZ)の中には常にその後に、ひとつではなく2つの
語や句を従えないと完成しないものもあります。

   (3) a. *I gave.
     b. *I gave her.
     c. I gave her a doll.
       (私は彼女に人形をあげた)
   (4) a. *He put.
     b. *He put a kettle.
     c. He put a kettle on the fire.
       (彼はヤカンを火にかけた)

 これをまとめると、英語の動詞の型、つまり「動詞型」(verb pattern)
には次の3つがあることになります。

     <3動詞型>
   (5) a. V      (0 slot)  (ex. rise)
     b. VZ +X   (1 slot)  (ex. have+X)
     c. VZ +Y+Z (2 slots)  (ex. give+Y+Z)


 10-2 [7動詞型] 
 10-1 でまとめた3つの動詞型をさらにくわしく調べてみますと、(5c)の
Yはつねに名詞(N)であることがわかります。一方、(5b) のXと (5c)
のZはそれぞれ名詞(N)、形容詞(A)、副詞(AD)のうちどれにも
なることができます。したがって、上の3動詞型は次のような「7動詞型」
(seven verb patterns)に改良されうるということになります。

     <7動詞型>



 10-3 [樹形図] 
 (6a)〜(6g)の樹形図は、それぞれ次のようになります。

   (7)   (rose)
         V1
         |
         V
        (rose)

   (8)   (have a bad headache/became a pianist)
           V2
          / \
       CVT[VZ]  N
     (have/became) (a bad headache/a pianist)

   (9)   (looks happy)
           V3
          / \
       CVT[VZ]  A
       (looks)  (happy)

   (10)   (live in Boston)
           V4
          / \
       CVT[VZ]  AD
       (live)   (in Boston)

   (11)   (gave her a doll/called it Blacky)
           V5
         /  |  \
      CVT[VZ]  N   N
   (gave/called) (her/it) (a doll/Blacky)

   (12)   (found the room empty)
           V6
         /  |  \
      CVT[VZ]  N   A
      (found) (the room) (empty)

   (13)   (put it over here)
           V7
         /  |  \
      CVT[VZ]  N   AD
       (put)   (it)   (over here)

 10-4 [多芸の動詞化子(VZ)] 
 一見同じに見える動詞化子(VZ)でも、その意味が異なれば2つ以上の
動詞型を持つことになります。

   (14) a. Mary kept a diary.    (VZ+N)
       (メアリーは日記をつけた)
      b. Mary kept quiet.     (VZ+A)
       (メアリーは静かにしていた)
      c. Mary kept her room neat and tidy. (VZ+N+A)
       (メアリーは自分の部屋をこぎれいにしていた)
      d. Mary kept her jewelry in a cookie jar. (VZ+N+AD)
       (メアリ−は宝石をクッキージャーに入れていた)

 上の(14a)〜(14d) でもわかるように、keepには、keep1(〜をつける), 
keep2(〜の状態のままである), keep3(〜を〜の状態に保つ), keep4
(〜を〜の場所に保管する)と4つの意味を表すものがあり、その意味に
応じて4つの動詞型が存在すると考えられるわけです。

 類例をもうひとつ。

   (15) a. Nobody could read and write there.    (V)
       (そこでは誰も読み書きができなかった)
      b. Do you often write home?         (V)
       (時々家へ手紙を書きますか)
      c. The child wrote a big "M" on the road.  (VZ+N)
        (その子は道路の上に大きなMの字を書いた)
      d. This pen writes well.           (VZ+AD)
        (このペンは良く書ける)


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