第IV章 文(S)の拡充


LESSON 17  強調文:EMPH-S

 17-1 [基本文(K-S)と強調文(EMPH-S)] 
 文(S)もまた意味と形の上でふくらみ、また別の文(S)になること
があります。次の (1a), (1b), (2a), (2b) はすべて文(S)ですが、

   (1)a. John is a vegetarian.
      (ジョンは菜食主義者です)
     b. John IS a vegetarian.
      (ジョンは菜食主義者なんですよ、ホント)
   (2)a. John likes onions.
      (ジョンは玉ねぎが好きだ)
     b. John DOES like onions.
      (ジョンは本当に玉ねぎが好きです)
     (上で IS, DOES のように大文字で表示された部分は、「音の
      高低の急激な変化」、つまり、「アクセント」(accent)が
      置かれることを意味します。以下同じ。)

(1b)、(2b)は、それぞれ(1a)、(2a)から生まれ、それぞれの文全体を意味
の上で強調した文と言えます。この本では、(1a)、(2a)のように{強調}
など新しい意味が加えられ変化する前の基本的な文を「基本文」(kernel 
sentence)、あるいは K-S と呼ぶことにします。また、(1b)、(2b)のよう
な、ある文全体を強調した結果新しく生まれた文を「強調文」(emphatic 
sentence)、あるいは EMPH-S と呼びます。

 したがって、(1a)から (1b)へ、(2a)から (2b)への変化は次のような図
式で表せることになります。

   (3) {強調} + 基本文(K-S)  強調文(EMPH-S)


 17-2 [樹形図] 
 この時、基本文(K-S)に{強調}の意味を加え強調文(EMPH-S) にふくら
ます働きをしているのはアクセント(accent)です。このアクセントは、文
(S)という文法特性を変えずにその意味をふくらませる働きをしていま
すので、一種のS拡充子と考えられます。したがって、 このアクセント
(accent)を「S拡充子{強調}」(S EPD {Emphasis})、あるいは EMPH
と表すと、上記の(1b) や (2b)のような強調文(EMPH-S)の樹形図は次の
ような形となります。

   (4)    EMPH-S
        /    \
     EPD[EMPH]   K-S
     (accent)


 17-3 [EMPH の操作] 
 基本文(K-S)は{強調}のS拡充子 EMPH によって、決められた手順
に従いアクセントを持つ強調文(EMPH-S)に変わります。ただ、この EMPH 
が引き起こす決められた手順には、 実は、文中の動詞(V)の種類に応
じて2種類のものがあります。ひとつは、(1b)のように (i) DO/DOES/DID
を含まない「−DO型」(-DO Type)と、もうひとつは (2b)のように (ii) 
DO/DOES/DID を含む「+DO型」(+DO Type)です。

 つまり、S拡充子 EMPH は、文中の動詞(V)の形に応じて次のように
働くのです。

   <EMPH の操作>
  (i) -DO型:PRS/PST に直接続く要素が、一般動詞(Vcom)以外の場合
       つまり、BE動詞(Vbe)またはMOD、PERFなど任意のV拡充子
       である場合、
      Step 1: PRS/PST にアクセントを置く。
 (ii) +DO型:PRS/PST に直接続く要素が、一般動詞(Vcom)である場合
      Step 1:PRS/PST とVcomとの間に do を挿入する。
      Step 2:PRS/PST にアクセントを置く。

 (i)型の(1a)、(ii)型の(2a)が、EMPH によって(1b)、(2b)へと変化して
いく様子を具体的に示すと、それぞれ次のようになります。

  (i) −DO型
  (5)  EMPH +[John +  PRS +  be a vegetarian]
            ↓Step 1
        [John +  PRSaccent + be a vegetarian]
            ↓
        [John  IS a vegetarian]

  (ii) +DO型
  (6)  EMPH +[John +  PRS +  like onions]
            ↓Step 1
        [John +  PRS + do + like onions]
            ↓Step 2
        [John +  PRSaccent + do + like onions]
            ↓
        [John +  DOES  + like onions]

 結局、EMPH の働きは、基本的には「PRS/PSTにアクセントを置く」、と
いう操作にほかなりません。ただ、基本文(K-S)の動詞がBE動詞(Vbe)
など一般動詞(Vcom)以外のものの場合と、一般動詞(Vcom)の場合と
で、作られる強調文(EMPH-S)は DO/DOES/DID を持たない−DO型と、DO/
DOES/DID を持つ +DO型の2種類にわかれる、ということなのです。


 17-4 [オペレーター(operator)] 
 この時、 EMPH によってアクセントを持つようになった語を「オペレー
ター」(operator)と呼びます。上の(5)の IS や(6)の DOES がオペレー
ターということになります。更に、次の(7)〜(14) の ARE, SHOULD, HAS, 
IS, WAS, DO, DOES, DID もすべてオペレーターです。

  (i) −DO型
   (7)  We ARE friends.
     (オレたち友達。これホント)
   (8)  You SHOULD take this medicine.
     (あなた、ぜ〜ったいこの薬飲むべき)
   (9)  The typhoon HAS gone.
     (ホント、台風行っちゃった)
   (10)  Dad IS doing the dishes.
     (父さん確かに今皿洗いしてます)
   (11)  My wallet WAS stolen.
     (オレの財布、本当に盗まれたんだってば)

  (ii) +DO型
   (12)  We DO go to school on Saturdays.
     (土曜日に学校、ありますよ)
   (13)  This mustard DOES work.
     (キクーッ、このカラシ)
   (14)  The president DID take dirty money.
     (あの大統領本当にもらったんだよ、袖の下)

 もちろん、このオペレ−タ−は直前の名詞(N)の数、人称、時制に呼
応します。例えば、(7) と (12) の場合は次のように。

   (15)  We + PRSaccent + be friends
       → We ARE/*WERE/*AM friends.   (=7)
   (16)  We + PRSaccent + do + go to school on Saturdays.
       → We DO/*DOES/*DID go to school on Saturdays. (=12)

 英語では基本文(K-S)が否定文(cf.18-1〜)や疑問文(cf.19-1〜)
に変わるときなどにもこのオペレーターが重要な役割を果たします。


 17-5 [EMPH の作用域:全文強調と語句強調] 
 次の(17a)は、文全体が丸ごと強調された強調文(EMPH-S)です。ただ
し、次の(17b)や(17c)のような、文の一部を強調した形とは異なりますの
で区別する必要があります。

   (17)a.  Mary DID write to John yesterday.
      (メアリーは昨日、本当にジョンに手紙書きましたよ)
     b.  Mary WROTE to John yesterday.
      (メアリーが昨日ジョンにしたのは、手紙を書くことでした)
     c.  Mary wrote to JOHN yesterday.
      (メアリーが昨日手紙を書いた相手はジョンでした)

 (17a) は、I DIDN'T write to John. という文(S)と対比する形で文
(S)全体が強調されています。一方、(17b)では、例えばCALLED, E-MAILED
など別の動詞(V)と対比する形で WROTE が強調されており、(17c)では、
例えば、to JOE やto MAX と対比する形で to JOHN が強調されているので
す。言い換えれば、(17a) では EMPH は文(S)全体を作用域としている
のに対し、(17b) や (17c) では、 write という動詞(V)や to John と
いう副詞(AD)句のみを作用域としているのです。

 樹形図にすると、この違いがはっきりとします。

   (18)  (Mary DID write to John yesterday)
        EMPH-S
        /  \
     EPD[EMPH] K-S
      (accent) (Mary wrote to John yesterday)

   (19)  (Mary WROTE to John yesterday)
         S
        /  \
       N      V
      (Mary) / \
        EPD[AGR]  V
         (PST)  / \
           V     AD
          / \   (to John yesterday)
        EPD[EMPH] V
        (accent) (write)

   (20)  (Mary wrote to JOHN yesterday)
         S
        /  \
       N      V
      (Mary) / \
        EPD[AGR]  V
         (PST)  / \
           V     AD
          (write) / \
             AD  AD
             / \ (yesterday)
         EPD[EMPH]   AD
          (accent) (to John)

 この時、(18)の EMPH はS拡充子、(19)、(20)の EMPH はそれぞれV拡
充子、AD拡充子ということになります。


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